126 チッピィの見間違え? 1
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夜、電気の照明により視界良好なステラの部屋でチッピィが目撃した犯人の確認作業に取り掛かる。
ステラが生徒の顔写真が載るアルバムのページを捲っていくとチッピィはとある女子生徒を前足でトントンと突ついた。
「この子です」
見知らぬ顔だけどチッピィが言うにはこの子が犯人らしい。
「この子かぁ……。でも証拠が無いままだと知らない振りされちゃうよね。私が悪者扱いされちゃいそう」
というわけで現行犯で捕まえることにした。
ちなみに犯人は別クラスだけどどこにいるかまでは分からない。
でもクラスメイトを除外できるのでその分は楽になったかもしれない。
「チッピィありがとうね。もう見張りはしなくていいから」
「分かりました。無事解決するといいですね」
ステラはお礼とばかりにチッピィの頭を優しく撫でた。
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翌日。
前よりもさらに1時間早い朝8時に登校したステラは教室の入り口を遠くから隠れて監視を始める。犯人を見つければすぐ駆けつけられる絶妙な場所だ。
この日はまだ席が荒らされる前だったのでいよいよ捕まえることができそうだ。毎日荒らされてたのでいきなり止む可能性は低いだろう。
少し待っていると犯人とは違う人が教室に来た。クラスメイトの女子だ。
彼女はその教室の生徒ということもあり堂々と中に入っていく。
「もう犯人の顔は分かってるからあの子は違う。今行っちゃうと犯人が私に気づいて何もせず逃げちゃうかもしれないから、現れるまで待たないとね」
ステラはボソボソと声を漏らす。
少しするとその女子は教室から出て行った。
今は誰も教室にいない。犯人にとっては絶好のチャンス。
(さぁ、来い)
そろそろ9時になる。昨日だとその時間には既に荒らされてた。だから犯人はやってくるだろう。そう期待しながら待った。
しかし9時になっても犯人は姿を表さなかった。
(もう少し待つ?)
私はもう来ないと思いつつ聞く。
(犯人の顔は分かってるんだから、もちろん待つよ)
それからしばらく待つもののクラスメイトが教室に入る以外の変化はなかった。
(ステラ、これだけ人がいたらよそのクラスの子だと目立つし何もできないんじゃないかな?)
(なんで今日に限って犯人が現れないの? もしかしてチッピィが間違えたんじゃ……)
チッピィを疑いながらもステラは教室に入る。
クラスメイトはステラに視線を向けるものの挨拶をしない。まだセシルは来ていないけど彼なら挨拶してきたかもしれない。
ステラは椅子を引き、無警戒に腰を下ろす。
「ぎゃふぅ!!」
違和感に気づくと変な声を出し、飛び上がる。クラスメイトが何事かとこちらに視線を向けるもののステラはそれらを気にする余裕は無い。
座面には粘度の高い透明な液体が付着していた。
(今日は何もないはずじゃあ。え? まさか犯人って……)
チッピィが指摘した犯人が教室に入る様子は見られなかった。
教室にはクラスメイト以外の出入りは無かった。
つまり犯人はクラスメイトしか考えられない。
一番怪しいのは最初に教室に入った子だけど、犯行の様子は目撃できてないので決めつけるわけにもいかない。
(明日は絶対捕まえてやる!!)
何度も嫌がらせをされれば心が折れてもおかしくはないけど、ステラはまだ大丈夫そうだ。
ちなみに明日は休日なので次に見張るのは月曜日だ。
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休みが明け月曜日の朝8時。
ステラはまだ誰もいない教室に入り、自身の席に何も起きてないのを確認。
そして教室を離れ、入り口を遠くから見張る。
(ステラ、チッピィは別のクラスの子が犯人って譲らなかったけど、もしかして複数犯なんじゃない?)
先週の土曜日に帰宅後、ステラは犯人とされる子が現れなかったのに席が荒らされたことをチッピィに報告した。
アルバムで再度確認したけどチッピィが見た犯人はやはりクラスメイトでは無いようだ。
ということもあり念のため今日はチッピィも見張ってくれている。私達とは別の場所、人が潜めない場所から教室を監視している。
(複数犯……そうは言ってもさぁ、まずは一人でも捕まえないといけないでしょ。あ、誰か来たよ)
ステラが先に気づき、遅れて私は視線を向ける。
現れたのは別クラスの見慣れない子。手には物が入った袋を持ち、不審な動きは見せず、さもその教室の生徒のような自然体で入っていく。
(クラスメイトじゃないしチッピィの指摘した犯人ではないけど絶対あの子だ! 嫌がらせに何人関わってるか聞き出してやる!!)
ステラは慎重かつ迅速に教室内が見える位置まで移動する。現行犯で捕まえないととぼけられるからね。
扉からこっそりと顔を出し少女の観察を始める。ステラの予想通り少女はステラの椅子に何かを置き始め、そして机にもペンで何かを書き始める。
次にロッカーを開けようとしたところでステラは教室に突入した。
少女はビクッと体を震わせると瞬時にこちらへ見開いた目を向けた。
「今までのは全て君の仕業だったんだね!」
ステラは楽しそうな大声を上げた。憎しみを込めそうなもんだけど大して効いてなかったのかもしれない。
「今まで? っていうかあんた誰?」
少女はステラに向けそんな言葉を発した。ということは別の生徒の席と間違えた可能性が……いや、あるわけない。
今日だけたまたまステラ以外が標的にされるなんて不自然すぎる。
「その机は私のだよ、分からずにやってたの? 私が目的じゃないなら誰にやろうとしてたのさ!」
少女は少しの沈黙の後、口を開く。
「見つかってしまったなら仕方ないか。で、私をどうするつもり?」
ステラは少女を先生の所に連れて行き、後のことは任せることにした。
少女がどうなるかだけど、先生が言うには親に知らせるらしいので後々少女とその親からステラに謝罪が来ることだろう。
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月曜日の次の日になった。つまり火曜日。
今日も監視をするために朝早く家から出ようとすると母が不審に思ったのか聞いてきた。
「最近出るの早いけど何してるの?」
ステラは言い訳を用意してなかったのか返事に間が空いた。




