21 まものがあらわれた
村から出てキメラがいるという森へ向かう途中の草原。
「あ、魔物だ! おいディマス! 魔物がいるぞ!」
イブリンは興奮した様子でタコのような物体に指差した。
このタコの大きさはステラの腰くらいの高さくらいかな。
胴体とも頭とも言える部分には透き通った宝石のようなものがついている。その宝石に見えるものは魔石と呼ばれるものだ。
「今は急いでるんだ、そんな雑魚で危険性の少ない魔物は放置だ」
「ファイアボール!」
イブリンはディマスの命令を無視し、魔物へ向かって火の球を飛ばした。
直撃した魔物は黒い靄を出しながら完全に蒸発し、魔石だけを残した。
「綺麗に燃えたな! お、向こうにもいるぞ! ファイアボール、ファイアボール」
イブリンは目に入る魔物を見つける度に火の球を飛ばしていく。ファイアボールと連呼してるけどわざわざ声に出さないと発動しないのか?
腕相撲の時の身体強化は声を出してなかったと思うけど、何故だろう?
「おいおいおいおい、魔力がもったいないだろ! オクパスなんて雑魚の魔物なんか無視しろ」
ディマスはイブリンの頭を軽く叩いた。
「痛っ、何を言う。奴らは魔物だぞ、倒さねばならんし落とす魔石は金になる。放置する理由なんかないだろ!」
魔石は売れるようだ。昨日森で倒した魔物の魔石を回収しとけば良かったなぁ。
「今は急いでいるんだよ! お前も分かってるだろ。あんなのは放置しても問題ない!」
「痛っ、叩くな! だが、倒したい!」
「駄目だ、草原も燃えてるじゃねぇか。魔物よりお前の方が危険だ馬鹿野郎!」
ディマスはまたもイブリンの頭を叩いた。
何度もイブリンを叩くディマスを見てステラは不快に思ったようだ。
(デシリア、お願いだけどディマスさんの暴力を注意して!)
私にはイブリンの表情がそこまで嫌がってない様に見えるのでステラの頼みを渋ると、ステラは自分で注意すると言い出して来たので仕方なく交代した。
「ディマスさん! 暴力は駄目です!」
「え? お、おう。だがこいつにどうやって言い聞かせろと?」
ディマスは戸惑う。イブリンは助け舟が来たのに不快な顔を見せた。
「でもすぐ暴力に頼るのはやめた方がいいと思います!」
それでもステラは暴力は駄目だと通した。
ディマスが困惑してると横からイブリンはステラに怒鳴った。
「コッテンは黙っていろ!」
予想外の反応にステラはビクッとし、困惑した。
イブリンの反応を見るに叩かれることを気にしていないように見える。
(あ、あれ? 私何も悪くないよね?)
ステラは自身の行いが間違ってないか私に確認する。
(イブリンにとっては何故か都合が悪いんでしょ、よく分からないけど)
(イブリン嫌がってたから、力になろうと思って言ったのに……)
落ち込んだステラは私と体を交代し、中に引き籠った。
その後、イブリンは強く言い過ぎたと反省し謝って来た。
「強く言って悪かったな。確かにコッテンの言ってることは正しい。だからディマス、私以外にはやるなよ?」
イブリンは本当は叩かれたいのかもしれない。
「あ、ああ。というかお前以外に叩くこともあんまりないぞ」
ディマスは呆れながらもそう答えた。
話が終わるとイブリンは周囲を見回し始めた。
「お、あっちにも魔物がいるぞ! ファイアボ……ってディマス何をする! 離せ!」
ディマスはイブリンを肩に担ぎ、魔術の発動を阻止する。
「急いでるっていっただろ! 行くぞ」
ディマスはイブリンと共に森の方に駆けだした。
「あ、待て、火を消したいから降ろせ!」
しかしディマスは降ろさないし止まらない。その状態でどうにかしろとイブリンに命令した。
「むぅ、仕方ない。レイニーバレット、ウォーターボール!」
イブリンは不満そうな顔で声を出し魔術を放って行く。
手の平から雨の様に大量の水滴と、人の頭ほどの水の球を飛ばし、火を消していく。
やっぱり魔術って声に出さないといけないルールでもありそうだ。
魔法を使う時は魔術に偽装して使うとしよう。
でも存在しない魔術を使っちゃマズイだろうから、できるだけ知ってる魔術の名称だけでやらないといけないな。
「コッテン! 魔石を回収しろ!」
「え? あ、はい」
抱えられたままのイブリンに強く命令された。
私は魔石を回収するために焼け跡に向かう。
黒く焼け焦げた場所には宝石のようにきめ細やかに光を反射する透明な魔石が落ちていた。
昨日森の魔物を倒した時は得体が知れないから怖くて放置してきたけど、回収を頼まれたので触っても大丈夫なのだろう。
私は魔石を拾い上げると、透明な魔石を通して空を眺める。
空は少し紫がかっていて神秘的で、でも不安を感じさせる。
もう少し眺めていたいけどのんびりとしてる余裕はないので数秒ほどで魔石をローブのポケットに仕舞う。
他の円形に焼けた場所にも足を運び全て回収完了。
ディマス達の向かった方向を見るとフェリクスが私を待っていた。
私はそこへ戻ろうとした時、背後から気配がした。
振り向くと黒い霧状のものが集まって形を成していくのが目に入った。
そしてそれは先ほど見たタコのような魔物と同じ姿となった。
 




