129 ミレラとカタリナ 3
ミレラの困惑が徐々に大きくなり始める。
(こいつ、何をした? ランクA相手に圧勝できるこの私が……ランクE程度の動きに気づけないわけが……)
お互い一旦距離を置き、仕切り直し。
再びカタリナが先に動く。
ミレラはランクA相手ですら余裕で勝てる程度に能力を強化していたがもう少し出力を上げることにした。
勝つつもりは無いため本気で攻撃を仕掛ける気はない。
元々負けるつもりだったため相手の攻撃をわざと受けようと考えていた。
今もその考えは変わらない。
負けるつもりとはいえ相手の動きには反応出来た上での意図的な敗北が理想。
しかしさっきの一閃はミレラの完全な負け。
真の意味での敗北は受け入れ難かった。
(本気の私なら絶対反応できる。今の私に勝てる者なんかいるわけが無い!)
ミレラはカタリナの動きを注意深く観察する。
今度は動きがしっかりと見えた。
防ごうと思えば防げたが負けるつもりの試合。
ミレラはあえてカタリナの攻撃を受けることにした。
カタリナの剣はミレラに触れた瞬間ピタリと止まった。
「はい、1点」
カタリナは笑顔でそう告げた。
「私より強いとはさすが年上なだけあるな」
ミレラは余裕はあるが悟られないように少し悔しそうに言った。
その後も打ち合いは少し続き、カタリナの勝利で終わった。
* * * * *
訓練場を出た二人はこれ以上付き合うつもりはないため解散することにした。
「今日はありがとうね、おねぇちゃ――」
「だぁかぁら! 私はあんたの姉じゃねぇよ!」
ミレラは呆れながら強く訴えた。別に怒ってはいない。
「じゃあさ、私のことお姉ちゃんって呼んでみない?」
「なんでそうなる」
「試しに言ってみてよ、カタリナお姉ちゃんって」
カタリナは馴れ馴れしくねだる。
「断る」
「1回だけでいいから、お願い!」
ミレラは歩き出すと手を振り拒否を示した。
「私に姉はいらねぇ。私の姉妹はステラだけで十分だ」
そんなミレラの様子にカタリナは幼い頃の家族の記憶を思い出し、懐かしそうに微笑んだ。
「今日はありがとう! また会ったらよろしくね!」
カタリナが大声をミレラの背中にぶつける。徐々に遠くなるミレラは振り向くと手を軽く振った。
カタリナはミレラの姿が見えなくなるまでその場に留まり、そして孤児院の方へ歩き出す。
(お姉ちゃんは勇者候補くらいの実力、かな。今日のは本気じゃないと思うから超えてそうな気はするけど……まぁいいか)
カタリナはそれほどの実力にも特に驚くこと無く余裕を持ってミレラのことをそう評した。
* * * * *
ミレラはギルドへ向かいながらカタリナとの試合を振り返る。
(あの女、低く見てもランクAの実力は間違いなくあるぞ。わざと負けたからあれがカタリナの本気だったかは分からないがもしかしたら私と同じくらい強いかもしれないな……)
カタリナがミレラを評した時とは違い、ミレラはカタリナの実力に心が揺れていた。
(もしかして世界には私くらいに強いヤツがたくさんいるのか? あの女、まさか勇者候補だったりしないよな……?)
ミレラは勇者候補生と呼ばれる者達と剣術の大会で試合をしたことがある。
出場したのは無差別級で身体強化が際限なく許され剣術の腕があまり意味を成さない階級だった。
剣術に自信がないミレラにとってはゴリ押しが出来るため都合が良かった。
当時は今ほど強くはないとはいえそれでも群を抜いて強かったミレラはあまり目立ちすぎたくないというのもあり、賞金がギリギリ出るところまで勝ち上がったら負けるつもりだった。
賞金が貰えるところまで勝ち上がったミレラは良い勝負に見せかけて負けるつもりだったがその時の相手が勇者候補生だった。
あまりの強さに楽しくなり本気を出しそうになったが我に返り、予定通り負けるという経緯があった。
そのためどちらが強いかは不明だ。
(というか勇者候補生ってなんだったんだ? あれ以来それらしい言葉を全然聞いたことすらないんだが……)
候補という事は勇者という何かがあるのだろう、と考えては見るものの情報が一切ないためそれ以上の域を出なかった。
(今度カタリナに会ったら試しに勇者候補生について聞いてみるか)
頭の中の予定表にそのことを記し、そして次の予定を思い出す。
(下校時間になったらステラの見守りをしなきゃな)
ミレラはラズリィから聞いた話からステラがまた攫われる可能性は高いと感じ、ステラにナイショで陰から見張ることを決めていた。
(さて、まだまだ時間があるな……町でも回ってみるか)
今まで娯楽の少ないエリンプス町の外でステラ捜しをしていたミレラは久々に遊ぶことにした。
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