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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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107 ケミー達と町を回る 3

 図書館は広々とした空間で書物がズラッと並べられており、たくさんの人が机で本をパラパラとめくり静かに読んでいる。


 今の時代はディスプレイなんていう機械があるから本もそんな感じなのかなと思っていたけど、私の時代の紙の本と同じだ。


「本がいっぱいある~! すっごーい!」


 ここに行こうと提案したキディアよりもケミーの方が興味深そうな声をあげた。適当な本を見つけると3人で読み合い、静かに盛り上がった。


 これだけ本があれば昔のことが記述された本があるかもしれない。調べてみたい気持ちはあるけど3人の時間を奪うわけにもいかないので今回は諦めることにした。


 次は別の階にある運動のできる施設に向かった。そこでは色々な競技用の運動も出来るようで3人はボールを使った1対1のスポーツを交代しながら楽しんだ。


 何度か階を移動し最後に訪れたのは1階にある動物園。犬や猫などの身近な動物はおらず普段見かけないような珍しい動物ばかりが展示されていた。大型の動物はおらず大きくても人より少し大きいくらいまでだ。


 ケミーは以前住んでた場所でよく見かけてたようで懐かしんでいた。


 建物から出ると夕方になっていた。少し涼しくなったこともあり適当な広場のベンチに腰掛けた3人は時間を惜しみながら和気藹々とお喋りを始めた。


 手には先ほどの建物内のお店で買った白い容器に入れられた飲み物が握られており、お喋りの合間に口に流していく。


「ルイザちゃんとも遊びたかったなぁ」


 キディアが言うと二人はうんうんと同意した。

 次にケミーが何かを思い出しステラに告げる。


「あ、そうだステラちゃん。私も最近孤児院で剣術習い始めたんだよ。今はまだ下手クソだけど1か月後に私と手合わせして欲しいな、って思うんだ」


 ケミーは目を輝かせながらステラにお願いした。


「いいよ。ケミーが孤児院の人に剣術習いたいって頼んだの?」


「孤児院の職員さんじゃないよ。庭の草むしりしてたら知らない冒険者の女の人が声掛けて来て、色々あって教えてもらうことになったよ」


「怪しくない? 大丈夫?」


「院長の許可は貰ったから大丈夫だよ! 毎日勉強終わった後に庭で鍛えて貰ってるの。私も冒険者になりたいし、ステラちゃんと一緒にいたいし! 私もステラちゃんのチームに入れて欲しいなぁ~」


 ステラはすぐには答えず飲み物を口に流す。ケミーから視線を逸らし、曲げた指を顎に当て地面の一点を見つめる。


 その間にケミーはキディアも誘い始める。


「キディアも一緒に冒険者になろうよ! それならずっと3人でいられるよ」


 キディアはそんな気が無いのか返事に詰まる。


「あ、でもこの3人でってのは無理か。ステラちゃんはずっとこの町で住んでるんだしチームを組む人のアテくらいあるんだよね? 私達がいたら迷惑かな?」


 ケミーはキディアの回答を待たずにステラに話を戻して来た。

 ステラは苦笑いを作り――

 

「実は学校に一緒に組んでくれそうな人はいないんだよね」


 正直に答えた。


 ケミーは好都合とばかりに踏み込んできた。


「じゃあさ私と組もうよ、お願い!」


「……そうだね、考えておくよ」


「ホント! やったーー!!」


 ケミーはまだ検討段階なのに大声で喜んだ。

 そして彼女はルイザの事にも触れる。


「あ、そうだ! ルイザちゃんも誘ってみようよ。あの子チーム組んでないみたいだし……う~ん、でもあれだけ凄いならきっと誘われてるはずだよね。でも一人でやってるし、ということは一人がいいってことなのかな? でも声を掛けるだけならいいよね? ルイザちゃんが戻って来たら私聞いてみる!」


(ルイザちゃん……)


 ステラが何を思ったのか頭の中でルイザの名前だけを呟いた。


「ケミー、そろそろ帰ろうか」


 キディアがケミーに告げるとケミーは辺りをキョロキョロと見回し、建物に掛けられた大きな時計で視線を止める。


「……もう時間かぁ。でもあと10分くらいなら――」


「ケミー。私達は孤児院のお陰で生きられるんだよ。迷惑を掛けられる立場じゃないと思う」


 キディアに注意されたケミーは苦しそうな顔で迷いながらもキディアに従った。

 ステラは嬉しさと寂しさが混ざったまま孤児院まで一緒に向かった。


 * * * * *


「ステラちゃん、また来週絶対会おうね!」


 孤児院の門でケミーはステラを抱きしめる。

 ステラは少し顔を歪めた。


(ちょっと汗臭い……)


 顔が歪んだのは臭いのが理由だった。ステラは安全な町中だからわざわざ嗅覚の感度を下げなかったのだろう。

 なかなか離さないケミーにキディアは苛つきながらステラから引き剥がした。


「け、ケミー! 早く行くよ」


「ああ、もうちょっとだけ~」


 その様子にステラは小さく笑う。


「あはは、また遊ぼうね。ケミー、キディア」


 ケミー達は歩きながら手を振り建物の入り口の前で止まり、こちらへ手を振り続ける。


 なかなか入ろうとしないケミーにしびれをきらしたキディアは少々強引に押して入れた。


 キディアは入る直前にこちらへ振り向き困惑した笑みを見せた後、中へ入り姿を消した。


 ステラは長く振り続けた手を止め、楽しそうな表情を消し、家の方へ足を動かし始める。

 

(寂しい?)


 私はステラへ尋ねる。


(ちょっと寂しい。でもまた会えるし、頑張る)


(頑張るって何を?)


 頑張らなくてもケミー達には会える。何を頑張るのだろう。


(ルイザちゃんとチームを組みたい)


 ケミーの前向きな姿に影響されたのかな?

 ステラは最近だらけてたし、遊んでばかりで気になったんだろう。


(聞いてみたら? 冒険者になったら一緒のチームになって欲しいって)


(なってくれるかな?)


(それは分からないよ。当たってみないとね)


(そっかぁ……。でもさ、怖いんだ。もし断られたらどうしようって)


 まだルイザとの関係が深いとも言えないし、冒険者ですらないステラの言葉は響かないだろう。


(学校を卒業するまでルイザはこの町にいてくれるって言ってるんだし、それまではルイザとの距離を縮めていけばいいと思うよ。それと冒険者としてすぐ活躍できるように今から毎日鍛える事を忘れないようにね。可能性を少しでも上げる努力はしておけばきっと願いは叶うよ)


(分かった。私、頑張る!)


 ステラのやる気が上がったようで何よりだ。


 と、なったのもその瞬間だけで家に戻り母の夕食を食べた後は――


(おいおいおい、またゲームなの?)


 ゲームの音が部屋中に響き渡る。ステラは手に持ったコントローラーを必死に操作していく。


「だって、食後に体を動かしたら良くないって聞いたから――」


 今のステラが冒険者として素晴らしいスタートを決めるにはまずは体力をつけることが必須だろう。でも今はそういうことを言いたいんじゃない。


(学校から課題も出てるんでしょ? 少しくらいは手をつけなさいよ!)


「うぅ……分かったよ。それにしてもデシリアってホントおばあちゃんみたいにうるさいよね!」


 1日中遊んでばかりなのはどうなのかと私は思った。こんなんじゃルイザとチーム組んでもきっと追放されちゃうだろうな。その時は私がひと肌脱ぐとしよう。

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