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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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106.5 ステラの姉は何してる? 2

 男は40代ほどの細身でラフな格好。

 女は30代半ばの長身で男でも見かけないほどの筋骨隆々とした体格をしており、その姿に似合わない美しく整った顔をしている。


「いい所に来てくれましたボス! 助けてください。俺達じゃ全く手に負えません!」


 ボスと呼ばれた細身の男は部下に言葉を返す。


「騒がしいと思って来てみれば押されてるようだね。じゃあ下がってていいよ。雑魚が集まろうとしょせんは雑魚だからね。いや、お前達は決して弱くはないのは分かってるけどさ、相対的には弱いからそういう意味で雑魚って言っただけだから。とにかく死なれたら蘇生費用も馬鹿にならないし下がっ――」


「では失礼します!!」


 部下の2名は焦りからボスの発言途中にも拘わらず急いでさらに地下へ逃げ込んだ。


「ということらしいよアビゲイルちゃん。君でなきゃ対処できない事態のようだ。やってくれるね?」


 ボスは隣に向けて言うと、アビゲイルと呼ばれたその女はニヤニヤしながら前に出た。


「私が本気で頼られる時が来るとは思わなかったわ、でゅふふ」


「あの女はもしかしたら勇者かもしれない、油断はしないようにね」


「私は勇者じゃねーぞ」


 ボスの言葉をミレラは否定する。


「でゅふふ、噂の勇者とやらと戦ってみたいと思っていたところだし好都合、楽しみだわ」


「だからよぉ、勇者じゃねーつってんだろデカ女! デカいと頭も鈍いのか?」


「挑発かしら? 全然効かないわよ、でゅふ、でゅふ。だって頭を使うより圧倒的なこの力で倒す方が楽だし楽しいもの、でゅふふ、でゅふふふふふっ!!」


 挑発をアビゲイルは軽く受け流し、気持ち悪く笑ったあとミレラへ向け駆けだした。


 アビゲイルの武器は何の飾りも無い殺風景な素手のみ。

 防具は魔道具による布系の動きやすい軽装。魔道具の効果により彼女の肉体には身体強化が付与されている。


 アビゲイルは魔術士ランクは6もあり、その高ランク魔術の身体強化も合わさり、それで作られた圧倒的硬度の肉体には生半可な攻撃が通らない確信に近い自信があった。

 だから彼女には動きを制限する鎧などの固い装備による守りはいらなかった。


 アビゲイルは無防備に、無警戒に近づき、ほんの一瞬で間合いに入った。


 彼女の戦闘スタイルは掴んでからの投げだ。力任せに投げて叩き付けた際にぐちゃりと潰れる姿に快感を覚える。

 その姿を想像しながらミレラに手を伸ばした。


 アビゲイルはミレラが反応しなかったのを見て勝利を確信した。


「どれだけ強いのかと思ったら私の動きについて来れないとは、大したことないわね! でゅふふふふ!」


 右手がミレラの首を掴み体重を乗せた直後、アビゲイルは前かがみに倒れた。


(あ、あれ? どういうこと? 地面が近づいて来る)


 咄嗟に地面に手を置き、体を支えるとミレラに触れていた方の腕に力が入らないことに気づく。

 遅れて痛みが意識に割り込んで来る。


「ぐぁぁぁぁ、な、何が起きたの?」


 痛みに意識を集中させられてると背中に何か重いものが当たった。

 その物体は背中から転がり落ちた後、視界に映し出される。


 先ほどミレラの首を掴んだ自身の自慢の腕だ。


「屈んでどうしたんだ? 気持ち悪いから離れろよババア」


 アビゲイルはその言葉が耳に入った後、視界が縦にぐるりと回り、後方に激しく飛ばされた。


「うっかり蹴っちまった、止めを刺すチャンスだったのになぁ……ま、いいか、弱いみたいだし」


 ミレラは止めを刺すためにアビゲイルを追いかける。


 アビゲイルは体勢を立て直しミレラを迎え撃とうとする。


 いつものくせで自慢の肉体には攻撃は効かないと思ってしまい、防御姿勢も取らず、すぐにミレラを投げれるようにと腕を構えた。


 しかし切断された腕が思い出させるように痛みという手段でアビゲイルに知らせる。

 ミレラの攻撃は効くから気を付けろ、という警告。


(さっきのはそう、まぐれだわ。私の体に傷がつくはずないもの!!)


 だが何故か次の斬撃は効かないと思い込み始める。苦労して手に入れた絶対防御の体。効くなどとは認めたくなかった。


 ミレラは無防備なアビゲイルの肉体に剣を振りながら嘲笑を浴びせた。


「お前さ、なんで無防備なの? やっぱりデカいと体だけでなく頭も働きが鈍いみたいだな、はっはっはぁーっ!!」


 最初ミレラは防御姿勢を取らないアビゲイルを怪訝に思っていたが、苦痛に歪む彼女の姿を見て何も考えてないからそんな行動を取ったのだと認識した。


 気兼ねなく何度も剣を振り回していく。人攫いの悪人に対して容赦のない殺意を込めた斬撃。

 アビゲイルは経験したことがない死ぬほどの痛みに戦意が削がれていく。


「ぎゃあ、なんで効いてるの?! やめて! 痛いいだい、ぴぃいいい、やっ、あぎゃあああああ!!!!」


 防御姿勢を取ってみるものの最後に防御をしたのがいつか思い出せないほどのアビゲイルはただ腕を身代わりにするくらいにしかできなかった。


 当然ながらまともな防具を付けてない彼女の残りの腕もあっさりと切り落とされ、最後は体を上と下に分けられてしまった。


 薄れゆく意識に遅くなる思考、最後に湧いてきたのは疑問だった。


「あ、なた、なにも……の……?」


「さっきも言ったが勇者じゃねーぞ? 私はただの冒険者だ!」


 アビゲイルはミレラの答えを聞く前に事切れた。

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