115 とある小規模犯罪組織 1
ステラが攫われそうになったその日の深夜。
エリンプス町のとある建物の一室に身なりの整った胡散臭い男が4人集まっていた。その一室は昼間は法律関係の事務手続きの代行をする事務所だが、夜になると一転、法律を無視した危険な依頼を引き受ける犯罪組織の受付窓口となっている。
構成員は10名程度と小さく特別抜きんでた実力があるわけではないが、エリンプスにはその程度の規模の組織が無数に活動している。
「すみませんブラッドさん。グラブのせいで目標の捕獲に失敗しました」
男達は苦そうな顔で目の前にいる組織のボス――ブラッドに謝罪する。しかし責任を押し付けられたグラブは謝罪はしつつも反論する。
「だから違うって! あれはあのガキが俺の手首を本当に握り潰したんだよ!」
「ならその手首はどう説明するんだよ?! ピンピンしてるじゃねーか!」
「知らねーよ! 激痛が走ったと思ったら急に治まったんだよ! あのガキが何か魔道具か魔法でも使ったんだろ!」
荒げる男達に落ち着いた優しい声が掛かる。
「ちょっと落ち着け」
「すみませんブラッドさん」
ブラッドは特に機嫌を悪くはしてなかった。まずはなぜ失敗したのか、その分析がしたかった。
「失敗は良くないが原因を放置するのも良くない。グラブ、失敗の原因はなんだと考える?」
「ああ、はい。おそらくですがあの子供は魔道具を所持してるか、あるいは常識はずれの魔法使いだと思います」
ブラッドは今回の依頼を受けた時の事を思い出す。なるほど、と思うと同時に新たに疑問が現れる。が、そのことは一旦置いておく。
「今回の仕事は一見簡単に見えるがどういうわけか相場よりも桁が1つ違う金額で依頼された。それもあって失敗したくはない。なぜあの子供にそれほどの金を掛けたのか理解できなかったがお前の話を聞いて少し腑に落ちたかもしれない」
「なぜそんな怪しい依頼を請けたんですか?」
男達が疑問をぶつける。
ブラッドは不機嫌そうに答える。
「依頼主がアレだからだよ」
「アレって?」
「3カ月ほど前に壊滅した事務所があっただろ?」
「はい、知ってます。勇者に狙われたとかいう変な噂が出回ってるやつですよね。あの事務所ランクA冒険者が多くいたからまさか壊滅するとは思ってませんでした」
犯罪組織の間では大きな悪事を働く組織などは勇者によって壊滅させられるという話が大昔より浸透している。しかし壊滅した組織のほぼ全てが組織同士の抗争が原因だ。そのため勇者が悪を裁くという話は信じられていない。
そもそも勇者の存在自体がよく知られていない以上その意味を真に理解出来てる者はいなかった。
「そこのボスは未だ行方不明だ。それでだ、その組を壊滅させたと自称する子供が俺に依頼を持ちかけて来たんだよ」
「はい?」
「あれはどう見ても子供だった」
「子供の依頼を受けてしまったんですか?! 子供ならそもそも門番が追い返すはずじゃ――」
「その子供は俺より強かった。ここで1番強いのは俺だ、なら門番がどうにか出来るわけが無い」
ブラッドは子供が姿を表した時の事を話し始める。
出かけていたブラッドが事務所に戻った時にその子供――ステラより少し大きい少年――は机の椅子に座って出迎えた。ブラッドは子供を中に通した門番に後でお仕置きをしようと考えた。
ブラッドは舐めた態度の子供に世の中の厳しさを教えるためにしつけようと考え、魔術で小さな氷の塊を放ち、腕の一本でも折ろうとした。
しかし直撃寸前で何かに阻まれて粉砕された。
子供は涼しい顔で『頼みたいことがあるんだけど受けてくれますよね?』と言いながらブラッドに無詠唱で氷の塊を放った。
ブラッドの障壁魔術をあっさりと破壊し、体に大穴を空けた。その場に崩れ落ちるブラッド。子供が傷口に手を当てると大量に血が漏れる大穴はあっさり塞がった。
そして子供はブラッドに『あなた達に仕事を持って来ました。お金は払いますよ。あの組織のようになりたくなかったら聞いて欲しいですね』と言った。
その子供からブラッドはステラを捕獲するという依頼を引き受けた。
「依頼内容は知っての通りだ」
「そうだったんですか、なら失敗したら俺達は殺されたりしますかね?」
「失敗しなければいいだけの話だ。もし失敗したら俺が一人で責任を取るから安心しろ」
ブラッドは仲間が重圧でしくじらないように優しく告げた。多額の報酬が掛かっている以上失敗するつもりもない。
「目標のステラは俺が調べた限りでは障害となりそうなのは姉のミレラくらいしかいない」
「ミレラってランクBのあの女ですか?」
「マジか、あの子供の姉だったのか」
ステラの姉は気性が荒く強すぎることで有名でランクCの時点でランクAに勝ってしまったという話があるほどだ。しかも魔術士ギルドに所属していないため魔術士ランク1で身体強化もランクによる能力補正も少ない状態という本来なら勝つことがほぼ不可能な状況で勝っている。
男達はそんなミレラに邪魔をされれば失敗すると考えた。
「そうだ、ステラはミレラの妹だ。調べてみたが幸いにもあの女は今この町にはいない。だがあと1月もすれば戻ってくるだろう。それまでなら余裕だと思ってたんだが……グラブの腕が壊されたと聞いてステラもミレラのように次元の違う強さかもしれない」
「でもあのガキ、冒険者ですらないんですよ? 身体能力に補正もかかってない、魔術も使えないはずなのに手首を握りつぶせるなんておかしくないですか?」
「ミレラがおかしいなら妹のステラだっておかしいと考えても不思議じゃない。魔法でも使えるんだろう。だが幸いなことに相手はまだ小学生だ。冒険者ランクB以上の俺達なら油断さえしなければ上手くいくだろう」
「た、確かに。言われてみればランクBの俺達が負けるはずないな」
ブラッドがそう言うと男達は自信をあっさりと取り戻した。




