128 ミレラとルイザの初対面 1
「ラズリィ、お前はお母さんは嫌いか?」
「え? ……はい、嫌いです。でも私は逆らうことができません」
「私もお母さんが嫌いだ。ま、私の事はどうでもいいな。それでお前はお母さんを陥れるために『お母さんは無関係なのに嘘をついてる』なんてことはないだろうな?」
「そんなこと考えたことないです。そんなことするくらいならさっさと自立してお母さんの元から出て行って縁を切る方が楽だと思ってます」
(いくら嫌いと言ってもわざわざ家族の印象を悪くしようなんて普通は考えたりもしないか)
もし嘘を吐こうとするなら今の状況がややこしくなるし、そうなるとステラにも迷惑が掛かるからしないだろう。ミレラは考えを改めた。
「そうか。ならお母さんが指示をしたというのは本当という訳か?」
「はい、私はお母さんの命令で動きました。きっとステラに嫌がらせをした生徒も私みたいに親から指示されて動いたんじゃないかって私は思ってます」
「証拠は……無いんだったな。そうだと思う根拠はあるのか?」
「実は前にもステラ以外の生徒に対して嫌がらせをするように指示が出されたことが何度かありました。その時も私は学校とは無関係なはずのお母さんの指示で動きました。他にも動いてた生徒がいて話を聞くことが出来たのですが、その生徒もレイラの会社で働く親の指示で動いてたみたいです」
「狙われた生徒もセシルと関係があったのか?」
「嫌がらせされた子はセシルに気に入られようと近づいてました。今は怖くて距離を取ってますけど」
「なるほどな。ここまで聞いた感じ確かにレイラが怪しく感じるな。ところでレイラはセシルが好きなのか?」
「昔から気を引くようなことはしてたので多分そうなんじゃないかと。レイラも嫌がらせを受けたことはありますが2日程度と他の生徒ほどは長くなかったです」
「自分も被害者になれば疑われづらくなるからな。それにしてもたかが子供が企業を動かせるとは思えない。こんなバカげた娘の頼みを聞くほどの企業ならとっくに潰れてるはずだ」
(後継ぎとして会社を動かす権限が与えられてたりするのか? 会社全体への権限は無いにしても小さな部署くらいは動かせるか?)
ミレラが思索してるとラズリィはこれ以上の情報はないことを伝える。
「……私が知ってるのはここまでです」
「そうか。ステラの状況が知れて助かった、ありがとう。それにしてもお前も大変な目にあってるんだな。親のいいなりなんて」
「あの……ステラに迷惑を掛けてごめんなさい」
辛そうに謝るラズリィにミレラは頭をポンポンと軽く叩いた。
「これ以上迷惑を掛けたくないという気持ちは理解した。だから私は許す。ステラはどうか分からないけどな。ま、ステラにはお前が関係していたことは伝えないから安心しろ」
ラズリィのためではなくステラのために伝えない、というのが本音だ。ステラは友達のラズリィが自分を害する行動をしていたことを知ってしまえばショックを受けてしまうだろう。
そしてラズリィがステラを害したいという気持ちを持っていないことが分かったためミレラはこれ以上仲を割くような事はしないことにした。
「ありがとうございます。それじゃ、私は行きますね」
少しだけ気持ちが晴れたラズリィは去っていった。
その後ろ姿を見ながらミレラは呟く。
「ステラの安全を考えればセシルから距離を離すのが良さそうなのは確実だな。だが気に食わねぇな、どうしようがステラの自由だろうに」
苛々を募らせながらミレラはステラの所に戻ることにした。
* * * * *
「お姉ちゃんまだかな? もう置いて行こうかな」
(ルイザを待たせるわけにもいかないしお姉ちゃんからは後で話を聞いたらどうかな?)
そう私が言った時――
「ステラ~、待たせたな!」
ミレラは戻って来た。
「お姉ちゃん、ラズリィは何て言ってたの?」
「ん? そうだな……ラズリィはステラのこと心配してたぞ」
「それは知ってる。私が聞きたいのは夏休みのことをどう言ってたのかなんだけど」
「夏休みにステラが攫われそうになったと言ってたぞ」
「あ……そ、それは、でももう3カ月近く何も無いからもう大丈夫だと思う! 私が知りたいのは攫われそうになったこととレイラとどういう関係があったかだよ!」
「それは……ラズリィが言うには証拠は無いけどレイラも関係してるかもくらいしか言ってなかったな」
「なんでそう思ったんだろ?」
「レイラはセシルに好意を寄せてるかもしれないらしくてな、恋のライバルになりそうな相手を排除したいんだろう」
「だからセシルと関わるなって言ってたんだ……私、セシルに興味はないんだけどな」
「ステラ、証拠が無い以上はレイラを首謀者と決めつけて問い詰めることはしないようにな」
証拠が無い以上は罪に問う事が出来ないし、証拠がない状態で本当に犯人だった場合はより酷い事をしてくるだろう。
「うん、気を付けるよ」
「ラズリィからの話はこれで終わりだ。それじゃ、ステラの友達の所に行くとしようか」
ミレラはニコリと笑うとステラの頭をポンポンと叩いた。
* * * * *
ルイザがいる冒険者ギルドが見えてきた。
ステラが中に入ろうとするとミレラが怪訝な声を発した。
「友達って……冒険者なのか?」
「そうだよ」
中に入ったステラは手を上げ、待合室にいたルイザに挨拶をした。
「あ、あの……ステラ、この方は?」
ルイザは戸惑いながらミレラに目を向ける。ミレラが答えた。
「私はミレラ。ステラの姉ちゃんだ。お前はステラの友達のようだな、初めまして」




