106 夏休み初日は希望に満ち溢れていた 2
「ん? どうかしたのかしら、ステラ?」
頭を撫でられてボケっとするステラをルイザは不思議そうに見つめる。というかなぜ撫でた?
そういえば二人は友達とはいえ、ステラは年下だから妹みたいに感じて撫でたくなったのかもしれないか。
ルイザに妹がいるかは知らないけど。
「えへへ~、何で撫でられたのか分からないけど嬉しい」
ステラは顔を赤く染め、頬に両手を当て気持ち悪い笑みを浮かべる。
ルイザは真顔になるとサッと手を引っ込めた。
「あ、なんでぇ~もっともっと!」
「……ところでステラは恋愛感情を抱いている人はいるのかしら?」
突然の質問に不満そうにしてたステラの感情はかき消されたようで、頭からっぽに見える顔で考え始める。
「恋愛感情? ……うーん、いないなぁ。そういうのよく分からない」
「そ、そう。ならいいのですわ」
ルイザはホッと息を吐いた。
ルイザはステラが自分に恋愛感情でも持ってると思ったのだろうか。
そういう対象じゃないと分かって安心したのかもしれない。でもまだ表情は硬い。
「そんな質問するってことはルイザちゃんは好きな人がいるんだぁ~?」
先程とは性質の違う気持ち悪い笑みを浮かべるステラ。
「今はいませんわ。あ、ちなみに私は男が好きなのですわ」
わざわざ“男”と付け加えたのはまだ“ステラが自分のことが好きなのでは?”と疑ってるからだろうか。
ステラに諦めさせるためにそう言ったのかもしれない。
しかしステラは特に嫉妬のような反応は示さず嬉しそうに宣言する。
「じゃあそういう人が現れたら、私も何か手伝ってあげるよ!」
その言葉を聞いたルイザはようやくステラを信用したようで顔から緊張が抜けきり優しい笑みを作る。
「ありがとう、その時はお願いしますわ。あ、でもステラに手伝ってもらうのは不安が残りますわね」
「確かに……でも私、頑張るよ!」
ステラは否定的に言われたにも拘わらずルイザが言った事だからか素直に受け入れた。
「冗談ですわ。ステラにはデシリアもいるんだし不安なんかないのですわ」
片思いくらいしか恋愛経験のない私は頼りにされすぎな未来を想像し不安になって来た。
そんな雑談をしてるうちに出発の時間になった。
私達はギルド入口に移動し、もうじきに来るルイザが乗る予定の鳥バスを待つ。他に待ってる人はいない。同じ依頼を受けたであろう人達は別の時間で発ってるのかもしれない。
(あ、そうだ。ステラ、ルイザにこれだけは伝えないと後悔するかもしれない)
ルイザを見送る前に私は勇者に気を付けるように助言する。
以前イブリン達がキメラ討伐中に、ちょっかいを出して来た勇者に誘導されて痛い目にあったのでそれについて話した。
「ギルドから勇者という言葉は出てなかったですが、怪しい人がいても深追いしないようにと注意喚起の掲示はありましたわね。しかし勇者って言われてもピンと来ないのですわ。ですがデシリアが言うなら本当なのでしょう。伝えてくれてありがとう、気を付けますわ」
鳥バスがギルドの入り口前に止まった。中から乗客が何人か降り、ルイザは乗っていく。
「あ、忘れてた」
ルイザは振り返ると鞄から何かを取り出しステラにルイザに似た手のひらサイズの人形を渡す。
「私がいない間はこれを私だと思ってちょうだい。ステラが寂しがると思って用意してたのですわ」
「ルイザちゃんにそっくりだ! ありがとう!」
「枯れ木も山の賑わい、というヤツですわ」
その言葉は違う気もするけど、わざわざ訂正するのも面倒だし、いいか。
人形を受け取ったステラは顔が綻んだ。しかしハッとすると難しそうな顔でルイザにぽつりと言った。
「でもこれ、死亡フラグってヤツじゃない?」
「現実に死亡フラグなんてないのですわ」
そこで鳥バスの扉は閉じた。扉はガラスが張られているためお互いの姿はまだ見える。
ステラとルイザはお互いに手を振りながらお別れの言葉を掛け合う。
ルイザの声は扉に遮られてるため小さい。
ルイザが扉前から姿を消した後、鳥バスは動き出し去っていった。
ステラはそれを泣きそうな顔で見送った。
(たった2週間でしょ、あっという間だよ。ところでステラ、死亡フラグってなに?)
恐らくそれもドラマとかの番組から来た言葉なのだろう。ステラから説明を受けながら自宅へ戻ることにした。




