109 近づく者 2
ちょうど良い高さの石垣に腰掛けた二人はお喋りを始める。
冒険者の男のエドガーの年齢は17歳。冒険者ランクはEで魔術士ランクは2のようだ。
彼は誰かとチームを組んでいるそうだ。
「ステラは冒険者になるのが夢なのか。変わってるな」
「よく言われるよ。なんでわざわざ底辺の仕事に就こうとするんだってさ。私はお姉ちゃんのようになりたいだけだから底辺かどうかなんて考えたことも無いのに」
「みんなステラのことを心配して言ってるんだよ。冒険者なんてランクが低いうちは確かに稼ぎが悪いし、危険だし、痛いし、大変だけどよ、でも実力があれば安定して稼げる仕事だし、誰かの役に立つとても重要な仕事だ。だから気にするな!」
「ありがとう。全く気にしてないから大丈夫だよ。私、絶対に冒険者になってお姉ちゃんみたいになるから」
「その気持ちがあれば絶対やっていけるよ。でも人に勧めるような仕事ではないな。それは間違いない。危険な仕事だからステラは易々と他の人に勧めないようにしろよ」
ステラは勧めたことがあるのか一瞬、顔が固まった。
「どうした?」
「う、うん。そうだよね。危なくて安定しない仕事みたいだし気を付けるね」
* * * * *
そして休憩が終わり、二人が稽古を始めてから1時間ほどが経過した。
ガン! ガン! という木刀同士がぶつかり合う音が響く。
「少しは良くなってきたな」
エドガーはステラの攻撃を容易く受け止めていた。
「そうなの? 全部完璧に受けられちゃうからよく分からないなぁ」
「俺の守りを崩せないから手ごたえが掴めないんだろうさ。実力が近い人とやってみれば分かるぜ」
「高校生って小学生とはレベルが全然違うんだね」
「そうだな、俺は高校生ではないが進学してれば高校生ではあるな。中学では大会でも上位の方だったから俺を基準に考えちゃ駄目だぞ。だから小学生に負けるなんてありえないね」
ガン、ガン、と音を響かせながら会話を続けていく。
「剣術凄いのになんで冒険者になったの?」
「ん? それはだな……剣術で1番になれなかったからだな」
「1番になれないとなんで駄目なの?」
「駄目ってわけじゃないけど、剣術やるからには大会で勝って賞金で生活したいじゃん? それが出来るのは大体は1番になれるやつだけだ。2番になるのも難しい俺はその道を諦めた。剣術の先生になって生徒に教える仕事もあるんだけど、教えるよりは倒す方がスカッとするし楽しいじゃん?」
「でも今は私に教えてるけどそれはいいの?」
「それはだな……あれだ、ステラに教えるのは仕事じゃねーからだよ」
この言葉の後、ステラは剣を振るのを止める。
「そろそろ稽古終わりにしてもらってもいいですか? 私、今日は剣術ばかりで疲れちゃった」
「お、そうか。じゃあ終わりにするか」
「今日はありがとうございました」
「気にすんなって。そうだ、喉乾いてるだろ? 何か飲み物奢ってやるよ」
「え、そこまでしてくれなくてもいいよ」
「遠慮すんなって。好きな飲み物教えてくれ」
ステラは好きな飲み物の種類を伝えるとエドガーは近くの自動販売機に向かった。
自動販売機とは人を介さずにお金を入れるだけで飲み物が購入できる機械だ。
エドガーはボタンをポチポチと押し、そこで購入したものを持ってきた。
ステラは受けとると申し訳なさそうにお礼を言う。
「あの、ありがとう。初対面なのになんでそこまでしてくれるの?」
「あー、そうだな……なんでだろうな。分かんねぇ。まぁいいじゃねーか、俺と仲良くなるのが嫌だったか?」
ステラは顔を横に振った。
二人は近くの石垣に腰を下ろして話を始める。
「ステラはよくここにいるのか? もしいるならまた稽古つけてやるよ」
「今日は気分転換に来たけど普段は自宅近くの公園とかにいるよ」
「そうか。じゃあそこでも会うことがあったら稽古つけてやるよ」
「本当?! その時はお願いね!」
そこで会話が途切れて少し時間が経過した後、見知らぬ大人の人間の女が目の前にやってきた。30歳くらいに見える身長160㎝くらいで無個性な外見の女はステラを一瞬だけ見た後、隣のエドガーに視線を合わせた。
エドガーは視線に対し言葉で返す。
「俺に何か用ですか? あ、もしかしてここに座っちゃ駄目とか? でも他の人達は――」
「これ、あなたの仲間から渡すようにって」
女はエドガーに手紙を渡す。
エドガーは警戒も見せずに受け取ると書かれた文面に目を通し始める。
「へ? ……これはあいつの字だな。って、なんで手紙なんだよ! 直接呼びに来いよ。ったく……あ、わざわざありがとうございますお姉さん」
エドガーは立ち上がり去ろうとし、途中でステラの方を振り向く。
「おっと、別れの挨拶しないとな。じゃあなステラ。また会ったらよろしく」
ステラとエドガーは互いに手を振った。エドガーは遠ざかり、人混みに紛れて見えなくなった。
エドガーの座っていた場所に入れ替わるように女が腰を下ろす。
「こんにちは、小学生? 一人? さっきの男とはどういう関係?」
そして声を掛けて来た。
「さっき会ったばかりの初対面の人だよ。剣術の稽古つけてもらったんだ」
ステラは嬉しそうに答える。どうやらエドガーとの時間が楽しかったようだ。
「嬉しそうな顔してるわね。もしかしてあの男に惚れたの?」
「へ? 違いますよ、やだなー勘違いされるの」
「違った?」
「全然違うよー。楽しかったからそういう顔になってただけだよ。おばさんだって友達と一緒にいると――」
(ちょ、ちょっとステラ! おばさんじゃなくてお姉さんって呼びなさい!)
私は女がおばさん呼びで不機嫌になってないか顔を観察する。が微動だにしていない。
「ん、どうしたの? 友達と一緒にいると……何?」
おばさん呼びよりも急に話を止めたことの方が気になったようだ。
「え、あ、はい。友達と一緒に居ると楽しいでしょ? そういう感じです」
「……そうなの?」
女はよく分からなさそうな顔で返す。
「そうだよ。友達同士だと惚れてなくても嬉しそうにするよ」
「そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ」
忘れるという事は今は友達がいないのだろうか。
『忘れてた』というよりは今初めて知ったみたいな顔に見えたけど気のせいか?




