130 招待 2
* * * * *
図書室は静かにしなければいけない。
そのため5人は小声で喋りながら勉強を進めていく。
それにしても女4人に囲まれてセシルはどういう心境だろうか?
男子も少し混ぜた方がいい気もするけどわざわざ探しに行く時間的余裕はないだろう。
「あのセシル君、ここが分からないんだけど……」
セシルの隣にいるレイラの取り巻きの一人ヒラリーが話しかける。ちなみにヒラリーはいつもレイラの左側にいる。右側はミキだ。
「ねぇセシル、私もそこ分からないから教えてよ」
レイラは取り巻きがセシルに話し掛けると自分も、と乗っかる。
一方ステラは分からないことがあればセシルではなくレイラに確認する。
(レイラが黒幕かもしれないから必要が無い時はセシルに関わらないようにした方がいいんだよね? 間にレイラがいるから話し掛けづらいんだよね)
そんな理由もあってセシルには声を掛けない。
セシルは時折ステラに分からない所が無いか確認するけどレイラが代わりに返事をするためステラとセシルが直接会話をすることはあまりない。
そんな感じで時間は少しずつ過ぎていった。
突然レイラはステラの耳に顔を近づけると小さく声を発した。
「ねぇステラ。今度、私のお誕生日会があるから来てよ」
「え? ……いいの?」
ステラは誘われたのが嬉しかったのか微妙に顔が綻んだ。しかしすぐさま怪訝な顔に変化した。
「でも、でも、今まで誘ってこなかったのに今回はどうしたの?」
「ステラ以外の子は卒業しても進学するし中学校や町中で会うかもしれないけど、ステラは冒険者になるんでしょ? もう会えないかもしれないから特別なことをしてステラがいたことを私の思い出に印象付けておきたいの」
「レイラ……」
「安心して。プレゼントは用意しなくてもいいし、ステラに何かさせるといった事もないわよ。美味しい料理もあるし損はさせないわ。来てくれるだけでいいから」
「私なんかでいいの? 私、友達じゃないのに……」
「気にしない気にしない。人が多い方が祝ってもらってる感が出て私は十分だし、ステラも気軽に参加してくれればいいよ。というわけで誕生会は迎えの車を出すから予定は空けといてね」
そう言いながらレイラがステラの手を握る。
その瞬間、私は何かがステラの体に侵入してきたような感じを受けた。
この感覚は……魔王シェダールの時と似ている。
しかし凄く弱い。
ステラが一切反応を示さないくらいに微弱なものだ。
「う、うん。分かった、私なんかで良ければ喜んで参加するよ!」
ステラは前向きにレイラに返事をした。
(美味しい物って何が出るんだろ、レイラって金持ちだし凄い誕生会になるんだろうな~楽しみだな~)
(ねぇステラ、今何か感じなかった?)
(そうだねぇ、レイラって黒幕じゃないと思ったよ。私の事嫌ってるなら誕生日会に誘ったりしないよね?)
聞きたいのはそれじゃないんだけど、まぁいいか。
変な不安を与えるかもしれないので体に何かが侵入しようとしてきた事は黙っておくとしよう。
(普通なら嫌ってる相手を招待はしないだろうけど……まぁでもそんな場所でステラに何かあったら黒幕だと白状してるようなもんだし、流石に何もして来ないか)
(疑いすぎじゃない? でも確かにデシリアの言う通り油断は駄目だよね……)
私が否定に近い言い方をするとステラは気分が下がったようだ。
もしこれで何もなかったらせっかくの明るく楽しいであろう誕生日会がステラの不審な動きで雰囲気を悪くするかもしれない。
警戒は私がすればいいわけだしステラには余計なことは考えさせず誕生日会を楽しむことに集中させたほうがいいかな?
(まぁでも誕生日会は成功させたいだろうから意外と何もないかもしれないよね。それにレイラが黒幕と決まったわけじゃないから、その日は気楽にしてていいんじゃないかな?)
(う~ん、参加するのやめた方がいいかな?)
(もし参加して何かあれば黒幕の情報が得られるかもしれないし、私としては参加した方がいいかなって思うよ。ステラに何かあっても私がいるからどうにでもなるし)
(でもさ、だからといって危険な所に飛び込むのは良くないんじゃない? とはいっても参加はしたいんだよねぇ……)
ステラはしばらく悩んだ末に参加することを決めた。
* * * * *
翌日の学校。
レイラの誕生日会まであと2週間。
まだ参加の意思を伝えてないステラは食堂で一人黙々と料理を口に運んでいく。
「ごちそうさまー。さて、次はセシルと勉強しなきゃね」
昼食を終えたステラは少々面倒臭げにつぶやく。
しかし今日はいつもと違いセシルからの勉強の誘いがなかったことに気づいた。
(いつも一緒に勉強してるから、もしかしたら図書室で待ってるのかも)
そう思ったステラは一旦教室へ教科書を取りに戻った。
教室に着くとステラの席の隣にレイラが座っていた。取り巻きのヒラリーとミキも近くの席に座っている。
ステラは無言で自分の席から教科書を取り出そうとすると声が掛かった。
「ステラ、あなたにセシルから伝言よ。セシルはもうすぐあるテストが終わるまでは男子と勉強するからそれまでは一緒にはできないって」
レイラはそう言った。ステラとセシルが距離を置いたことに嬉しそうにするかと思ってたけどそんな様子は見られない。
そしてステラは何故かホッとした。
セシルと離れることに安心したのか、それとも勉強が嫌だったのかは分からないけど勉強で遅れてる以上は嫌でもしないとマズイはず。
(勉強できないとマズいんじゃないの?)
(うっ、それはそうなんだけど、そうだよね。というか勉強教えられないならそのことを自分で伝えないのって失礼と思わない?)
ステラの怒りがセシルに向かった。
しかしレイラがそうなった理由を話し始める。
「それでさ、セシルに代わって私がステラに勉強を教えることを引き受けたの。ステラはそれでもいいかな?」
セシルが伝えに来なかったのはレイラが伝言するからのようだ。
ステラは意外な申し出に驚いたのか少し固まりすぐには返事を出さない。
レイラはその反応から気持ちを察したのか、こう口にした。
「あ、もしかしてセシルの方が良かった? 気持ちは分かるわ~、セシルって女子の人気あるし~」
「ち、違うって! レイラがわざわざ勉強教えてくれるなんてどうしたんだろって思ったから……」
「セシルに頼まれたからよ。まぁそれもあるけどステラにも誕生日会に来て欲しいから断りづらい空気作ろうかなってのもあるし」
「それ言っちゃったら意味ないんじゃない? でも勉強教えてくれなくても参加するって決めてはいたけどね」
「それはつまりセシルが教えてくれないと嫌ってこと?」
レイラは特に嫌そうな顔をせず普通に問い詰める。
ステラは見るからに分かる焦りっぷりでそれを否定し始める。
「勉強教えてくれるなら誰でも助かるよ! だからお願いします!」
ステラの必死な頼み込む姿がおかしかったのかレイラ達は笑った後、早速教室で勉強会を始めた。




