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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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125 嫌がらせ 1

 * * * * *


 剣術大会が終わり、翌日からはいつも通りの学校が始まる。


「おはようステラ」


「おはようセシル」


 二人とも剣術大会でのことは口にせず以前と変わりない風景。大会での事でセシルにはもしかしたら心境の変化はあったのかもしれないけど、少なくともステラはセシルに興味がない様子だった。

 ラズリィは教室に入ると一瞬だけステラを見るとすぐに逸らした。ステラも気を使ったのかすぐに逸らしていた。


 昼の休憩時間は勉強で遅れているステラのためにセシルが勉強を教えるとのことで2人は図書室に籠った。

 図書室には他にも人がたくさんおり、一部の女子はステラとセシルを見てひそひそと話をしていた。


 そんな地味な日々が1週間経過した。


 放課後、ステラが同好会へ向かおうとするとラズリィの声がステラを止める。


「ステラ」


 久々の呼びかけに戸惑うステラ。

 ラズリィの表情は固い。

 仲直りがしたくて声を掛けて来たのだろうか?


 ステラは仲直りをしたいという気持ちとラズリィを危険に巻き込みたくないという思いが混ざっている。


 どうすればいいか分からないながらも無視はしたくないようで相手することにした。


「どうしたのラズリィ?」


「ステラさ、最近セシルと一緒にいる姿をよく見かけるよね」


「勉強を教えてもらってるんだよ」


「セシルとはあまり関わらない方がいいよ」


 ステラはどういう意味なのかを考えたのだろうか、僅かに間を置いてから声を出した。


「なんで?」


「それは……、とにかく関わるとステラのためにはならないよ」


 ラズリィが教えてくれなったからかステラの声に苛立ちが混ざり始める。


「はぁ? 自力で勉強しろってこと? それが出来ないからセシルに仕方なく頼ってるんだけど……。また前みたいにラズリィが教えてくれるならいいよ」


「ごめん、それはできない」


 ラズリィは少しだけ辛そうに断った。


「じゃあ諦めて。私の心配をしてくれるのはありがたいけど、何があってももう大丈夫だから心配しないで」


「また攫われても大丈夫だっていうの?」


 ラズリィは何かを知っているのだろうか?

 気になる言葉にステラの目が少しだけ大きく開いた。


「セシルとそれって関係あるの?」


「ないよ」


「じゃあ何の心配してたの?」


「……とにかくセシルからは離れて!」


 ラズリィは駆け足で遠ざかっていった。

 ステラはその場から見つめていると横から別の声が掛かる。


「ボーっと突っ立ってどうしたんだステラ?」


 ボニーだ。そしてその奥には兎猫がいた。あれはチッピィだ。しかしチッピィはすぐに姿を消した。


(ステラ、チッピィがいたよ)


(え、本当? どこ?)


(あっちの方に消えていったよ)


(あっちってどっち?)


 チッピィの事に集中していると背後のことなど知らないボニーが話を続ける。


「そういえば最近昼休憩にセシルと一緒に勉強してるそうじゃないか。どういう関係なんだ?」


(ステラ、とりあえずチッピィのことは後で本人から聞いてみよう)


 私の意見にステラは同意し、ボニーの質問に答える。


「勉強教えてくれるっていうからお願いしてもらっただけだよ」


「いや、そうじゃなくてだな。仲が良くないとそういう話にもならないだろ? 友達なのか? 付き合ってたりするのか?」


「どっちでもないただのクラスメイトだよ。いつも向こうから声を掛けて来る以外は特に関係はないかな、というか私まだ小学生だよ? 付き合うとか考えたことも無いよ」


 ステラが動じない辺りセシルの存在はそういった関係を意識してしまう程ではないようだ。


「ステラ、そのセシルはな、女子に非常に人気があるんだ。きっとお前の事を羨ましく、あるいは恨めしく思う子もいるだろう」


「へぇ、そうなんだ。でも私は興味無いし」


「そうなんだ、じゃないぞ。お前に嫌がらせをする者が現れてもおかしくはないんだ、覚悟はしておいた方がいい」


「ボニーも私に嫌がらせする?」


 ボニーは『フフッ』と笑いながら否定した。


「私はそのセシルとやらに興味は無いから心配は無用だ。で、ステラはどう思ってるんだ?」


「勉強教えてもらってるお礼をしなきゃいけないと思うと、ちょっと面倒だなって思ってる」


「特にどうとも思ってないってことか。ふふふ、はっはっは」


「ボ、ボニー?」


「人生ってのは思う通りにいかないものだな」


 セシルのことを言ってるのだろうか。他の女子は何もせずとも勝手に寄って来るのに狙った相手――ステラに限っては自ら寄っても良い反応を貰えない、ってこと?


 セシルがステラを狙ってるかは確証はないけど他の女子よりも声を掛ける頻度が多いのでおそらくそうだろう。

 じゃなきゃ勉強なんて教えようとも思わないはずだ。


「そうだね、時間は掛かっても人生思った通りにしてみせるよ!」


 ステラは自身の事を言ってるのだと捉えたようだ。

 ボニーはその言葉に反論せず乗っかる。


「そうだな。次の小学生最後の大会では今までの成績を超えなきゃな」


 二人は一緒に同好会の稽古場へと向かった。


 * * * * *


 さらに2週間が経過し、その間にステラはひとつ年を重ね12歳となった。


「そろそろ休憩時間も終わりだな。勉強はこの辺で終わるか」


 図書室で椅子に座って勉強していたセシルとステラ。

 セシルが終わりを告げるとステラは解放感からか笑顔になった。


「やっと終わった~……あぁでもすぐに授業かぁ」


「そんなに勉強が嫌なのか?」


 その疑問にステラは苦しそうな顔を見せた。


「嫌に決まってるよ、セシルは違うの?」


「ただただ目の前のことをこなすことだけに集中しないと手が止まっちゃうからな。だから嫌だとか思わないようにしてる」


「はぇ~セシルって大人だね~」


「大人というか、しなければいけないから仕方なくやってるだけだ。そんな日々から逃げ出したいけどな。ステラは卒業したらすぐに冒険者になるんだっけ?」


「あれ、教えたっけ? そうだよ、お姉ちゃんみたいな冒険者になりたいんだ」


「……俺もなろうかな~、なんてな」


「なればいいじゃん」


「親に言われて登録だけはしてるから一応冒険者ではあるけどな。まだ依頼をこなしたことは無いけど、そんな暇があるなら勉強をしろと言われてるから無理だ」


「いいなぁ。あ、でも活動できなきゃ意味ないか。ねぇ、なんで冒険者登録だけ済ませたの?」


「もし俺が死んだときのための保険らしい。冒険者ギルドは冒険者なら死人でも蘇生が可能らしいから、それだけのための登録だ」


「なるほど。で、セシルは中学校に進学するんだっけ?」


「進学しないのはステラくらいだぞ。……羨ましいな」


「羨ましいならセシルも冒険者やればいいのに」


「もし俺が冒険者やるってなったらさ、ステラは俺のチームに入ってくれるか?」


 ステラはほんの僅かな時間、視線を斜めに向け、またセシルに戻した。


「ごめんね、先約があるから難しいかも。男を入れるとなるとみんなと相談が必要かな」


「先約か……じゃあステラの気持ちはどうなんだ?」


「私は……」


 ステラは長く沈黙した。

 その様子からセシルは駄目だと感じたかもしれない。


「ステラ、遅刻しないように教室に行きながら話をしようか」


 二人は早足で教室へ向かった。

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