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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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114 ラズリィの鞄 2


 奪われたラズリィの鞄を取り戻すためにステラは走り出し、大きく離れてた距離は少しずつ縮まっていく。

 逃げる子供よりステラの方が速そうだ。


 フードを被っていたため子供の顔はよく見えなかった。特定されないようにしたのだろう。用意周到だな。


 子供はさらに狭い道に入っていく。大人二人が並べる程度の広さだ。肥満体系だと一人が限度といった所か。


「待ちなさーい!」


 ステラは叫びながら狭い路地を駆け抜ける。不思議と追いつきそうで追いつかない。

 距離を縮めたと思ったら急に子供の速度が上がり引き離される。


(デシリア! 身体強化! お願い!)


 私はステラに身体強化の魔法を小さく掛けた。ステラの速度は倍になり、あっという間に子供に迫る。

 チラリとこちらを振り向いた子供は焦りの声を上げた。

 しかしその声は大人のような低いものだった。


「うお、速っ?! だけどギリギリ間に合った!」


 子供は少し焦りながら言った直後、鞄を乱暴に横に放り投げた。

 ステラは足を止め、子供と鞄の両方に何度も目を向ける。


(ステラ! もしかしたら仲間がいるかもしれないから鞄の回収を優先して!)


 もしかしたら子供に構ってるうちに別の仲間がその鞄を持って行く可能性も考えられた。なので鞄の回収を優先させる。


(逃げられちゃった)


 回収後にステラは子供が逃げた先の道を見つめる。


(盗みってこの町ではよくあることなの?)


(よくあるかは分からないけど、私は経験がないなぁ)


 普段近寄らない場所では何かしらのことが起きてるのかもしれないな。

 ラズリィの所に戻ろうと来た道の方へ振り向くと、この場に不釣り合いなスーツ姿の男が道を塞ぐように立っていた。


「ようお嬢ちゃん。こんな所で何をしてるんだ?」


 男が喋る間にも背後から何か音が聞こえる。

 

(ステラ! 後ろ!!)


 背後からも迫る男がいたので私はステラに呼び掛ける。ステラが振り向くと同時に口を布でふさがれた。


「ふぐぐぐぐごご!!」


 声を出せないステラ。私はすぐに身体強化の強度をさらに上げるが少し遅かった。ステラは意識を失ってしまい地面に倒れた。


「よし、運ぶぞ」


 男達は3人集まるとステラに大きな袋を広げた。


 なるほど、ステラは前もこうやって攫われたのだろう。


 となると、ラズリィがこの場に来てしまうとマズイことになりそうだ。急いでここから逃げなきゃと思うけどステラは動けない。この状態では交代もできない。

 ……あ、そういえば以前ステラが夜寝てる時、勝手に体を動かすことができたな。今は気絶状態ではあるけど一応試してみるか。


 まずは指を動かしてみる。普通に動いた。なら腕はどうだろうか?

 腕も普通に動いた。足も動いた。全身が私の意志に反応する。


「このガキ気絶してるはずなのに動いてるぞ」


「もしかして死んでしまったのか?」


「起こるのが早すぎる気もするが死後硬直か? 倒れた時に打ちどころが悪かったかもしれねぇな。……死んでしまったらまずいぞ。おいグラブ、念のために脈を確認しろ」


 グラブと言われた男が首に触れる。


「脈はありました」


「もう1回クスリを嗅がせておけ、その間に俺達は袋を広げる」


 指示された男が布を口に当てようとしてきたので私はその手を捕まえる。


「お?」


 男は間抜けな声をだした。

 私は容赦なく力を込める。バキバキという硬い物が壊れた感触を手のひらに感じた。


「ぐわあああああああ」


「お、おい! どうしたグラブ?!」


 仲間の叫びに男達が目を向け動きを止めた。

 私は壊した手を回復してあげ、すぐにラズリィの鞄を拾い走り出す。追いかけてくる可能性も考慮してラズリィのいる場所とは反対の方に向かった。


 ちなみになぜ男の腕を治してあげたかと言えばステラに異常な力があると気づかれないようにするためだ。やられた本人は気づくかもしれないけど仲間達には男が意味も無く痛がって叫んだだけにしか見えないだろう。


『怪我をしてないのになぜ叫んだ!』と後々怒られるかもしれないけど私には関係ない。


 私は入り組んだ道を走りながら追いかけて来る男達にも気を配る。


 少し進むと広い道に出た。先ほどまでの怪しい雰囲気の無い明るく賑やかな大通り。ここまで来れば大丈夫な気もするけど――


「お、ステラ」


 聞いたことのある声が耳に入る。

 そこにステラのクラスメイトのセシルがいた。


「今、追いかけられてるの! じゃあね!」


「あ、ちょっと」


 私は呼び止める声を無視しすぐ走り去る。しかしセシルが見てる手前、極端な速さでは走れない。身体強化はステラの素に近い状態に戻した。


 私が先ほど出て来た道から男達が現れた。男達は私の姿を目で捉らえるもののすぐには追いかけて来ず周囲を見回す。

 男達はセシルの方を見て少しすると急いで引き返していった。


 私はセシルの所には行かず、元来た道も引き返すわけにはいかず、近くの建物の陰に入ると一旦ステラを起こすことにした


(ステラ? 起きてる?)


(…………)


 まだ反応が無い。薬をかがされたみたいだし体の中に何かしらの異物が入っているという事だろう。ということで私は魔法で異物だけを排除した。

 ステラの意識が戻るにつれ私の意志に体は反応しなくなり始める。


 私はステラが急に倒れて体を打ち付けてしまわないように壁に背中を預け、地面に腰を下ろした。


「あ、あれ? ここはどこ?」


 私は事情を説明した。


 * * * * *


「間に合わなかったかぁ」


 ステラは残念そうに言った。

 ラズリィのいた場所に戻ると誰もいなかったからだ。


(道具も持たずに教室に行ったのかな?)


 あるいは今日は諦めて家に帰ったとか。いや、諦めてるならここでステラが戻ってくるまで待ってるだろうし教室に向かったのかもしれない。


(一応届けようかな。教室の場所は分かるから行ってるかもしれないし)


 ステラは場所を知っているとのことで鞄を届けることにした。


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