123 夏休み最終日は賑やかに終わる 1
ブラッド達との戦いから数日が経った。
ステラがまた外出に恐怖を感じるのではないかという心配はあったものの、意外と平気そうだった。
(デシリアがいる限り私って安全なんだと分かったから、気が楽になったよ)
勇者やら魔王なんていう現実感の無い相手に勝てるよりも、身近な脅威を圧倒できたことの方が不安の解消に繋がったみたいだ。
残りの夏休みは剣術同好会やルイザやエドガーと剣術の稽古や遊んだりするなどして過ごし、とうとう夏休み最後の日がやってきた。
(明日から学校か~、行きたくないなぁ)
ステラはいつもより元気がない。最後の休みくらい元気よく過ごせばいいのに。
(ラズリィに会いたくないの?)
ラズリィは学校での唯一といっていい友達。
ちなみにラズリィとあの別れをして以降は学校関係者とは会っていない。
(今はそんな気分じゃないよ。ルイザちゃんやケミー達が目の前にいるんだもん)
以前ケミーは剣術がどれくらい上達したかステラに見て欲しいと言ってたので、今日は剣術の試合をすることになった。
それを観戦するためにみんな集まってくれている。
試合を行う場所は冒険者ギルドが所有する個室の室内訓練場。
ケミーとキディアは初めて来たらしくキョロキョロと見回す。
「わー、こんな場所があるんだー!」
ケミーは目をキラキラさせながら室内を見回す。
以前ステラがルイザに連れられて来たときはケミーほど感動はしてなかったな。
今日はケミーに剣術を教えてるピンク髪の冒険者――カタリナも来ている。
カタリナはケミーと同じくらいの身長だけど年齢はカタリナの方が倍くらい上だ。
「ケミーちゃん、勝ち負けは気にせず学んだことを出し切ることを意識してね」
「分かったよカタリナちゃん!」
ケミーが一回りくらい年上の相手に『ちゃん』を付けてるところから仲の良さが窺える。
(ねぇステラ。ピンク髪の人がいるけどどうしようか?)
(どうしようかってのは?)
(ケミーはステラの事を凄い子供だと思ってるでしょ?)
ケミーはステラのことを大人よりも凄い子供だと認識しているが、その強さの理由が私のことだとは知らない。
そしてカタリナはステラがただの子供にしか見えてないはずだ。そんな彼女の前でケミーに負けるわけにいかないからと子供らしからぬ実力を発揮するわけにはいかない。
だからといって素のステラの実力でケミーに挑んでは負ける可能性はありえなくもないだろう。
(ステラが弱かったらケミーはきっとガッカリするよね)
(う、そうかもしれないなぁ。……負けたらどうしよう)
(だからと言って強すぎるとカタリナにどう思われるかな?)
(でもデシリアが戦うわけじゃないからそうはならないよね)
(そうだね。でもステラが弱すぎたらケミーはどう思うかな? ケミーはステラには絶対に勝てないと思ってるはずだよ。それだけ評価されてるステラが負けたらガッカリするんじゃないかなって)
(デシリアさぁ、プレッシャー掛けないでよ!)
負け癖がついてるステラはどんな相手でも不安に感じるようだ。
(ああ、ごめんごめん。もう余計な事は言わないことにするよ)
ステラは剣術歴がケミーより上で体力も上というのはカタリナ含め全員が知っている。私が戦わないにしても負けはしないだろう。
そんなことを考えてるとルイザがケミーへ近づいていくのが見えた。
応援の言葉でも掛けるのかと思っていたら――
「ケミー、私もあなたと試合をしてみたいのだけど、ステラとの試合が終わった後でよろしいかしら?」
ただの頼み事だった。
「もちろんだよ!」
ケミーは嬉しそうにそれを受けた。
ルイザはたまにステラの剣術の稽古に付き合っていて、その時のルイザは活き活きとしていた。年が近くて実力も近い同士でやるのは楽しいのだろう。
そんなやりとりの後、ステラとケミーは全身を防具で包み、練習用の安全な剣を構え、試合の準備を整えた。
審判はカタリナがやるようで彼女は二人に試合形式について簡単に説明を始める。
「試合は点数形式で行います」
点数を多く稼いだ方が勝ちという競技性の高い形式で、特定の場所に打つと加点される。
正式な試合では魔術や魔法による強化は禁止とされているけど、今日は練習試合なので怪我をしないように防御面の身体強化だけはOKにしてある。
カタリナがケミーとステラに身体強化を施してくれたためまず怪我はしないだろう。
とはいえ念のためにステラには私からも掛けておいた。
カタリナは初めての試合に臨むケミーへ確認のために声を掛ける。
「ケミーちゃんは初めての試合だしおさらいしようか。どこに打つとポイントが入るかは分かってるよね?」
「こことこことここに打つとポイントが入るんだよね?」
「そうそう、分かってるなら大丈夫だね。それじゃあ始めようか。ケミーちゃん、開始の合図はお願いね」
「分かった!」
ケミーは恐る恐るステラの剣に自身の剣を近づけていく。
あと少しで触れようというところでステラに向かって不安そうに言葉を発した。
「ステラちゃん……怪我させたらごめんね」
さっきまでケミーは楽しそうにしてたのに今は緊張が体の動きからも分かる。
ステラ相手に武力を行使することに今更ながら怖くなったのだろう。
「もし怪我をしても私のはルイザちゃんが治してくれるから遠慮なく打ってきてよ!」
二人の怪我はカタリナが治す予定だったけど、ルイザが「ステラの分は私が治す」と引き受けてくれた。
「じゃ、じゃあ、よろしくねステラちゃん!」
ケミーは戸惑いの感じられる声を力いっぱいに飛ばすとステラの剣を軽く弾いた。それを合図に試合は始まった。




