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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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121 もてあそぶ 1


(デ、デ、デシリア、挟み撃ちだけど大丈夫?)


 挟み撃ちの状態にステラが不安を漏らした。


 いつも心配してくるけど、いつになったら完全に信用してくれるんだろ?

 信用されてなくても大丈夫な事には変わらないし、気にしなくてもいいか。


(大丈夫だから寝ててもいいよ)


 少なくともレフという男の剣は指だけで止めれた上にビビって逃げ出そうとするくらいだったし、大したことはないだろう。


 ブラッドはレフより弱いと自称していたけど、なぜか果敢にも立ち向かって来てるので嘘かもしれない。けども私より強い可能性はないだろう。


 あ、そうだ。ブラッドは冒険者ランクAらしいので、そのランクがどの程度のものなのか折角なので見させてもらうとしようか。

 実力を把握し終えたら他はどうせランクA以下だし全員消して、そして帰ることにしよう。


 私はブラッドに正面を向ける。

 まだ相手は攻めてこない。背後のレフからも音は聞こえない。


 何もしてこないのは鍵が解除されるまでの時間稼ぎなのか?


「攻めてこないの?」


 私は前後の二人に問いかけるものの、ブラッドは私の背後の方に言葉を向けた。


「レフ! 隙を狙って攻めるぞ。だが絶対殺すなよ」


「残念ながら約束はできない。善処はするが……」


 背後からそう答える声と動き出す音が聞こえた。私が振り向いたと同時に白く光る無数の亀裂が視界を埋める。

 あえて喰らってみるものの少しピリッとしただけで体に影響はない。


 すぐに視界が晴れるとレフの姿が消えていた。足元に目を向けるとレフはすでに接近しており、手に持った短い刃物を私の足に向けて振り始めていた。

 この中ではかなり速いけど、勇者や魔王に比べると遅すぎる。


 刃物が当たる寸前、私はしゃがみ、刃物を握ってる方の手首を掴み、レフの顔のすぐ目の前でこう呟く。


「これで本気なの?」


「なっ……今のに間に合うだとぬおぉぁっ?!!」


 驚愕するレフを操作盤の近くに雑に放り投げる。

 無茶苦茶な体勢で飛ばされたにも拘わらず見事な着地を決めていた。


 しかし彼はチャンスと見たのか私の方には目もくれず、仲間を押しのけ操作盤の蓋を開けることに挑み始めた。

 そこに注意が向かってると腕に触れられた感触があったので振り向こうとすると――


「ホールド!」


 ブラッドの声がすぐ耳元に飛び込んできた。


 おそらく魔術だろう。どんな効果なのかと思い受けるためにすぐに障壁を解いた。すると体から力が抜ける様な感覚がし、膝が徐々に下がり、お尻は床に落ちた。


「よし、成功した! まさかこんな魔術を使うことになるとはな」


 ブラッドから笑みが零れる。


 私は『ホールド』の影響なのか体に力が入りづらく、そのせいで動きづらい。

 

