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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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116 カタリナ 1

 日曜日の昼。ルイザが戻る予定の日まであと2日程度となった。


「お母さん、行って来まーす」


 そう告げてからステラは玄関の扉を開けた。

 家から出てもステラの家は集合住宅のためまだ建物の中だ。階段を降りて建物の外に出るとステラは立ち止まり空を見上げた。

 今日は気持ちいいくらい晴れ渡っている。視界を下げると車や鳥車が灰色の車道を走り、歩道を歩く人々は暑そうにしていた。


「やっぱ外は暑いなぁ~」


 最近ステラは攫われそうになったので閉じかけていた心の傷が開いたのでは? と私は心配していたけど、その一言を発した後すぐに歩き出した。


(攫われそうになったのに本当に平気なの?)


(平気っぽい)


 何も問題が無いなら良かった。


 さて、今日は同好会には行かずケミー達のいる孤児院に歩いて向かう。


(去年までは夏の休みは何してたの?)


 ステラは夏に一緒に遊んでくれそうな友達は学校にいない。ラズリィとは学校内での友達みたいだし、同好会の人達はそれ以外ではまず関わらない。

 今までは何してたんだろう。


(剣術同好会で剣術の稽古して、一人で店を巡って、家ではビデオゲームしてたよ)


(今とあんまり変わらないってことか)


 ケミー達やルイザに会いに行くというのが去年との違いか。


(あ、デシリア。ケミー達にお菓子持って行きたいけどいいかな?)


 ステラの視線の先にはお店があった。本音は自分が食べたいからだろうな。

 私が許可を出すと嬉しそうにお菓子を購入した。


 お金はたくさんあるのでこのくらいの出費は痛くも無い。というか母から貰ったお小遣いがあるのでその範囲内なら私に許可を取る必要は無い。


 前にステラがこの町に戻れた時、大金を持ってることが母にバレたらどうなるんだろうとヒヤヒヤしていたけども、ステラの机には鍵付きの引き出しがあったのでどうにかなった。


 念のため私が魔法で細工をしたので私がいなければ破壊しないかぎりは開くことは無い。


 チッピィから話を聞くに母はステラの部屋の掃除をしてくれることはあっても引き出しを勝手に開けるようなことはしてないみたいだ。とはいえ念のために引き出しは開けられないようにしておいた方がいいだろう。


 ちなみに魔動銃はルイザに預けてある。ルイザはステラ自身は普通の子という事情を知ってるので快く預かってくれた。


(あと2日でルイザちゃんに会える)


 ステラは楽しみにしてるけど2日後は予定であって決定ではない。


(予定なだけでズレて遅くなるかもしれないから期待しすぎないようにね)


 私はやんわりと注意しておくことにした。


 しばらく歩くと孤児院が見えてきた。

 孤児院はレンガ模様の赤い塀で囲まれており、門は格子になっている。格子の隙間からは広い緑の庭が見え、奥の方にケミー達が生活している大きな建物が見える。


(あれは……)


 ステラの視線の先には人の姿が見えた。短く整えられた芝の上でケミーとピンク髪の女が訓練用の剣で打ち合っている。先週の日曜日にケミーが言ってた剣術の稽古をしてくれるという冒険者なのだろう。

 その女はケミーと同じくらいの身長だ。


 キディアは二人の目の前で横長のイスに座りながら本を読んでいる。

 誰もステラが来たことには気づいていない。


「ケミー! キディア!」


 ステラは門からケミー達に大声で呼び掛けた。


「あ、ステラちゃん!」


 ようやくケミーは気づいたけど稽古中で手を離せない。

 同じく気づいたキディアが門を開けてステラを中に案内してくれた。


「一週間ぶりステラちゃん。会いに来てくれて嬉しい」


 そう言うとキディアはニコリと笑った。


「ケミーは剣術の稽古?」


「うん、見ての通りだよ。稽古が終わるまで私とお話ししようか」


 というわけでさっきキディアが座っていた椅子に二人並んで腰掛けた。

 ステラはケミーの稽古を見つめる。


「ステラちゃん、ケミーの剣術はどう思う?」


「まだ始めたばかりなんでしょ? 今のところは私の方が強いかな。キディアは剣術には興味無い?」


「そうだね……強くなりたいけど、私はいいかな」


 キディアはやらないようだ。


「キディアは将来やりたいこと決まった?」


「やりたい……というよりはこうなりたいってのはあるよ」


「どんな?」


「平穏に生きられたらいいなって」


 そんな言葉が出るという事は今まで平穏には生きてなかったという事か。まぁ、この町と外の村落とでは文明レベルにかなりの差があるっぽいし、厳しい環境で生きて来たのかもしれない。


「キディアって攫われる前はどこに住んでたの?」


 ステラの疑問にキディアはすぐには答えず、少ししてから重そうに口を開いた。


「ネレイダム市って知ってるかな? エリンプス町の遥か遠くアレスティアの東にある都市なんだけど」


「えーっと、聞いたことあるようなないような……」


「知らなくてもいいけど、もし行く機会があったら思い出して欲しいな」


 そう言うとキディアは優しい笑みを浮かべた。


「ネレイダム市ね、覚えた! あれ? 帰る場所あるんならなんでそこに帰らなかったの?」


 そういえばそうだ。なぜエリンプスに来たんだろ?

 その質問にキディアは苦笑いで答えた。


「……私の家はもうないの。家族はバラバラになってどうなったか分からない。あの町には友達はいたけど、多分もう私とは関わりたくないかもと思ったし、それにステラちゃんと仲良くなれたから一緒だと安心できると思ってエリンプスに来たの」


 キディアは元々は孤児ではなかったということ? まぁどちらでも構わないけど。


「もしかして辛い事思い出させちゃったかな?」


「ううん、大丈夫。辛いのは過去の話。これからは私、前に進める。これも全部ステラちゃんのおかげだよ」


 そう言うとキディアは頭を下げ耳を垂らした。


「ステラちゃん、良かったら耳、触ってもいいよ?」


 ステラは戸惑う。


「うぅん……チッピィで間に合ってるからいいや」


「そういえば兎猫ラビキャットが家にいるんだったね」


 キディアは残念そうに言って頭を上げるとドタドタという足音ともにケミーの大声が近づいて来た。


「ステラちゃーん!! 1週間ぶりぃぃ!!」


 ケミーはこちらに駆け寄るとステラに抱き着こうと腕を広げた。

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