138 ミレラ VS レイラ 1
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時間は遡ってレイラの誕生日会終了直前。
ステラの姉のミレラは他の警備員に連れられ、ステラを会場に残したまま玄関付近に移動していた。
警備員が10名ほどが集まったそこでリーダーから指示が与えられる。
「招待客はこちらで用意した送迎車に乗り帰宅する。その送迎車は玄関を出てすぐ正面の道路に並ぶのだがその際、順番待ちが発生し子供達の塊が出来るだろう。万が一に何かあってはいけない。不審者からしっかりと守るように」
そうは言われてもミレラからすればレイラの息のかかってるであろう警備員ですら警戒の対象だ。
そのため彼らの声を無視して会場に戻ることにした。
背を玄関に向け、警備員とは逆に方向へ歩くと――
「そこの女、どこに行く! 持ち場へ戻れ!」
呼び止められてしまった。
ミレラは苛ついた口調で言い放つ。
「私の妹は招待された客だ。私は妹を守るために来ている。お前達の言う事に従う理由はない」
「そんな理由を付けて、会場で何かしようとしてるのか?!」
「違う! 私の妹が会場にいるんだ、嘘だと思うなら確認を――」
「そんなことをしてる暇はない、急いで持ち場へ戻れ。会場に戻れば警察へ突き出すぞ」
招待されてないミレラが勝手に会場に入ることは許可されていない。中にいられたのは警備員として中で警備する指示を与えられてたからだ。
「ちっ、分かったよ」
ステラに迷惑を掛けたくないミレラは送迎車の近くに移動した。
しばらくすると誕生日会が終わり、子供達が玄関から姿を見せ始める。
ミレラはステラの姿を探し始めるがまだ現れない。
子供達はどうすればいいのか戸惑っていると案内係の男が子供の名前を呼び始める。
呼ばれた子供はその係の所に行くと車へ案内された。
(ああやって案内されるのか。ステラの出番が来たらすぐ分かりそうだな)
ミレラへ招待客の少女が近づき、恐る恐る口を開いた。
「すみませーん、私はどの車に乗ればいいですか?」
「そうだな……」
ただ見守る以外には特に指示されていないためミレラは困惑し言葉に詰まる。
とりあえず少女の名前を聞くことにした。
「名前は?」
「リオネです」
「ちょっと待ってろ、おーい!」
ミレラは案内係を大声で呼び手を振った。
「どうかされましたか?」
「この子はリオネというそうだが、まだ送迎車は来ていないのか?」
「リオネさんのはまだみたいですね、準備が出来たら呼ぶので申し訳ないですがもうしばらく待っていただけますか?」
案内係はリオネへ問いかけると少女は渋々ながら受け入れた。
(ステラもそのうち来るだろう、来たらこんな仕事ほっぽり出して一緒に帰ってやる)
ステラの護衛のために来ただけなので報酬がなくとも惜しくはない。しかし職務放棄は報酬が得られないだけでなく罰金になる。それもお金には困ってないためどうでもよかった。
少し待っていると警備員が小走りで近づいて来た。
「ミレラさん、あなたの妹さんが乗車して待ってるとのことなので報酬を受け取ったらもう上がってもいいそうですよ」
「報酬はいらない」
「いや、それだと色々と面倒になるので絶対受け取ってください」
「あー急いでるというのに! 分かった、その前にステラはどの車だ?」
来た時に乗ったものとは違う少し大きめの車に案内された。
ミレラは中にいるステラらしき姿の人に声を掛ける。しかし寝ているのか反応はなし。
「少しだけ待っててくれよ」
姿を確認したため一旦報酬を受け取りに警備員の詰め所へ向かった。
ミレラは詰め所に入ると名前と用事を告げた。
「ミレラさんお疲れ様、これが報酬ね。他の人より少ないのは途中参加で勤務時間が短いから――」
「はいはい分かった分かった。お先に失礼します!」
雑に受け取った後、来た道を戻りステラのいる車に乗り込んだ。
ステラの隣に座り、顔を反対側に向け俯いている妹に声を掛ける。
「ステラ、お姉ちゃんが戻ったぞ」
「スゥー、スゥー……」
呼び掛けるも反応はなく寝息で返された。
「ははっ、疲れたんだな」
夜も遅く、慣れない場所で疲れたのだろう。
そう思ったミレラはそのままにしておくことにした。
「出発しますので安全ベルトを装着するようお願いします」
助手席に座る男に告げられ、ミレラは体をベルトで固定した。
そして車は動き出した。
ステラは寝てるため、暇なミレラは窓から夜の賑やかなエリンプスの光の風景を眺め、退屈を紛らわす。
夜という事もありどこを走ってるかは分かりづらく、現在地が分からないまましばらくすると車が止まった。
降りる予定ではない見慣れない場所だった。
目の前にはステラの家の付近ではお目に掛かれないような高い建物が立ち、その隣や周囲も似たようなものが威圧するかのように並ぶ。
ミレラは嫌な予感を抱きつつもすぐステラを守れるという安心感からとりあえずは落ち着いていた。
「ここはステラの家の近くではないようだが?」
ミレラは穏やかに苦情を入れる。
すると背後から返事がきた。
「私達にとってはここが予定の場所ですよ?」
ステラの声、ミレラが振り向くと妹の姿があった。
ミレラは想像してた予定場所とは違ってたために警戒していたが、どうやらステラは知ってたようなので少しだけ気持ちが落ち着いた。
「ここで何があるんだステラ?」
「まだ分かりませんか? 私はステラじゃありませんよ」
「は? 何を言って――」
「まぁとにかくその建物の中に入ってください。そこにあなたの妹が待ってますから」
妹そっくりのその姿で言われ戸惑うものの、とりあえず従うことにした。
中に入るとそこにいた案内係についていきエレベーターと呼ばれる箱に乗り、上階へ上がっていく。
エレベーターから降り、廊下の窓から外を覗くとかなりの高さまで来たことを実感させられた。
「ここでお待ちください」
丁寧な言葉遣いに警戒心を少し削られ、窓の無い部屋に入ってしまう。
部屋にあるのは椅子とテーブルと本棚、トイレマークの付いた扉のみ。ミレラ以外には厳重に武装した30代ほどの女2名が唯一の出入口を挟むように立っていた。
なぜそんな女がいるのか? までは頭に回らないくらいステラのことでいっぱいだった。
(ステラは? トイレにでもいるのか?)
いくら見回してもステラはいなかった。
トイレの扉をノックしても無反応、開けても誰もいなかった。
そしてステラの偽物はいつの間にか姿を消していた。
「ステラはどこだ?」
ミレラは武装した女に喧嘩を売るような声をぶつける。
「ステラ? ああ、お前の妹だったな。これから連れて来られるから少しの間待ってもらおうか」
ミレラはなぜこんな場所に連れて来られたのか考えるものの、嫌な方でしか思いつかなかった。
(こいつらの言ってることは嘘に違いない。偽物のステラで私をおびき寄せ、私のいない間に本物のステラを連れ去るという計画だったんだろう。ステラはきっともう既に攫われてどこかに運ばれている最中か……)
確信は無いがその予想は当たっていた。すぐに探しに向かいたいがこの広いエリンプスを駆け回ってもすぐに見つかる可能性はほぼ0。
ステラがここに来る可能性の方に賭け、大人しく待つことにした。
しばらくするとレイラとステラが姿を現した。
レイラにはまともに戦える力はありません。
なので実際はミレラが戦う相手はレイラの護衛の冒険者になります。




