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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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136 本気は出せない 1


「なに!? 僕の障壁を突破したというのか?!」


 複数撃ったファイアボールはすべてが違う威力、1発だけ突破できたようだ。


 驚いたオリベルは攻撃の手を止め、食らった部分に目を向けた。

 その一瞬の隙に懐に潜り込んだ私は姿勢を低くしオリベルの足に蹴りを放つ。


 しかし盾のように張られた障壁を突破できず直前で足が止められる。

 次はもう少し力を込めるとしよう。


 オリベルは見下ろしながら煽るような表情を浮かべた。


「あはは、残念だったね! 障壁を破ったところで僕には並外れた身体強化があるんだ。実はあの程度のファイアボールくらい直撃したところで何ともないのさ。つまりはさ、障壁すら突破できない君の蹴りなんかさ、怖くないってことだ!」


 オリベルは私のすぐ目の前で黒い球体を放つ。

 私はどの程度の威力かを確認するために防御障壁を解除して受けてみた。


 後ろに吹き飛ばされたけどダメージはない。

 服は簡単には破けないように魔法で加工してるため今のところは無事だ。


「私も並外れた身体強化が使えるんだよ。だからその程度の魔法じゃ効かないよ?」


 私も煽り返す。


 その時、何かが体に入り込んで来る感覚を覚えた。この感じはレイラと触れた時、あるいは以前戦った魔王シェダールの時と同じだ。


 魔王の時ほど強烈なものではなくレイラの時に近い微弱なもの。

 レイラの時は触れた時に発生したけどオリベルとは直接触れていないのに起きている。何故?


 この距離でそう感じるという事はオリベルはレイラよりも何かの影響を強く受けているということだろう。

 魔王の時は触れるまでこの感覚は無かったし、オリベルの方がより実力が高い可能性もあるか?


 ともかく軽い違和感程度なので今のところは特に問題ないけど、このタイプの攻撃は生前にも経験したことがないため対処法が分からず、食らい続けるとどうなるのかは知らない。


 危険な目に合うくらいならさっさと倒した方がいい気もするが……。


 いや、焦りは禁物。落ち着け私。


 ヤバいと感じたらその時に本気を出して一瞬で終わらせればいい。レイラを問い詰める際の証拠が何も手に入らなくなるけどステラに深刻な被害が及ぶよりはマシだ。


 それまでは予定通りにオリベルが動けなくなる程度に追い詰めよう。


「僕が放った魔法はまだ本気じゃないからね。だって本気を出さずとも勝てると思ってたからね。そう、まだまだ温存してるのさ。僕の本気は間違いなく目立つよ。だけどさ、目立ちたくないんだよ、みんなに顔を知られると色々と動くのに支障が出そうだからね。っていうかそんな話、君には関係ないよね、ははっ。さぁ、僕の攻撃にいつまで耐えられるかな?」


 オリベルは再び黒い球体を放った、先ほどよりも大きいものを何発も。

 同時に私もオリベルに向かって走り出す。


 高速で迫る黒い球体を避けようとした瞬間、全ての球体は同時に弾け跳び、全方位に雨のように飛び散った。


「さぁ、これは対処できるかな!」


 オリベルはまだ余裕な態度で楽しそうに声をあげた。


 私は水壁を瞬時に展開した。黒い雨は水壁に衝突しても形を変えず中にめり込んでいく。しかし速度を急激に落とし、水壁から出ると力なく落ちた。


「恐ろしいほどの反応速度だね、それも防ぐか。ふーん、なかなかやるじゃん。ならこれはどう?」


 オリベルは手の平からとても大きく透明な水球を放った。先程の黒い球体と違ってゆらゆらと揺れ動き、液体だということを感じさせる。


 水球は放たれてすぐに形が崩れ、私を包むように覆う。


 どうせまだ手加減しているだろうからいちいち対応せず強行突破でも大丈夫だろう。私は水の塊に何かをするでもなくただ突っ切ろうとした。


 水の中を通り抜ける途中、柔らかいそれは急速に柔軟さを失い始め私の勢いを殺し始める。

 全身にまとわりついていた水は氷と化し、動きは完全に止められ私は不自然な姿勢のまま固められた。


 複雑な形で凍った水は私の視界を遮り、オリベルの姿を隠す。

 視界からは見えないけどどの方向にいるかは分かる。オリベルの勝ち誇った声がそれを知らせてくれた。


「動けなくなったね。もしかしてこれで終わりかな? ははっ、あっけないね。でも褒めてあげるよ。君はその辺の冒険者より遥かに強かった。君が敵じゃなければ仲間にしたかっ――」


 バーンという氷壁の砕ける大きな音がオリベルの声を上書きする。

 私が強引に動いたことで氷の大きな破片は周囲に飛んで散らばった。


「この程度で終わりなわけないでしょ?」


 無傷の私はそう返すとオリベルに向かって走り、再び彼の足へ攻撃を試みる。

 先程よりも強く速い蹴りはオリベルの障壁を貫き、足へと到達する。


 オリベルの足を後ろに弾き豪快に体勢を崩した。


 足を破壊するつもりだったけどまだ出力が足りないようでオリベルに効果的なダメージは与えられてない。

 でも蹴りに気絶魔法を纏わせたのでそれが効いてれば私の勝ちとなる。


 残念ながら効いてなかったようだ。しかしオリベルは腕立て伏せのような体勢になった。


 より強力な気絶魔法を喰らわせようと隙だらけのオリベルに手を当てようとすると、彼の地面に着いた手から爆発が起き、爆風で私とオリベルは吹き飛ばされ互いの距離が離された。


 勢いよく飛ばされたものの綺麗に着地し無傷だった。

 オリベルはまだ余裕のある表情をこちらへ向け、感心した様子で言った。。


「流石にそろそろ決着かと思ってたけど、君はまだ実力を隠していたという訳か」


 隠してるわけじゃないけどね。


「あなたもまだ本気じゃないんでしょ?」


「君を殺さないようにと条件が付けられてるんでね、本気を出したら殺してしまうかもしれないだろ」


「優しいのね、でも私もあなたの死なないラインを探ってるからこのままだと朝まで戦い続けることになるかもしれないよ?」


「なるほど、勝てないから僕に退いて欲しいということだね? 僕なら朝までには決着を付ける自信があるよ」


 こっちも自信はあるんだけど、油断させるためにそういうことにしておいてもいいか。


「勝てる自信なんて油断の元、慢心は敗北を招く。あなたと違って勝てる自信はないけど負ける気もしない」


「慢心か、今まで僕を子供だと舐めてかかった大人は自信満々に挑んできたけど全員が負けた。確かに自信があるから勝てるとは限らないよね」


「あなたが私に勝てるかは実際に勝負をしない限りは分からない。ねぇ、負けを認めろとは言わないからさ、2度と悪い事をしないなら見逃してあげてもいいよ」


 レイラを問い詰める時の証拠品もくれたらという条件付きだけどね。私としてもこれほどの力を持った悪人が大人しく従うとは思ってないのでここで圧倒的な力を見せつけて2度と悪事を働く気を起きなくさせたい。


「君が僕に勝てる可能性はないよ。僕に慢心があってもね。僕の力は逸脱してるし、冒険者ランクAの大人相手でも負けなしどころか全て圧倒して来たんだ。それ以上の力を君が持ってるなんてとても思えるはずないだろ?」


「そう言うと思った、交渉決裂だね」


 私はすぐさま攻撃を再開した。

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