 なるほど。名前から想像は付いたけど運動機能を鈍くする効果か。生け捕りをするための魔術だろう。


「ブラッド! 捕まえたとしても部屋から出られなければ意味が無いぞ」


 レフの言う通り、閉じ込められたままでは意味が無い。


「そういえばそうだったな。魔術の効果が消れる前に手錠で拘束するとしよう」


 ブラッドは放置されていた革の手錠を持つと私の元に戻って来た。

 そして私の手足に手錠をかけながら彼は呆れたように呟く。


「お前の力がどれくらいか確認するのがこれほど大変になるとは思いもしなかったぞ。あとはレフが見張りを引き受けてくれれば良いが……」


「もう勝った気でいるの?」


 私が問い掛けるとブラッドは余裕そうな態度を取った。


「は? この状態で何をほざく。どう見ても俺の勝ちだ、お前が負けてないのなら今の状態から抜け出してみろ」


「まだ扉は開けられないようだし、焦って動く必要も無いからね」


 こんな手錠、私には何の意味も無い。さっき使われたホールドとかいう魔術だってまだ解除は試してないけどどうせすぐにできるだろう。

 すぐにそうしないのはどのくらいで自然に効果が無くなるかの確認中だからだ。


「手錠を掛けられてもどうにかなると? はっはっは、笑わせてくれる。俺ですらこれは無理なんだぞ」


 ブラッドは手錠をかけ終え、私を抱え上げると並んでいる椅子の上に置いた。そして彼は操作盤の蓋で悪戦苦闘するレフの元へ向かった。


「蓋は開きそうか?」


 ブラッドの呑気そうな問い掛けにレフは焦りと苛立ちを見せながら答える。


「どうやったか分からないが隙間が訳の分からない物質で埋まってる。俺の力を持ってしてもビクともしないし、魔法ではどうにもならん」


「お前の力でも無理なら細工されてない場所を部分的に切り取って穴を開ける方法しかないか。失敗すれば中の装置を壊してしまい、警報が鳴る。ま、扉は開きはするがな。だがそうなると目立ってしまう。そそれは避けたいところだが……」


 ブラッドはどうすべきか悩んだのか、ほんの少しだけ言葉を止めた。


「だがこのまま何もしないわけにはいかないか……いや、その前にステラに蓋の接着を解除させてみるか」


 ブラッドはそう言うと私の元へ近づいて来た。


「蓋を開けてもらおうか、できるんだろ?」


「できるけどやるわけないでしょ?」


「拒否するなら痛い目を見るぞ、どうする? 無抵抗の今のお前相手ならやりたい放題できるが?」


 余裕な私と違い、ステラは脅しに対し不安そうに反応した。


(デシリア? 大丈夫だよね?)


(絶対大丈夫だから安心しなって。怖いなら寝ててよ)


 怯えるステラを落ち着かせた後、私はブラッドに答える。


「じゃあ頑張って私に痛い思いをさせてみてよ、どうせ無理だろうけど」


 身体強化で限界まで防御を強化してる上に痛覚も鈍くしてるので痛みはあまり感じないけどね。

 防御障壁は無くても大丈夫だろうし解除してみるか。少しでも痛みを感じたら障壁を張るとしよう。


「その余裕、どこまで持つかな?」


 ブラッドは無表情のまま私の足を勢いよく踏みつけた。

 普通の子供なら折れるであろう強さかもしれない。けども私には効果がない。


 私は首を傾げ、効いてないとばかりの余裕の態度で煽る。


「その程度じゃ蟻にも効かないよ」


「この程度なら効かないと思ってたが予想通りだったようだ。安心しろ、俺には人の苦しむ姿を見て喜ぶ趣味はない。お前が出来るだけ苦しまないように徐々に強くしていくつもりだ、辛くなったら俺の要求に従え」


 そしてブラッドは殴る蹴るの暴行を本格的に始めた。

 私はどうせ効かないと高を括り大人しく攻撃を喰らい続ける。予想通り全く痛くないため心は動かされない。

 レフ達もブラッドが時間を稼いでくれてるにも拘わらず、蓋を開けることが叶わないまま時間が過ぎていく。

 床に転がる私はケロッとした態度でまたも挑発した。


「で、いつ痛い目に合わせるの?」


「これだけ殴っても痛がる素振りを見せないとは、気持ち悪いな。それともただの強がりか?」


 ブラッドは少しだけ不快そうな態度を見せるとより強烈に暴力を振るい始める。

 一発打たれる度に体は吹き飛ばされ壁に激突する。しかし痛みは全くない。怪我も当然ない。部屋の中の小物が壊れていくのみ。


 ランクAの実力ってこの程度なのかな?


 もしかするとブラッド達の依頼された内容が私の命を奪うことでは無い以上、殺してしまうとまずいから下手に本気を出せないのかもしれない。


 やはり本気を出させるには危機感を煽る必要がありそうだ。

 命に関わるくらい危険を感じれば手加減する余裕もなくなるだろう。


 そう思った直後にレフが大声を出した。


「ブラッド! その子供に解除させようとしたらいつになるか分からん。蓋を繰り抜こう」


 レフの提案にブラッドは苛ついた顔のまま、しかし落ち着いた声で答える。


「レフ、今度はお前がステラを痛めつけて従わせろ」


 しかしその言葉の直後に『バチィン』という凄まじい音が響き、全員の視線が私に集まる。

 その破裂音は私が手と足の手錠を引き千切った時のものだ。


 私はブラッドに目を合わせてこう告げる。


「まだ交代されちゃ困るんだけど?」


 もう十分かもしれないけど出来ればもう少しランクAの実力を見せてもらいたい。

 レフは冒険者かどうかすらも分からないし、それ以外のランクには興味が無い。


 だからまだブラッドには相手をしてもらう。

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