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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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109 近づく者 3

「ねぇ、そのドリンクは美味しい?」


 女はステラの持つ透明な容器の飲み物を見て興味無さそうに聞いて来る。


「はい、美味しいです」


「この公園は初めて?」


「はい、初めてです」


「将来の夢は?」


 ステラが質問に答えても女は興味が無いのか話を膨らますこともせず次々と別の質問をしていく。


 興味が無いならさっさとどこかへ行ってくれればいいんだけど、もしかしてこの場所がお気に入りで私達にどこかに行ってもらいたいのだろうか?


「夢は冒険者です」


「あぁ、あれね。危険な仕事だけど怖くないの?」


 冒険者という言葉に興味を示して来た。けど、表情からはそれがうかがえない。


「恐くないよ。だって私には……」


 ステラは私の名前を言おうとしたのだろう、言葉が止まった。その行動に特段怪しい部分があるわけでもないはずだけど、どういうわけか女の目は先程と違って何かを疑うかのように鋭くなった。


「私、には?」


 目つきと違い声色には変化はない。鋭い目はゴミが入ったからかもしれないな。


「あ、えーっと、私にはお姉ちゃんがいるから慣れないうちは一緒に手伝ってもらおうかなーって考えてる」


 まだ会ったことは無いけどステラには冒険者をやっている姉がいるらしい。ステラの返事を聞いた女の目は少しゆるんだ。


「そう。ところで、今日はいい天気ね」


 女は突然、空を見上げる。

 つられてステラも見上げて同意する。


 女は話に興味無さそうに見えたけど冒険者の話題は少しだけ膨らんだ辺り、話をするための努力はしているのだろう。単に人と接するのが苦手なのかもしれない。


 苦手だったら話しかけてくる事すらしないはずだけど、苦手を克服するために頑張っているのだと思うと応援したくなる。


 少しの間、空を見たあと女はまたもどうでもいい質問を繰り返す。

 公園にいればたまに見知らぬ通りすがりの誰かが意味の無い話をしてくるのは割とあることなので変というわけではないけど、ステラは相手をするのが面倒臭そうだ。


(なんか今日は知らない人に話しかけられるの多いなぁ)


 ステラは女との会話の最中に私に愚痴る。自宅近くの公園にいる時はたまに一人に話しかけられる程度だけど、いつもと違うここではエドガーとこの女の二人に話しかけられている。


(自宅近くのいつもの公園と違ってここが賑やかな場所だからじゃない?)


 自宅近くの公園と違ってここは様々な人が集まってるだろうから、気安く話しかけて来る人もいるのだろう。


「ところで、あなたはこの町は好き?」


 女はまたも質問した。


「う~ん……この町って広すぎて全部を知らないからなぁ。私の住んでる11番街レテ区周辺は好きかなぁ」


 ステラと女がそんな会話をしてると私は周囲に少しだけ変化が起きてるのを感じた。


 パッと見た感じは人が行き交っているだけではあるけど人々の微かに聞こえる会話からはドラマの撮影という言葉が出ていた。


 どうやら近くで撮影が行われるようだ。


 撮影とは無関係な人は公園から出て行き、関係のある人達が公園内に入っているらしいけど一目ではその区別が付かない。

 無関係な人達は撮影スタッフにはすぐ見分けが付くようで声を掛けられ出るように促されている。


(ステラ、なんか公園から出て行かないといけないっぽいよ)


 私が理由を説明するとまだ撮影スタッフから声を掛けられていないけどステラは立ち上がる。


「お姉さん、私そろそろ行きますね」


 ステラがそう言って歩き出そうとすると女に手首を掴まれ止められる。


「ステラ。ちょっと待って、まだ話したいことがあるの」


 無理やりほどくわけにも行かないのでどうにか説得しないといけない。だけど撮影スタッフがもうじきに来るはずなのでステラにはあと少しだけ女の相手をしてもらうことにした。


 ステラはまたも石垣にお尻を乗せる。すると安心したのか女は手を離した。


 人々を公園の外に誘導する撮影スタッフの声はここまではハッキリと届いてこない。


 私達の周辺に来ないのでこちらを避けてるようにも感じるけど、ただの一般人であるステラを避ける理由もないし気のせいだろうしそのうちやってくるだろう。


「ステラは甘いものと辛いものはどっちが――」


 女は話を再開した。わざわざステラを呼び止める必要性も無いほどにどうでもいい話題を出して来る。

 少しの間、意味の無い会話が続いた。


 遠くで撮影が始まりだしたのと同じくらいに撮影スタッフと思わしき人がこちらへ近づいて来る。


 撮影の邪魔にならないように誘導でも始まるのかと思っていたら撮影機材らしきものをこちらへ向け始める。


 あの、私達はドラマの役者ではないのだけど?


「あの、何か?」


 困惑しながらステラが理由を聞こうとするものの無視された。撮影スタッフは隣の女に視線を向ける。

 女は関係者なのか小さく頷き返した後、ステラへ顔を向ける。


「ステラ。ここからが本題よ」


「え、え? あの、そういえば私まだ名前を教えていないはず」


 今までお互いに自己紹介はしていない。どうやら相手の方は一方的にステラの事を知ってたようだ。

 女は上着の内側ポケットから1枚の写真を取り出しステラに向ける。


「これ、見覚えは無い?」


 写真には大きく抉れた大地が映っていた。

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