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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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118 2度目 1

 少女はステラに問いかける。


「この中にラズリィがいるんだけどさ、大声出して助けを呼ぼうなんて思ってたりしない?」


 こちらが周囲の人に助けを求めることを想定しているということは対策がされているのだろう。つまり無駄に終わる可能性が高い。


(ステラ、私がいれば大丈夫。大声を出す必要は無いよ)


(分かった)


 ステラは私にそう返事をした後すぐに少女にこう告げた。


「早くラズリィのところに案内して」


「もしかして助けを呼んでも無駄だと思った? なんで?」


「実際無駄でしょ? 周囲に君の仲間しかいないとか、もしくは人自体がいないとか」


「さぁ? 私もどうなのか知らないけど多分無駄かもね。じゃあ付いて来て」


 少女は裏口っぽい扉から中に入っていくのでステラも後を付いて行く。

 中に入ると照明が付いており、無造作に置かれた椅子や机などが散乱している。細長い通路を進み、少女が突き当り付近の扉を開けると中に入る様にと言って来た。


 部屋に足を進めると少女は扉を閉め、鍵を掛けた。


(デシリア、扉に鍵が掛かっても壊そうと思えば余裕だよ……ね?)


 ステラの声から不安が感じられる。落ち着いてるようには見えるけど少し怖気づいたようだ。


(余裕余裕、今まで壊せなかったものは無いから!)


 安心させるために私は明るく振る舞う。

 今まで壊せなかったものは本当にないし大丈夫だろう。


 でもふと不安がよぎった。

 壊せない可能性に対してではなく簡単に壊せるということに対してだ。


 いや、なんで私は不安に思ったんだ?


 考えてみるけども……分からない。


 とりあえず今は考えるのをやめておこう。


「ステラ、ついてきて」


 少女は立ち止まるステラに歩くように促す。

 さらに付いて行くと、横に長く100人くらいが寝れそうな広い部屋へと案内された。そこには口元をマスクした男達3人が椅子に座り待機していた。


 窓は一切なく、出入り口可能な扉は2つ、部屋の隅には椅子と机が複数まとめて置かれていた。窓が無いため外が見えず太陽の光が入らないからか息苦しさを感じる。


 そんな部屋の壁際にラズリィが手首だけを紐で縛られて椅子に座っていた。


「ラズリィ?!」


 ステラは大きく呼び掛ける。ラズリィは眉を寄せ、口を小さく開き、しかし言葉は発しなかった。

 ステラを案内した少女は背の低い男に得意げに声を掛ける。


「連れて来たよ。この子で合ってるよね?」


「おお、よくやった! お前はもう帰っていいぞ」


「頑張ったんだから後でお小遣いちょうだいね」


「ああ、約束する。ここは危険になるかもしれないからさっさとこの場から離れてくれ」


 少女は嬉しそうに口元を緩ませ別の扉から姿を消した。

 それを確認した男達はステラに視線を向け、背の高い男が告げる。


「このラズリィという子はお前の大切な友達らしいな」


「私が目的なんでしょ? ラズリィを解放してよ」


 ラズリィは何も言わず、事の成り行きを見守りステラをじっと見つめている。


「ああ、ラズリィは必要ないから解放してやる。だが条件はお前がラズリィの代わりになることだ」


 ステラは迷ったのかすぐには言葉を返さなかった。

 だけどここまで来てしまった以上は応じるしかないだろう。もしくは私が男達を倒すという方法もあるけどラズリィの目の前でそんなことをやってのけるわけにもいかないので、それは彼女が解放されてこの場から去った後になる。


(ステラ、何かあった時のために私と交代しておいた方がいいんじゃない?)


(う、うん。そうだね、お願い)


 男達に返事をする前にステラは私と交代した。

 男達の一人が一見脆そうな手錠を持ち私に近づいて来る。


「おっと、抵抗はするなよ。少しでも不審な動きを見せたらあの少女は無事じゃ済まないぞ」


 私はラズリィに目を向ける。

 

 ラズリィは目が合った途端、顔を逸らした。怯えてるように見える。


「さぁ両手を前に出せ」


「ほい」


 両腕をくっ付けるようにして前に差し出す。

 男は訝し気な顔を作った。


「なんだその気の抜けた返事は? 急に緊張感がなくなったな。俺達如きどうにでもなる、とでも思っているのか?」


 思っているけど私は無言で通す。

 男は慎重に私の様子を窺いながら手錠を掛けた。


「これはな、ランクAの冒険者を逮捕するときに使われる特別製の手錠だ。お前みたいな子供ごときに使うには過剰だが仲間がお前の力を疑っていたから念のためだ」


 ということはこれを力づくで引き千切ればランクA以上ということにもなるわけか。

 男は続いて両足にも手錠を掛け、私を抱え上げた。


「きゃあ! ちょっと変な所触らないでしょ!」


「触ってねぇよ! お前みたいな子供に興味なんかねぇよ!」


 確かに触られては無いけどどんな反応をするかな、と思って言ってみた。

 当然ながら否定された後、柔らかい長椅子に座らされた。


「よし、これでもう抵抗される恐れもない、安心だな。ラズリィは解放してやろう」


 私は約束を反故にされてラズリィも連れ去るのかと思っていたので意外に思った。

 解放されたラズリィは立ち上がると、ゆっくりステラに近づく。


「ごめん、ステラ。私のせいで……」


(ステラ、何か言いたいことある?)


 私はステラが何か言いたいだろうと思ったので交代した。


「ラズリィ、謝るのは私の方だよ。むしろ私のせいで巻き込んじゃったかもしれない、ごめんね」


 ラズリィは今にも泣きそうな顔で無言のままステラを見つめる。

 ステラはニコリと笑うと安心させるための言葉を掛けた。


「ラズリィ、私のことは大丈夫だから、行って!」


 ラズリィは戸惑いを見せた後、小走りで去っていった。

 私は再びステラと交代して表になった。


 ラズリィがいなくなった後、男達は口を動かし始める。


「無事に確保できたし、次はボスに報告だな。お前、ブラッドさんを呼んで来い」


 指示された男が部屋から出て行った。

 残った男達は私がもう何も出来ないと思ってるのか自由に動き始める。


 さて、私は今後の対応を考えるとしようか。

 逃げようと思えばすぐできるけど、今それをやったとしても根本から断たねばまたあの手この手でステラを捕えようとしてくるだろう。

 そうなると将来的にはステラだけでなく他の人にも迷惑が掛かるかもしれない。


 ということは捕まえようとさえ思わなくなるほどのことをするか、もしくはこいつらを全員消してしまうのがいいだろう。


 でも命を奪うよりかは警察に突き出したい気持ちは強い。しかし子供であるステラの姿のまま突き出すわけにもいかない。

 面倒なことになりそうだからね。


 とりあえず今は動かずこれからどうなるのか目の前の男達から話を聞いて情報を集めるとするか。


「ねぇそこのお兄さん方。これから私をどうするつもりなの?」


「安心しろ。大人しくしてれば少なくとも痛い思いはしないし死ぬことも無いぞ」


「また町の外に連れ出されるの?」


「ああ、そうだが……またってことは前にも攫われたのか?」


 ん? この男達は前は関わっていなかったのか。

 まぁ攫われる事には違いないしどうでもいいか。


 町の外に連れ出されるという事はまた遠くの大きな屋敷に連れて行かれるのだろう。そんな施設があるなら、そこに囚われてるであろう人達を助けつつそんな場所は破壊しておきたいところだ。けども、ステラの母の心労を思うとそれをやる時間的余裕は無い。


 ボスが来たらこの場の全員を消すだけに留めるとするか。

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