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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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127 ラズリィの隠し事 1


 11月、ステラの制服が冬用の暖かそうなものに変わるくらいには寒いと感じることが増えてきた。

 学校の休日は日曜日と木曜日の週2日。

 木曜日の今日、ステラはルイザに会いに行こうと考えていた。


「ルイザちゃんやケミー達と知り合ってからもうすぐで半年かぁ、あっという間だなぁ」


 自宅の部屋でルイザ人形とデシリア人形の視線を浴びながらステラは適当な場所を見て呟く。

 ルイザやケミー達と知り合ってそろそろ5カ月が経過する。それまでステラの友達と言えば学校でよく会うラズリィだけだったらしい。

 剣術同好会で仲良さそうにしてたボニーは友達の枠に入らないようだ。


「ラズリィとは友達じゃなくなったけどルイザちゃん達がいてホントに良かった。おかげであんまり寂しくないし」


 寂しくないと言いつつも表情は哀しそう。ルイザ達は1歳以上離れてる年上なので同年齢のラズリィとはまた違うのだろう。


 それに長い事ラズリィとは友達だったわけだし、突然ああなってしまっては気持ちの整理がまだ付かないのも無理はない。


(着替えたし、そろそろルイザちゃんの所に行きたいけどいいかな?)


 冬用の暖かそうな長袖長ズボンに着替えたステラは、私に『忘れ物は無いか?』という意味で確認を取る。


(私からは特に何も無いよ)


 ステラは部屋を出ると母親に出かけることを伝え、玄関の扉に向かった。

 靴を履いていると呼び鈴の音が鳴った。

 つまり誰か来た。いたずらでなければ、だけど。


 玄関を開けるとそこには不愛想で不機嫌な目つきの女がいた。赤い髪で冒険者といった薄い鎧の格好をしている。

 見覚えが全くないけど……誰だろう?

 ステラの母の知り合いかな?


「お姉ちゃん?!」


 そう声を上げながら驚くステラ。


 そういえばステラは姉がいると言ってたね。

 姉らしき女はステラの言葉に一瞬ピタっと固まると次第に表情が崩れ、今にも泣きそうになりながら抱き着いてきた。


「ステラアアアアア!!」


「わぁっ?!」


 大声を挙げながらギュッとステラを強く抱きしめる姉。

 ケミーの時とは違い全く抵抗しないステラ。けども突然のことに驚きはする。


「うぅぅぐすっ、攫われたと聞いてぇ、ずっと、探してたんだぞ!!」


 姉はステラの体に鼻水が付かないようなのか液体でぐちゃぐちゃな顔を遠ざけた。


「ええっ?! そうだったんだ。長い事お姉ちゃん見かけないなと思ってたら……迷惑かけてごめんなさい」


「お前は悪くない! すぐに冒険者ギルドに確認を取らなかった私が間抜けだっただけだ」


 そう自分を責めた後、ステラから体を離し、ティッシュを取り出すと鼻水と涙を拭った。


(ステラ、お姉ちゃんの名前ってなんだっけ?)


(ミレラだよ)


(ミレラね、覚えた。それで久々の再会だけど今日は姉と過ごすの? 予定通りルイザのところに行く?)


(え? もちろんルイザちゃんの所に行くよ?)


 ステラは迷いなく即答した後、ミレラに告げる。


「お姉ちゃん。私、友達の所に行ってくるね」


 まだ泣き顔のミレラの横を通りすぎた後、背後から呼び止められる。


「あ、ちょっ、待てよステラ! 今日はステラは休日ってことだよな? 久々の再会だし、私と過ごさないか?」


 ミレラの誘いにステラは困惑する。


「えぇと……ごめんお姉ちゃん。たまにしか会えない友達と過ごしたいからお姉ちゃんとは帰ってからでもいい?」


 ミレラは腕を組み、しかめっ面で唸り、こう切り出した。


「一緒について行ってもいいか? ステラの友達ともちょっと話をしてみたいと思ってさ。それに私がいれば万が一にも攫われるなんてことはもう起きないぞ!」


 自信に満ち溢れる態度に対し、ステラは困惑を見せた。


(デシリアがいるし攫われる心配なんて全くしてないんだけど、その事をお姉ちゃんに言う訳にもいかないよね……)


 ステラは少し悩んでから答えた。


「来てもいいけど邪魔にならないようにお願いね」


「任せとけ!」


 ミレラは自信満々に声を上げ、ステラの隣に並ぶと嬉しそうに歩き出した。


 * * * * *


 建物を出て外を少しだけ進むと背後からのラズリィの声にステラは足を止めた。


「ステラ、待って」


「え、ラズリィ……? こんな所でどうしたの?!」


 深刻そうにステラを見つめるラズリィ。もしかして偶然会ったわけじゃなくステラが家から出て来るのを待ってたのだろうか。


「私言ったよね? セシルと関わらない方がいいって」


 ラズリィは前置きも無しにいきなり告げた。


「あぁ、あの嫌がらせのこと? セシルと関わったから起きたみたいだね。でももう何も起きないと思うよ」


 犯人は恐らく全員捕まったのだろう。標的がレイラに移ってからはすぐに嫌がらせは途絶えてる。


「私はそうは思わない。もっと酷い事が起きると思う。私はステラのことが心配なんだ。セシルとは距離を置いて欲しい」


 そんな話をされても事情が分からずキョトンとするミレラ。彼女は興味深そうにステラに聞き始める。


「なんだなんだぁ? ステラ、学校で何かあったのか?」


「大したことじゃないよ。もう解決したから大丈夫」


 ミレラはラズリィにも言葉を向けた。


「おいラズリィ、そのセシルというのはなんなんだ?」


「そ、それは……ステラが大変な目に合って欲しくないから」


 ラズリィは視線をステラに逸らす。

 その目は尋常じゃないほどに不安そうだ。


 もしかしたら子供だから大したことじゃないことにも大げさに危機感を抱いてるのだろう。


「心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫だから。あと前にも言ったけど勉強を教えてくれる人がいないと困るからセシルに代わる人がいないと関わるのをやめるのは難しいよ」


 ステラはそう答えた。

 ミレラはそのことについて疑問があるらしくステラに確認を始める。


「おい、確か前はラズリィが勉強教えてなかったか? 今は違うのか?」


「うん。夏休みに色々あってラズリィを巻き込まないようにするためにラズリィとは友達をやめたんだよ」


 ステラは少し寂しげに答えた。


「友達をやめた……ってなんだ? 何があったんだ?」


 ミレラの表情が変わり、少し重々しくなる。


「え? あ……えーっと」


(どうしよう、夏休みに攫われた事を言ったらマズイよね?)


 ラズリィが捕まってステラをおびき寄せる餌になったから巻き込まれないように友達をやめたのだけどそれを教える訳にも行かない。


 そのことはラズリィとステラだけしか知らない。ちなみにどうやって窮地を抜け出したかはラズリィには教えていない。


 ラズリィはステラが喋る前に口を開く。


「ステラ、セシルのことはもうこれ以上は言わないでおくね。今日会いに来たのは他に言いたいことがあるからなんだ」


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