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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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115 とある小規模犯罪組織 2


 男達は報告が終わると仕事とは関係のない他愛の無い雑談をしたのち解散した。


 一人事務所に残ったブラッドはディスプレイを起動し適当な配信番組の映像を宙に表示させる。


「……次にあの子供が来るのは明後日か」


 あの子供とはステラではなく依頼主の事だ。

 失敗を報告することを考えると胃がキリキリし出す。目の前の楽しそうな配信番組を見ていても中和できない。


 次の作戦も考えていると玄関の扉が開いた。複雑な模様が刻まれた剣を腰に差した男が恐る恐る顔を覗かせる。


 かつてサービル村近くの森でデシリアに負け、ギリギリで生還した男――レフだ。


 腰に差してる剣はデシリアに奪われた剣だったが他の人に渡っているのを見つけ大金を払い取り戻していた。


 ちなみにその大金のほとんどはステラの元に流れた。


「ブラッドさん、いますか?」


 レフは玄関付近で立ち止まりブラッドの名を呼ぶ。以前ステラに向けた時と違い丁寧な言葉遣いだ。

 ブラッドは玄関を開けたのがレフだと分かるとキツイ顔を柔らかくした。


「レフか、久々だな。そういえばゴードンの消息が不明らしいが、あいつの護衛の時に何かあったのか?」


 ゴードンとはステラやケミー達を攫って森の屋敷に閉じ込めていた組織の親玉である。ブラッドは攫われた人が収容されていたゴードンの屋敷が無くなったという情報は耳にしていた。


 ゴードンの方が格は上だがお互いが関わったことはない。


 レフはその時の状況を思い出す。脱走したステラ達を見つけ、脅して確保しようとしたがステラ――デシリアと戦いになり敗れたことを。

 

(俺がまさか子供に負けるなんてな……。いや、あんな化け物、俺で駄目なら大抵の奴は無理だろ)


 だが『子供に負けた』とはとても言えなかった。


「あ、ああ。実は当事者である俺もよく分かってない。少し目を離した隙に屋敷が破壊され瓦礫になっていた。ゴードンもそれ以降姿を見ていない」


「そうか。ところで今は他の仕事を引き受けてたりはしないか?」


 ブラッドが興味があるのはゴードンよりもレフが今他の仕事を受けていないかどうかだ。


「いや、何も受けてない」


「お前はミレラを知ってるか?」


「ミレラ? いや、知らない」


 レフは一応冒険者活動もしているがミレラの事は知らない。


「ランクB冒険者の女だ。もしそいつと戦うとなったら勝てそうか?」


「ランクBか……その程度なら俺が勝つ可能性が高いだろうね。俺には魔法がある。詠唱無しでの不意打ちは魔術では無理だろ?」


 そう言ってレフは無詠唱で手のひらから頭くらいの大きさの火を一瞬だけ出す。

 レフの扱う魔法は魔術で言うところのランク3程度はあり魔法使いとしては天才レベルである。


「そうだな。魔術で攻める場合は確かに不意打ちは難しい、声で気づかれて避ける隙を与えてしまう」


「……でもブラッドさんは俺が並のランクB相手に後れを取らないことは当然知ってますよね。わざわざ確認するということはそのミレラとかいう女はかなり強いんでしょう?」


「俺の手下どもでは勝てないだろうな。そこでだ、お前に仕事を頼みたい」


「その女の相手ですか?」


 レフはニヤリと笑みを浮かべる。


「相手というか、手下の護衛だ。目標を捕獲するときにミレラの妨害があるかもしれない。その時にお前が必要になるだろう。だが今すぐではない。ミレラがエリンプスへ戻るであろう1カ月後くらいからお願いしたいがいいか?」


「1カ月後……他の大型の案件を受けづらくなりますね。受けるかどうかは報酬次第ですね」


 それに対しブラッドが具体的な依頼内容と報酬額を提示するとレフは承諾した。


「それにしても子供の拉致の際の実行役の護衛ですか。子供の写真とミレラの写真はありますか?」


 レフは子供と聞くと思い出すのはあの敗北。だがあれは本当に子供だったのか? と疑念は拭えていない。

 子供にしか見えない大人は実際にいるわけだし、本当は大人だったのかもしれない。そう考えて不安を抑える。


「ミレラの方は無いが子供の方はあるぞ、これだ」


 ブラッドは机に置かれた写真を指差す。その写真は学校で撮られた物でステラは正面を無表情で向いている。

 レフは見覚えのある顔に鼓動が速くなった。


(こいつは……)


 世の中には似たような顔もあるし、あの時は数分だけしか見ていないためハッキリとは覚えていない。

 それにあんなヤバい子供とまた出くわすとは考えられなかった。


 考えたくなかった。


「どうしたレフ? まさかタイプだったか?」


 ブラッドは写真を見て固まったレフを茶化す。


「いや、そうじゃない。その……なんといいますか――」


 もし自分を打ち負かした子供だとすれば今度こそ死ぬかもしれない。いや、死んでも冒険者として一応は活動しているため蘇生は可能だから大丈夫と言えば大丈夫ではある。


 だが問題はそこではなく勝ち目がないと分かってる戦いに挑むなど馬鹿か退路が無い者がすること。

 あの子供だという可能性があるのならやはり今回は辞退するのが賢い選択だろう。


「……俺が必要になる前にその子供を確保できるといいですね」


 だが引き受けた直後にいきなり断ることなど出来るはずもない。


 出番が回ってこないことを祈ることにした。


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