121 もてあそぶ 2
全員が私に信じられないとばかりの顔を向ける。
「お、おい。今通常のランクAでも壊せないあの手錠を破壊しなかったか?」
そういえば今引き千切った手錠はランクAの冒険者を拘束するためのものだったか。
今ので私に勝てないとブラッドに思われて彼が戦意喪失したらランクAの実力を測れなくなる。いや、大丈夫か。死ぬと分かれば必死に抵抗するだろうし。
ブラッドの部下の男達が戸惑いを見せながら確認する。
「ブラッドさん、あの子供を捕えるの無理じゃないですか?」
同じく戸惑ってるブラッドは少ししてから答えた。
「いや、まだ方法はある。幸いこいつにはホールドの魔術は効く。当てるのは難しいかもしれないがそれで動きを止めながらキメラ捕獲用の袋に入れるとしよう」
ブラッドがそう説明した直後、レフは私の背後に回り込んだ。
「ホールドが効くならそれで動きを封じてしまうのがいいだろう。俺が隙を作る」
レフはそう言うと回収した複雑な模様の剣を片手で握ると私に凄い速さで迫る。
ブラッドの相手だけをしたいのに邪魔だな。
私はそんなことを思いながら、普通の人が見れば物凄い速さで動いているであろうレフの懐に――それ以上の速さで入り込む。
「あなたは必要ない」
そしてそのまま体当たりで突き飛ばした。
「ぐぼぁっ!!」
レフの手から剣が零れ、彼は勢いよく壁に激突すると床に落ち、沈黙した。
まだ死んではないようだけど強く当てすぎたかもしれない。
私はすぐさまブラッドに振り向く。
「さぁブラッドさん、ランクAの本気を見せてちょうだい!」
「お、おいレフ!」
私は戸惑うブラッドに近づき、彼の胸の中心付近に拳を突き出す。しかし弾かれた。
でも弾かれるように手加減したので想定内。
ここから少しずつ調整して相手の本気を引き出していく予定だ。
「レフを偶然とはいえ倒したのはさすがだが、どうやら俺を圧倒するほどの力は無いようだな。そんな年でここまで戦えるとは恐ろしい子供だ。ま、あの子供ほどではないがな」
「あの子供?」
ステラ以外にも強い子供がいるのか? いや、ステラ自身は強くないけどね。
ということはブラッドが知ってる子供にも私みたいな幽霊が取り憑いてる可能性があるな。
しかも今の手加減した私より上かもしれない。
その子供はブラッド並に強いということだろうしランクAに匹敵するということか。
「世の中は広いようだ。だがお前があの子供より強ければ俺なんか一瞬で倒せたはずだ」
ブラッドは攻撃を開始した。
私は相手の無駄の感じられない流れるような拳や蹴りを紙一重で避けつつ、こちらからも攻撃を繰り出していく。
そして、やはり相手もずっと手加減をしてきたのだろう。まだまだ動きが速くなっていく。
それに伴い相手の顔からは余裕がなくなっていく。私にカスリはするものの有効打を当てられない。
ある程度の所まで速くなると変化がなくなった。そこから焦りと苛立ちを見せ始める。
「くそ、なぜ攻撃が当たらん」
「それは私のセリフだよ」
私の場合はわざとだけどね。本当はまだまだ余裕がある。私の本気を1000だとしたらまだ10くらいの力しか出してないかもしれない。
いや、50くらいか? やっぱ5くらいかな?
本気なんて出す機会がまずないから全然分かんないや。魔力量次第だから何ともいえないんだよね。
まぁ勝ててればどっちでもいいか。
「くそ、まだ鍵は開かねぇのか!」
ブラッドは不機嫌な顔を部下の男達へ向ける。しかし彼らは何もせずこちらの戦いを見ていた。
「あ、えーと、その子供に蓋を開けさせると言ってたので――」
「ちっ、俺が扉をやる! お前らはこのガキの相手をして時間を稼げ!」
ブラッドは操作盤の方に駆けだす。入れ替わった部下の男達3人が少々困惑顔で私の前に立ちふさがった。
「ブラッドさんと互角とは流石としか言いようがないな。だが俺達は一人一人はブラッドさんより弱いとは言えランクBだ。決して弱くはないぞ!」
「あ、そう」
私から見ればランクAも弱い事に変わりはない。ただランクAの実力を見てみたいだけだ。
そのランクが私より弱いのは分かってるけど、知っておいても損はないだろう。知識は突然役に立つこともあるからね。
でもランクBの実力は以前キメラ討伐を共にした冒険者で見たことがあるのでここで確認する必要は無い。
だからさっさと退いてもらう。
私は3人を吹き飛ばすために全身から強い風を放出する。3人だけのつもりが周囲の椅子なども壁に勢いよく飛ばされてしまった。
「うお、な、なんなんぎゃああああああ」
「ぬおおおおおおおおお」
ランクBならこの程度で死にはしないだろうけど戦意は喪失したはずだ。最後にまとめて消したいので今は生かしておく。
念のためレフの方にも目を向けてみるとピクリともしない。あの程度で気絶とも考えづらいしこちらも戦意喪失かな?
これでブラッドとの戦いを邪魔する者はいなくなった。
蓋を切り取る作業に取り掛かったばかりのブラッドは一瞬しか時間を稼げなかったことに不満を零した。
「おいおいマジかよ、ふざけんなよ、何も出来てねーぞ?!」
「ブラッドさん以外は弱すぎて話にならなかったです。さぁ戦いましょうか」
私がブラッドの反応を待ってると、遠回しな命乞いなのかこう言い始めた。
「……俺達はただ依頼されただけだ。依頼人が別の組織に依頼してしまえば、お前はまた同じような状況に陥るだろう」
そういえば依頼で動いてるんだったね。
だとすれば次はより強い相手が迫って来るかもしれないか。
でもランクAより強いランクなんてあるのかな?
ランクAの集団だとしても雑魚の集団ということに変わりはないし、まぁ余裕だろう。
でもステラの平穏な生活のためには何度も相手にしたくない。
依頼人を潰すしかないか。
「ならその依頼人を潰せばステラに平和が訪れるってことだよね?」
「お前、さっきも自分の事を名前で呼んでたぞ。子供らしくて可愛いじゃないか」
ブラッドは危機的状況にも拘わらず「ふっ」と笑った。
自分の事を名前で呼ぶ人もいるから不自然さをどうにか誤魔化せそうではあるけど、ステラが大人になるまでには治した方がいいだろうな。
「別に自分の事を名前で呼んだっていいでしょ!! それよりも依頼人を教えてくれたら命だけは助けてあげる。教えてくれない?」
もちろん助けるつもりはない。
「悪いが依頼人が本名を名乗ってる証拠が無い以上、知ったところで無駄だ。それに教えるつもりはない。さぁ、殺せるものなら殺してみろ」
ブラッドは目を私の目に合わせ――
「ライト!」
そう言葉を発した後、彼の目から白い光が放たれた。




