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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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138 ミレラ VS レイラ 2

 部屋にいる武装した女達はそれを見るなりレイラの左右を固め、ステラはレイラを守るかのように前を塞いだ。


 ミレラはそのステラの姿を見た瞬間、偽物だと状況から判断した。


(こいつはさっきの偽物のステラだろう。にしても私なら偽物であっても間近で見れば見分けが付いてもおかしくないはずだが……よくここまで似た人を用意できたもんだな)


 ステラとミレラを切り離すために用意したのだろう、ということは容易に理解できた。


 レイラはミレラを視界に収めると嬉しそうに目を細めた。

 しかし声はその感情を隠した、いつも通りの落ち着いたものだった。


「あなたがステラのお姉さま?」


「そうだ。ステラはどこだ?」


「あら、本当にステラのお姉さまだったのですね。姉妹にしてはあまり似てないのね」


 レイラはそれを確認するかのように隣の偽物に視線を向ける。

 ステラはレイラの視線には答えず、ミレラに不満をぶつけた。


「目の前にいるじゃない、ひどいよお姉ちゃん。妹の顔を忘れたの?」


「お前は偽者だろ? 本物ならそんな態度は取らん」


 その言葉にレイラが答える。


「通常ならそうでしょうね。でも今は私の誕生日会の後、気持ちが昂ってるのでふざけたんだよね、ステラ?」


「その通りだよ。私は――」


「信じられるか!」


 ミレラは空気を強く震わすほどの大声をあげた。

 椅子やテーブルが『ガガガ』と動くほどに強く、普通の人なら耳を塞ぎたくなるだろう。

 しかしレイラだけが顔を歪め耳を塞いだ。


(このステラ……やはり偽者だな)


 動じないステラを見てミレラは偽物だと確信した。とはいっても実際のステラがもしこの場にいたとしてもデシリアが取り憑いているため顔を歪めない可能性は高かっただろう。


「レイラ様、もう隠す必要もないよね?」


「え? えぇ、その顔はもう使わないので自由にしてちょうだい」


「お姉ちゃん、いえ、ミレラさん。あなたの言う通り私はステラの偽物だよ。今日に備えて顔も声も変えて来たの。出番が無かったらどうしようかと思ってたよ。無駄にならなくて済んだ、ありがとうねお姉ちゃん」


 偽物はステラそっくりに言った。

 ミレラは偽物を睨みつけ、次にレイラに憎悪を向ける。


 しかしレイラは動じない。

 動じない彼女に対してミレラは特に思うところはない。相手がどう思うかなどはどうでもいい。


(ムカつくムカつく、だがこいつらに構ってる暇はない。早くステラを探さないと)


 怒りをぶつけたい気持ちよりステラを助けたい、安心させたいという気持ちが勝った。


「ステラはどこだ!」


「私にもそれは分からないわ。私は『ステラをエリンプスの外へ生かして連れてくように』とだけしか頼んでないんだもの」


「そうか。なら今頃は移動中というわけだな?」


「そうよ。でもあなたをしばらくはここから出すわけには行かないの。今なら追いつかれる可能性があるし――」


 レイラは少し考え、こう告げた。


「そうね、あなたを3時間後に解放しますわ」


「待ってられるか!!」


 ミレラはそんな言葉を無視し扉に向かう。武装した女二人が道を塞ぐとこう告げた。


「扉は冒険者ランクAで魔術士ランク6の私達でさえ壊せないほど頑丈だ、退け」


「安心しろ、私なら壊せる」


「お前は馬鹿か? 私達で無理ならお前が壊せるわけないだろ!」


「あー、うっせー!!」


 ミレラが無理矢理突破しようとすると戦闘が始まった。と思った瞬間、終わった。

 冒険者ランクAでもあり魔術士ランク6という人類の上位に入る女二人はミレラの放った蹴りに反応できず、防御障壁と両足を一瞬で破壊され、体は床に落ちた。


「ぐあぁぁぁぁ!! 足が、足が!」


「弱いくせに邪魔すんじゃねーよ」


 次にミレラに立ち塞がるのはレイラと偽ステラ。二人は恐怖で体が固まり、抵抗することなくミレラを通した。


「お前らが開けられないから私に開けられないとでも? 私は主人公なんだよ! 開けられないわけがねぇんだよ!」


 誰を相手にしても圧勝してきた自負から、自身を物語の主人公だと思い込んでるミレラは扉をあっさりと破壊した。


 その光景を見たレイラは予想外のミレラの実力に慄くものの、ニヤリと笑った。

 行ってしまえば少なくとも自分には危害を加えて来ない。ステラを助けることを優先して出ていく。そんな確信があった。


 本当はできるだけここに留めておきたかったが止めるための護衛は近くにおらず、助けを呼ぶ前に逃げられてしまうと思い諦めざるを得なかった。


 逃したところで広大なエリンプスの町のどこにいるかも分からないステラを見つける可能性はほぼ0に等しい。


 もしステラを確保されたとしても、また攫えばいいだけ。


 ミレラが今の出来事や人を攫ったことを警察に告発してもレイラがやったという証拠もないし、むしろ逆にこの敷地への不法侵入などで訴えればいいと考えた。


 だからミレラを逃しても大きな問題では無かった。


 しかしミレラは部屋の入口に留まり、ステラの捜索に行こうとしない。

 留まる時間が長いほどステラを見つけるのが困難になるためレイラにとっては好都合。でも、行けるのに行かないという行動の意味を考えると不安が増して来る。


 レイラは嫌な予感がしたためミレラから一旦距離を置いた。その間にも動けなかった護衛の女二人は自力で回復し、レイラを守るため脇を固める。


 そんなレイラ達に、不穏な空気を纏うミレラは顔を向けゆっくりと口を開いた。


「あー、どうせ無駄だよな、こんな広いエリンプスの町を駆け回ってもさぁ。しかも真っ暗な中で目撃者なんているわけもない。ステラを見つけられるわけないんだよなぁ」


 レイラの心音は速くなり体がリズムよく微かに震える。ミレラが自分に攻撃を仕掛けて来たら間違いなくこの護衛では防げない、逃げる時間すら稼げない。


 レイラは一応冒険者として登録をしているため死んだとしても蘇生は可能だ。でも痛みはどうにもならない。死ぬほどの痛みに襲われる可能性、それを想像するだけで目の前が真っ暗になりそうなほど不安だった。


 そんなレイラの都合など想像しないミレラはさらに言葉を続ける。


「ステラを生かしてるってことは時間さえ掛ければいつか見つかるということでもあるな。ステラ、すまん。後で絶対助けに行ってやるからな」


 『後で助けに行く』というミレラの言葉から、レイラに対して行動を起こすことだとレイラ達は考えた。


 そしてミレラは予想通りの言葉を放つ。


「レイラ、お前はステラと同級生だったな。ステラと同じ年の子にこんなことはしたくないんだが……ま、仕方ないな」


 レイラの心音がさらに速さを増していく。全力で走った時と変わらないほどに。

 これからこの身に間違いなく何か良くないことが起こるのが理解できた。


「お前が2度とステラに手を出せなくなるくらいの恐怖を心の奥深くに刻み込んでやることにした。病院で心の傷を治してもまた思い出してしまうくらい強烈な死ぬギリギリの苦痛を何度も与えてやる」


 その言葉だけでレイラは目の前が真っ暗になり、倒れそうなところを護衛に抱えられた。


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