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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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124 いらないものほど自然と集まる 1

 * * * * *


「行って来ます!」


「気を付けていくんだよ」


 母に見送られ家から出るステラ。

 全身を学校制服である白いシャツと茶色のスカートを纏い、教科書が入った鞄を持ち、重い足取りで車や人が行き交う通りに出た。


 そして足が止まった。


(どうしたの?)


 私はステラに声を掛ける。

 また恐怖で足が竦んでしまったか?


(久々の学校だから、行くの嫌だな~って)


 ステラは嫌そうな顔を隠さずに、しかし明るく答えると歩き出した。もう攫われた時の恐怖は克服できてるようだ。


 * * * * *


 1カ月ぶりの教室は休みの間も誰かが掃除をしていたのだろう、綺麗な状態で迎えてくれた。

 既にクラスメイトの半数が登校していて、話をしていたり椅子に座ってボーっとしてたりする。


 みんなステラの存在に気づくものの挨拶はしてこない。ステラからもしない。

 ステラはいつもの席に座り、ホームルームが始まるまで暇そうに待つ。


 少しすると犬人のラズリィが教室に入って来た。

 彼女はステラの姿を見ると一瞬笑顔を浮かべた後、何かを思い出したのか気まずそうに顔をしかめた。


「おはようラズリィ!」


 元気よく声を掛けるステラの前の席にラズリィは座った。


「おはようステラ。無事、だったんだね」


「無事? ああ、あの時のことか。うん、大丈夫だよ」


 ステラは心配させないためなのか笑顔で答えた。


「そのことで昼の休憩にちょっと話がしたい」


 * * * * *


 昼の休憩時間となりラズリィはステラを人目の付かない場所に連れ出した。


「ステラと友達をやめる」


 ラズリィは不本意そうな顔でステラに告げた。


「え?」


「あの男の人達、私を利用してでもステラを捕まえようとしてた。ステラと関わっていたらまた攫われてしまいそう……」


 ステラを捕まえるために大切な友達であるラズリィを利用してきた。それが怖いからかラズリィはステラとの関係を終わりにしたいようだ。


 ステラは何も言い返せなかった。


「そっかぁ。うん、私からは声掛けるの……やめるね」


 そう告げるステラの声は弱々しかった。


 昼食は初めて別々で取ることになった。

 ステラが一人寂しく料理を口に運んでるとセシルが近づいてきた。


「一人とは珍しいな。ラズリィは?」


「……知らない」


「そうか、じゃあ正面の席使ってもいいか?」


 セシルはステラの正面の席に目を向ける。


「いいよ、誰も座らないし」


 セシルは料理の乗ったトレイをその席に置き、椅子に座った。

 少しの間、お互い無言が続いた後、セシルが切り出す。


「そういえばもうすぐ剣術大会だったな、ステラも出るんだろ?」


 ステラが出るのは小学生の部門で次の日曜日だ。


「……どうせ2回戦辺りで負けると思うよ」


「俺、応援しに行くよ」


 その言葉にステラは嫌そうに返す。


「来なくていいよ、すぐ負けちゃうから見てても面白くないし」


 そう言う割にルイザには応援をお願いしていた。


「でも前はレイラに勝ってただろ。あいつに勝てるんなら4回戦くらいはいけると思うぞ」


「あれはレイラがわざと負けたんだよ。だから私はすぐ敗退するよ」


「あいつは負けそうだと感じたからわざとという風にしたんだ、そうに決まってる。だからステラの応援に行ってもいいか?」


「む……負ける姿見られたくないから来るなって言ってるんだけど。どうしても来たいなら勝手にどうぞ」


「ご、ごめん。そこまで気が回らなかったよ」


 気まずくなったのかその後は沈黙が続いた。にも拘らずセシルは食べ終わるまで席を移動することはなかった。


 そして時間は過ぎ、放課後。

 ラズリィはステラを気にするような素振りは見せるものの関わることはせず、さっさと帰って行った。


「……はぁ」


 ステラはため息を吐く。

 ラズリィが離れていくのと対照的にセシルは近づいて来た。同時に数人の女子の視線がこちらにも向く。

 目の前に来たセシルは優しく告げた。


「同好会に行くのか? 頑張れよ。……何か困ったことがあったら俺に相談してくれ」


「ありがと、何かあったらお願いするね」


 ステラはいつも通りの口調でそれだけ返すとセシルの背中を見送り、同好会へと向かった。

 

 ラズリィの事が効いたのか稽古がいつもより振るわず、ボニーに心配された。


 * * * * *


 数日後。

 ラズリィとは仲が戻らず離れたままだ。お互い悪感情を持ってるわけではない。ステラに関わり過ぎると攫われる危険があるためこうなっている。


 ステラからは声を掛けるわけにはいかない。しかし相手から近づいて来るなら受け入れるつもりだった。

 そんな中、セシルが勉強を教えようかとステラに近づく。


「ラズリィがいないと勉強に困ってるんじゃないか? そういえばあいつと何があったんだ?」


「何がって……」


 ステラはそこまで言うと口を閉ざした。


「言いたくなければ言わなくてもいい。それよりも俺が勉強教えようか? 昼の休憩時間くらいしか付き合えないけどそれで良かったら手伝ってやるよ」


「じゃあ……お願いしてもいいかな?」


 ステラは今まではラズリィがいたから断っていたけど、ようやくセシルの厚意を受け入れた。

 1人だと勉強が思うように進まず、そのせいで授業についていくのに苦しくなっていたからだ。

 ステラにお願いされたセシルは小さく笑顔を見せると頷いた。


「俺に任せろ。ラズリィほどじゃないがクラスの中では上位だから俺でも十分に手伝えると思う。じゃあ明日からよろしくな」


 そしてセシルと一緒の時間が少しだけ増えることになった。

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