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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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122 悪人はよく嘘を吐く 3

 私が近づくとレフが先に声を出した。


「俺を殺す気か?」


「安心して、痛みは多分ないまま逝けるから」


「それはありがたいことだな。それで、お前は本当に子供なのか?」


「子供だよ、見て分からない?」


「お前の強さは子供にしてはありえない。本物のステラはどうした?」


 子供にしてはありえないというのは、力の元が大人である私のものなので間違ってはない。

 けども、この体はステラの物だし、ステラの人格もきちんと存在してるので本物のステラということを否定することもできない。


「えーっと、どういう意味?」


 こう返す以外はないだろうな。


「今はお前がステラとして生活をしてるんだろ? 目的はそうだな……子供からの情報収集といった所か。なぜバレずにやっていけてるのか興味はあるな。大人なら一見いっけん幼い姿をしていても、顔つきに現れる年齢を誤魔化すのはまず不可能だ」


「何を勘違いしてるのか知らないけど、正真正銘私がステラですよ?」


「まぁ、教えてもらえるとは思ってないさ」


「だから、私がステラだってば!」


「さて、わずかな可能性に賭けて最後のあがきをさせてもらう」


「おぉぉい!!」


 無視されたけど、どう思われても今更関係ないか。


「ところで、命乞いはしないんだ?」


「どうせ無駄だからな」


 レフはそう答えると剣を両手で構えた。そして顔を深く下げた後、天井を見上げ深呼吸をし、最後に私の方へ顔を向ける。

 私は相手の準備が整うまで大人しく待ってあげることにした。


 レフはニヤリと口角を上げ、そして反響するほどに大きく笑うと前に飛び出した。


「はーっはっはっはっはっ!! 俺の最後がこんなしょうもない所で終わるとは思わなかったぜ!!! 愉快だねぇ!!!」


 ヤケクソな態度に似合わずランクAのブラッドとは比較にならない圧倒的な速さ、とはいえ勇者と比べれば圧倒的に遅く見えた。


 レフの剣から霧のような黒いものが出始め、徐々に周囲が黒く染まっていく。視界を奪えばどうにかなると思ってるんだろう。


 私は後ろに下がると、すぐ目の前を剣が通り過ぎ、髪を乱すほどの黒い風が吹いた。

 見えない視界だけど音の出方でレフのおおよその位置は分かる。


「くらええええ!」


 レフの叫び声。これでは避けてくださいと言ってるも同然。

 しかし振られた剣は私が何をするでもなく大きく外れたようだ。相手もハッキリとこちらの距離を測れてないように感じる。


 とはいっても私のいる場所はおおまかには分かっているようだ。

 レフは床だけではなく壁と天井も駆け回ってる。爆弾のような激しい足音と剣を振ったときの風切り音が何度も耳に入ってくる。


「私に攻撃が届いてないんだけど、わざと? だったらこちらからも動くよ」


 さて、こちらからも攻撃を始めようかな。しかし視界が閉ざされてしまっては上手く狙えない。


 黒い霧、私を倒すには意味ないけど私の攻撃手段に制限を入れるには有効だ。


 でもそんなことをしても無意味そのもの。逃げ場がない以上、いつかは私に追い詰められて消されるだけ。ただの延命行為。


 私が何もしなくても彼の絶望が大きくなっていくだけ。


 今すぐ消滅魔法で苦痛なく消してあげたいところだけど、こう視界が悪いと厳しいかもしれない。遠隔魔法で部屋全体に大して発動しようにも、助ける約束をした男もいるので無差別に魔法は放てない。


 何気に厄介だ。


 一旦、風で黒い霧を端に追いやってみるとしよう。そうすれば少しの間だけ視界を確保できるだろう。


 全身から風を強く発生させると予想通り私の近くほど視界が晴れていき、壁側が黒く濃くなった。

 周囲を見回しレフの姿を探して見るものの、見逃した男はいるのにレフはなぜか見当たらない。


 でも何故か爆弾のような足音だけは聞こえる。


「あ、足音も止まった」


 最後に足音の場所に視線を向けてみるものの誰もいない。つまり居場所を特定されないように音を遅れて発生させる魔法でも使ったと言う事か?


