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19 何を食べたら口から良い香りを出せるのだろうか?

 イブリンはひじを机に乗せ準備万端だ。

 私も肘を乗せ、イブリンの手を握ると彼女は説明を始めた。


「相手の手のここを、えーとここ……なんだっけ、とりあえずここを机に押し付けると勝ちだ」


「そこは手の甲」


「そうとも言うな。ちょっとど忘れしてただけだ、知っているぞ。本当だぞ?」


「それで、何回勝負? 1回勝てばいいの?」


「力と力を競う勝負なんて男がやるものだ。だから男らしく1回で勝敗を決めるぞ」


「女なんだけど……」


「何を言っている、私だって女だ。だから女らしく1回で決めるぞ」


 どっちにしても1回の様だ。


「じゃあ始めるかコットン。と、その前に身体強化の魔術は掛けておけ。私だけ強化してたら勝負にならんからな」


 そう言われたので私はディマス達を気絶させた時くらいの身体強化を施す。

 ランク8に圧勝すると目立ちそうだからギリギリで勝つくらいに身体強化の調整をしていくとしよう。


「ディマス、カウントダウンしてくれ! コットンよ、0が勝負開始の合図だ」


「じゃあカウントダウンするぞ。5、4――」


 イブリンは私の目を見つめてこう言った。


「ランク8の私が本気を出したらお前なんかが勝つのは不可能だろうから手加減してやる」


「あ、はい」


 手加減してくれるなら勝ってもあまり目立たずに済みそうだ。


「――1」


 1という数字が出た途端、時間の流れが遅くなったような気がした。

 それだけ私は集中しているのだろう。


「0!」


 その合図と共に一気に腕に力を込める。

 イブリンはまだ力を入れてなかったようで一気に彼女の手は押されていく。

 しかしあと少しというところで耐えられてしまった。


(惜しい!)


 ステラの悔しそうな声が響く。


「おお、危ない危ない。油断してたぞ。なかなかやるな! あっさり負けてしまうのもつまらんからな、もう少し私を楽しませてくれ」


 そう言われた私の腕は徐々に勝利から遠ざかるように逆側に動かされていく。


 私も少しずつ身体強化を強くしていき徐々に押されていたのを振りだし地点で踏みとどまる。


「耐えたか」


 イブリンは楽しそうに私の顔をまじまじと見つめ、フッと息を吐く。

 私は臭い息での妨害も想定してるので今だけ嗅覚の感度を落としてる。


 そんなことしなくても負ける気はしないんだけどね。


 さて、イブリンの息はどれくらい臭いのだろうか――え?


 ええ?? なにその匂い?

 

 意外にもイブリンのその息は甘く心地の良い香りがした。

 

 何を食ったらそんな匂いが出せるんだ?

 イブリンも女性だしそういうのには気を付けているということか。


 石鹸でも齧れば出るのかな? やるつもりは無いけど。


 生前の私はそんなこと気にしたことなかったなぁ。

 私の体なら口臭なんかどうでもいいけど今はステラの――おっと、いけない。思考が逸れてしまった。


 良い匂いで妨害してくるとはなかなかの策士だ。

 なら私も魔法で息を臭くして妨害を……いや、ステラの評判は落としたくない。やめとこう。


「コットンも手加減をしてるようだな。面白い、久々に本気を出せるかもしれないな」


「その机は壊すなよ」


 ディマスに注意されるけど聞こえてないのか反応せず、さらに腕に圧を掛けていく。

 『本気を出せる』とか言ってるんだけど、最初に言ってた手加減はどうした? さっきと言ってる事違うんだけど!


「あの、手加減するとか言ってたのは嘘ですか?」


「なに? そんなこと言ったか?」


(言ってたよ! この人ズルい!)


 ステラがわめく。イブリンに対する好感度が下がったかもしれない。


「言ってたよ」


「ほう……よく覚えてたな。安心しろ、お前を試していたのだ」


 ほんの1分前のことを忘れる方が難しいでしょ。それに何を試されてるんだ。


「だが最初に手加減はしたし、今から本気出していくのはセーフだとは思わないか?」


「は?」


「私は嘘はついていないということだ。だから問題は……ない!」


 イブリンはそう言うと拮抗していた戦況が再び動き出し、私の腕は徐々に押されていく。


(ねぇデシリア! 嘘吐かれたけど反則じゃないの!?)


(気持ちは分かるけどそんなルールないから問題は……なし!)


(えええええ!!! ぐぬぬぬぬぬぅ)


 残念だけど大人ってズルいんだよ。慣れていこうね。

 嘘をついてはいけないというルールは無いから反則も無い。


 そもそも手加減か本気かなんてどうやって判別すりゃいいのやら。

 相手の手を地に付けたら勝ちということだけしか言われてない。


 なら相手の顔を殴って妨害もセーフかもしれない。んなわけあるか。

 さすがにイブリンでも暴力には頼らないだろう。


 さて、まだ勝負は終わってないから集中しよう。

 ゆっくりとゆっくりと私の手の甲は机に近づいていく。


「もしかしてもう終わりか? その程度じゃ連れていくわけにもいかないな」


 イブリンはニヤニヤと笑みを浮かべて余裕の表情だ。

 対する私は同じく余裕ではあるけど無表情。


 私は負けないギリギリのところで止まるように調整し、どうしようか考える。


(デシリア! 負けないで!)


 ステラの不安そうな声が聞こえる。

 まだ私は本気を出していないけど、ここから逆転して勝ってしまっていいのだろうか?

 今の力でディマス達を叩いたら下手したら死ぬかもしれないくらいには強化している。


「ふはははは、どうやら私の勝ちのようだな。というかやっぱり子供だったか?」


 最初からそう言ってるんだけど。


「大人の私に勝とうなんぞ……えーと、14年くらい早いわ!」

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