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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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140 絶望させたい 1

 その隙にガースはミレラへ斬り掛かった。


 銃弾のような人間離れした速度、いつもなら相手が反応できずそれだけで勝てるほどだが今回はその自信はなかった。


(この女はレイラの護衛二人を圧倒するほどの逸脱ともいえる実力者だ。これで勝負が着かない可能性は十分にあり得る)


 そんなガースの接近にミレラはすぐに気づいた。


(このおっさん、今まで相手にした中で1番速いかもしれないな)


 そう思いつつも慌てることも危機感を持つことも無い。

 ガースは間合いに入ると剣を振り下ろした。それと同時に『ディレイボム』が膨れ上がると強烈な光を放ち爆発した。

 ミレラもガースの視界が白く染まり、互いが相手の姿を見失った。


 爆発はミレラには効かなかった。しかしガースにとってそれは想定内。

 狙いは光による視界の阻害と爆音による反射的な体の硬直だ。

 そのタイミングに合わせて彼は剣を的確にミレラの位置に振っていた。


 一瞬だけ体が硬直してたミレラだったがガースの剣に気づくとすぐに腕を交差させ、受け止めた。


「おっさん、なかなかの怪力だな。だが私にはまだ届いていないぞ?」


 鎧の様に纏った防御障壁はミレラの体に傷が付くのを拒んだ。


「反応できるものはまぁまぁいたが受けて無事な者がいるとは……やはりすぐには終わらんか」


 ガースは驚きつつ、次は剣を横に振った。

 ミレラは容易く受け止めるものの壁へと吹き飛ばされた。


「次で終わらせる!」


 ガースはすぐに追撃に向かい、床に横たわったばかりのミレラの足へ剣を振り下ろす。人に当てたとは覆えない無機質で硬い音が響いた。

 直撃することは出来たものの傷一つ付けられなかった。ミレラの体はその衝撃の強さを物語る様に反動で体が大きく宙へと跳ね上がり、立ちの姿勢で降り立った。


「すげぇ威力だな、今のは少しヒヤッとしたぞ、おっさん強えな。そこまで強いと思わなくて油断して食らってしまったぜ、まぁ効かなかったがな」


 そんなミレラを見てガースは静かに驚きを見せた。


「ば、化け物め。オリベルといい一体何が起ころうとしてる?」


 ガースはオリベルと以前に手合わせをした際に負けている。ガースほどの強者が子供に負けるというのは通常はあり得ない。

 そして今回のミレラ。ガースが苦戦するほどの若者がポンポンと現れる状況は今まで遭遇したことはない。


「もし今ので本気だとするなら勝ち目はないぞ、まだ隠してんだろ?」


 ミレラは挑発するもののガースはすでに本気だった。

 普通の者なら警戒させるためにまだ本気ではないと強がるのだが、油断させるためにあえて本当のことを伝えた。


「ああ、今ので本気だ。だが勝負は終わるまでは分からんぞ!」


 ミレラはその言葉を真に受けず、ガースがまだ本気ではないと予想した。

 が、相手が本気を出したところで自分が勝つと楽観的に考え強気でガースに迫っていく。


「そうだな、勝負は終わるまでは分からないよな! だがその後ろ向きな考えが勝ちを遠ざけるんだよ! さぁ今度は私の攻撃をお前が受ける番だ、喰らえ!」


 剣を振り下ろしたままだったガースはミレラに対応するために急いで剣を引き体勢を戻そうとした。しかし剣を引く速度と迫るミレラの動きが同じ速度のため対応が間に合いそうにない。


(速すぎる。手と足での対応は間に合わない。避けるのも厳しい。どうにか受け止めるしかないな)


 ガースは鎧型の防御障壁を全身に張り、ミレラの攻撃に備える。

 しかし直感が受け止める判断は危険だと強く訴えてきた。冒険者として長年活躍して来た故に起きる、無意識からの警告。


(魔術ランク8の防御障壁でもダメだと言うのか? ならどうすればいい? 攻撃系魔術を放つための詠唱も間に合わない……。残された手段は警告が外れてることを信じるか、あるいは『コレ』しかないか? だが常識的に考えてもこれでは無理だろう、でも可能性に賭けるしかない!)


 ミレラの腕が攻撃の動作に入った瞬間、ガースは口内に溜まっていた大量の唾液を目の前に迫るミレラの顔目掛けて吹きかけた。


「ぶしゅっ!」


 ミレラの顔の皮が衝撃に波打ち、バチバチという唾とは思えないほどの破裂音が鳴り響く。

 常人ではない肺活量から飛び出るそれは、ただの唾とはいえず凶器に近い。が、同じく常人ではないミレラには傷つけるほどの力はない。


「ぎゃっ、くっさ!」


 予想外の出来事にミレラは反射的に目を閉じ、放った拳は狙いがズレてガースの胸の端を掠った。


「ぐぉっ!」


 掠っただけだがガースは少し姿勢を崩した。

 焦りながらもすぐに体勢を立て直そうと後ろに下がる。

 

(もろに喰らってたら気絶はしてたかもしれんな)


 立て直したガースはミレラを見つめる。


(なんとか乗り切ったとはいえ、限界まで身体強化してもこちらの剣が効かないとなれば残りの攻撃手段はもはや魔術しかないな。俺の使える1番強い魔術を使ってしまえばレイラちゃんが耐えられないだろう。だがいっそのことレイラちゃんごとこの女を倒してしまった方が良いか?)


 ガースはレイラに一瞬だけ視線を向ける。


(レイラちゃんが拷問される可能性を考えればそっちの方がマシな気もする。だが敵の女に効かなかった場合はどうする? それに俺が使える中で1番強い魔術を詠唱してる余裕はない)


 ガースはレイラの護衛の女にも目を向ける。


(護衛に詠唱するための時間稼ぎを……いや、おそらく時間稼ぎにもならな――)


「おぉいっ!!!!」


 ミレラの殺気がかった声にガースの思考が中断される。


「てめぇ、こんな気持ち悪いもんよくぶつけやがったな! うわ、くっせぇ、ぜってぇ許さねぇからな」


 身体強化で体が強くなろうとも心は別だ。ミレラの心はたかが唾一つで大きく乱された。

 動きにも乱れが出るのではとガースは少しだけ期待した。


「で、どうした? 唾を掛けられたと法に訴えるのか? ここでお前が犯した罪の方が重いと思うぞ?」


 より乱すために煽る。ミレラはあっさりとそれに乗せられてしまった。


「うっせぇ、元から法律に頼る気なんかねぇよ! 自分の手で痛めつけなければ気が治まらねぇからなぁ!!!」


 ミレラはガースを痛めつけるために飛び出した。

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