「ということは……まさか、とっくに逃げられた?」


 とりあえず扉の方を調べてみるものの開いてる様子はない。急いで逃げるのならわざわざ閉めることもないだろうから扉からは流石に逃げていない。


 もう一度部屋を見回してみる。


「なんか落ちてる」

 

 霧のせいで分かりづらかったけど床にはレフが使っていた剣と蓋の様な物が落ちていた。

 近づいて蓋の様な物を手に取って見回す、細かな穴が沢山空いている。


(ステラ、さっきまでこんなもの無かったはずだけど、これって何だろう?)


(アレに似てるね)


(アレ?)


(いろんなところの天井に付いてるなんかよく分からないヤツ)


 ステラに言われて天井を見上げてみると、そこには四角い穴があった。黒い霧がそこに徐々に吸い込まれていく。


 この穴は、何? もしやここからレフは逃げたというの?


 黒い霧が吸い込まれてるようだったのでとりあえず部屋が完全に見通せるまで待つことにした。

 ほぼ霧が消えた頃に部屋にレフの姿がないことが明確に分かった。


 やはり天井の穴から逃げた可能性が高そうだ。


「うーん……いまさら追いかけても、もう外に出てるかもしれないなぁ」


 もし外に出てるならそんな穴から追いかけず普通に扉から出た方が速く追いつけるだろう。


「外だと目立ってしまうし、追いかけるわけにもいかないか」


 悔しいけど気持ちを切り替えよう。

 レフは私に勝つ方法が無いと分かった以上、関わってくることは恐らくないだろう。


 さて、こんな所にもう用は無いので帰るとするか。

 と、その前に私は一人だけ生き残った男に向かう。


 そしてその男に手を差し出す。

 男は意味が分からないようで数秒ほど見つめたあと怯えたまま、それについて尋ねてきた。


「な、なんですか?」


「握手して」


 あんまり握手はしたくないけどね。


 男が手を握ったのを確認した私は強く握り返す。


 すると硬いものが砕けたような、そんな不穏な音が耳に入る。


「あーっあーっ!!! ぎゃあああああああ???!!!!」


 男の絶叫がうるさいので私は空いてる方の手で口を塞いだ。


「ふごおおおおおおおお、ふごおおおおおお!!」


 手が唾で汚れて気持ち悪い、でもすぐに解放するわけにもいかない。

 5秒ほど経過してから力を緩め、砕いた手を治してあげた。


「今の痛み覚えておいてね」


 私はそれだけ告げるとレフの剣を回収し、操作盤で開錠してから扉を開け部屋を後にした。


 * * * * *


 ステラ達が去ってしばらく経った後、ダクトに潜んでいたレフは天井の穴から降りた。


「ダクトから外に逃げれる構造にはなってないから一か八かだったが、なんとか命拾い出来たな。あれから4時間近く経ってるだろうからさすがにあのガキはもういないな」


 レフは部屋を見渡し、落とした剣がなくなってることに気づく。


「ああああ、くそぉぉ!! また剣を失ってしまった。命を失うよりマシだとしても悔やみきれん、いくらしたと思ってるんだ!! こうなったのもブラッドのせいだ! あの野郎、クソみたいな仕事をよこしやがって!」


 レフは椅子を思いっきり蹴り飛ばす。

 だからというわけではないがすぐに気持ちは鎮まった。ブラッドがもうこの世にはいないことを思い出し、別の感情が湧いて来た。


「とはいえ、あんな危険な子供がいるなんて想像できるわけないな。どちらにしてもこんな稼業をしてれば命を落とすことだってあるか」


 ブラッドとの関わりは多くは無いため感傷は薄い。レフは特定の組織に属せず活動してるため、どことも強い繋がりは無い。


 静かな部屋を見渡す。誰もいないということは扉の問題は解決したのだろう、と考え操作盤に向かう。

 蓋はあっさりと開いた。


「鍵はかかってないのか。ならすぐに出れそうだ」


 外へ出ると周囲は赤色に染まっていた。


「この町での活動は命を落とすかもしれないな。便利な場所だったんだが、命には代えられん、別の町に移るとするか」


 この日以降、レフがエリンプス町で活動することはなくなった。

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