141 意味の無い抑止力 2
レイラは嫌な予感がしたが、脅せば大丈夫と自分に言い聞かせる。
「何をいってるの? 私に手を出したら分かってるんでしょうね?!」
「ああ、分かってるさ。私はとっくにステラなんかどうでもいいと思っていてな、お前をぶちのめしたくなった」
本気でそう思ってはいないが、脅しが効かないことを示すためにあえてそう告げた。
レイラはオリベルが来ることを願うもののそれが叶わないことが知るのは大分あとになる。
守るものがいないレイラの頬にミレラの手が触れた。
「ひっ……ス、ステラだけじゃないわよ。あんただってどうなるか――」
レイラは言葉で抵抗するものの頬を軽く叩かれた。痛みに頬を抑える。
「私にどうにかしようとして失敗したからこうなってるんじゃないのか?」
ミレラは再び手を振りレイラの頬を軽く叩くと、軽く叩いたとは思えないほどにレイラの表情が歪んだ。
当然だ。ミレラが普段相手にしてる者はこの程度では触れた程度にしか感じない者ばかりだ。つまりミレラとしてはかなりの手加減をしたつもりなのだ。
(もうちょっと弱い方がいいか? いや、これくらいでいいか)
ミレラとしては鬱憤を晴らすには物足りないが、命を奪うつもりはなく、生き地獄を味わわせ歯向かう気力を奪えればいいと考える。
ぶつために手を構えようとするとレイラは許しを請い始めた、早口で。
「ご、ごめんなさい。もうステラには手を出さないしあなたにも何もしないから許してください」
「やはりお前が黒幕だったんだな」
構わず叩きこむ。小石のようなものが床をパチンパチンと跳ねた。レイラの歯だ。直後に彼女の悲鳴が部屋中に反響した。
(くそ、脆すぎる。うっかり殺してしまったらまずいな)
ミレラは試しに、とある魔法を使うことを思いつく。怪我をさせず、命を奪わない攻撃系の魔法。
まずはレイラの足首に触れその魔法を発動した。
「きゃあっ!!」
痛みだけを与える魔法。ミレラが普段相手にするような身体能力に補正の掛かった冒険者やキメラには効果が薄いが、大した補正の無さそうなレイラには効果があると判断した。
(かなり効いてるな。これでいくか)
レイラは体をビクンと震わせた。しかし頬を叩かれたほどの痛みはない。それでもレイラにとっては苦しいものだった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、助けて助けて助けて……」
体を丸めて本能的に防御の体勢を取る。
「安心しろ、お前の仲間と違って殺すつもりはない」
ミレラは次は肩に、より強く発動した。
「きゃああぁぁっっ」
激痛から逃れたいレイラはフラフラしながらも出口へ向け逃げ出すがミレラにすぐに回り込まれた。
「私から逃げられるわけないだろ。せっかくだから楽しんでおけ、お前の人生にとっていい経験になるぞ」
「いや、いやああああああああああ」
その後も、ミレラは色々な体の部位に触れ痛みを与えていった。
徐々に威力を強めていき、レイラは吐いたり気が狂うほどの苦痛を何度も受けた。
少しの間ではあったが永遠にも感じるような地獄を味わった後、ようやく解放された。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「今日はこのくらいにしていてやる。明日もまた来るからオリベルとやらを用意しておけよ。お前を守る者が私の前ではいかに無力なのかを思い知らせてやる。もし明日オリベルがいないなら今日と同じ地獄を味わわせてやるからな。もし勘弁して欲しいならステラを家に連れ戻せ」
ミレラは堂々と出口から出て行った。
残されたレイラは痛みで支配されていた感覚が消えたことに安堵し、しばらくは疲弊した心を落ち着かせるために横になったまま何もせずにいた。
徐々に落ち着きを取り戻すと上半身を起こした。
落ち着いた頭で周囲を見渡すとレイラを守ろうと戦ってくれた護衛達が転がっていた。
さっきまで動いていた人達。寝てるのとは違って呼吸のためのわずかな動きもない。
完全な静寂を不気味に感じたレイラは思わず吐いた。
冒険者ギルドへ連れていけばどうせ生き返ると分かっていても、その姿は怖かった。
「どうしよう。もしオリベルが負けたら私、ずっとあんな思いしなきゃいけないの?」
オリベルが負けるはずがないという自信は、その身に降りかかった災いによって容易く打ち砕かれていた。
もうあんな辛い思いはしたくない。万が一だろうと起こり得るなら避けたい。
そしてこのことを忘れないように、刻まれた心の傷は戒めとして残そうと誓った。
それとミレラを刺激しないようにするために警察に届け出ないことを決めた。
「そ、そうよ、簡単な事だわ。ステラが無事に戻ればいいのよ。もうセシルなんかどうでもいい。オリベルが来たらステラを連れ戻すように指示を出さなきゃ」
しかし指示を受けてくれるオリベルはもう戻ってこない。
そのためレイラはしばらくの間、ミレラに見つからないように普段使わない方の自宅へ引きこもり、怯える日々を過ごした。




