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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
238/283

120 勝たないと出られない部屋 2

今回は短め。

次回更新は明日か明後日予定。

「聞いてもいいかな? あなた達って悪い事をして金を稼いでるの?」


 私は椅子をブンブンと音が鳴るほど軽やかに振り回しながら尋ねた。

 ブラッドは落ち着いた様子で答える。


「人を攫ってどこか見知らぬ場所に連れて行くことを悪い事だと思うならそうだろうな」


「法律で認められてないんだからどうみても悪い事でしょ」


「そうだな。だが法律に反してない事だとしても誰かがそれを悪い事だと思えば、それは悪い事とも言える。少なくともその誰かにとってはな」


「はぁ? まぁ言いたいことは何となく分かるけど」


「法律に反してなければ何をやってもいいと思うか?」


「思わないよ、反して無くても人の嫌がることは出来る限りはしちゃいけない。でも明確な線引きがされているルールを破るのは絶対駄目だよ。あなた達がしているようなことは特にね」


「そんなことは分かってるんだよ。分かった上でやってるんだ」


「とにかく悪い事をしてる自覚があるってことだね」


「悪事ってのは労力とは釣り合わないほどに楽に大きく稼げる。リスクを負ってまでやろうと思う者がでてくるほどにな。ま、俺はお金なんてどうでもいいがな。俺達は依頼がなければ何もしない。だから真に悪いのは俺達に依頼してくる方だ、説教ならそいつらにもして欲しいものだ」


 それはそうだけど、引き受けるこいつらも悪いことに変わりはない。


「依頼ということは私を攫おうとしてるのは誰かの頼みでやってたんだ?」


「そうだ。そいつ『ら』にとってお前の存在は悪ということだろうな。安心しろ、殺すなと言われてる以上、命を奪うことはしない。でも誰が依頼してきたかまでは答えるつもりはないぞ」


 信用にかかわるからかな?


「人攫いは法律違反だよね? 特に私みたいな子供を攫うなんてことはさ」


「先程も言ったが俺達は悪い事だと自覚している、バレなければいいだけだ」


 ブラッドは悪気なく言い放った。


「ふーん」


 私はそう声に漏らした後、会話の流れを無視し、ブラッドの背後にいるレフを狙って氷球を放った。


 ブラッドの横を通り曲線を描きレフに向かったものの、レフの電撃系の魔術――無詠唱だったので魔法かな?――で粉々に砕けて落ちた。


 不意打ちなのに今のに反応するとは油断してないということか。でも今はまだ倒すつもりはないけどね。

 放っておくと扉を開けてしまう可能性もあるし、妨害はした方がいいだろう。


 レフは忌々しそうに私を睨むけど、それ以外の反応はない。


「おいお前ら! レフを守れ」


 ブラッドは仲間に強く命令した後、私には落ちついた焦りのない顔を向ける。


「その年でこれほどの魔法が使えるのか」


「ステラの年齢も把握してるんだ? そうだよ。それよりもあなたって冒険者ランクAなんだっけ?」


「そうだが」


「それほどの実力があるなら悪い事しなくてもお金に困らないんじゃないの? なんで危険を冒してまで悪い事するの?」


 悪い事をせずとも生きられるなら普通はそうする。

 つまりは彼らは普通とは違う思考を持ってるということだ。でも普通でありながら仕方なくそうしている者も恐らくいるんだろうな。


「確かにな。ランクAなら冒険者の仕事をこなすだけでお金はたくさん入る。だが世の中お金のためだけに生きている者ばかりではないということだ」


「あなたはどんな理由?」


「普通に生きたくなかっただけだ。だから死ぬまで続けるだろう」


 これは矯正不可能なタイプだね。お金や地位、名誉がどれだけあってもやめないだろう。


「くだらない理由だね。私が代わりに苦しい思いをさせられた人の分の仇を取らせてもらおうかな」


 私はそう告げ、片手で掴み続けていた椅子をブラッドにぶん投げた。

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