106 夏休み初日は希望に満ち溢れていた 1
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夏休み初日の朝。夏は暑いというイメージを持ちがちだけど国によっては寒い所もある。ま、それは生前での知識なので現代はどうかは分からないけど。
エリンプスは夏は暑い土地柄らしい。ステラに夏のイメージを聞くと暑いという言葉が1番に飛び出すくらいにはエリンプスの夏はそれが印象的なのだろう。
しかしそれは家の外に出た場合の話。中は快適だ。暑さとは全くの無縁。どうやら空気の温度も機械で調整しているとの話だ。
そんな快適な環境下から離れるべくステラは着替えを始める。上は半袖のシャツ、下は膝くらいまでのズボンという地味な服のステラは急いでルイザのいる冒険者ギルドに向かう。
急いでる理由は前日の夜にルイザからの伝言をチッピィから聞いたからだ。
『ギルドの仕事を引き受けたので明日の午後から2週間ほどエリンプスを離れるのですわ。と言ってました』
その言葉を聞いた時のステラは世界が終わったかのような顔をしていた。たかだか2週間程度会えないだけなのに何がショックなのか。
いや、エルフである私とステラでは時間の感覚が違うんだっけか。ステラの2週間は私だと4年会えないくらいの感覚かもしれない。
いや、4年会えなくても私はそこまでの絶望顔は作らないぞ。どれだけルイザのことが好きなんだよこいつは……。
『ルイザニウムをちょっとでも補給したいから明日は早く起きなきゃ!』
そんな謎の単語を言ってステラは早めに就寝したおかげで今朝は早く起きられた。
母に行き先を告げ、ステラは大急ぎで11番街レテ区支所の冒険者ギルドに向かった。
ギルドに到着し窓口の人に挨拶をした後、ルイザの部屋へ向かう。
「おはようステラ。……今日から私は少しの間仕事でいなくなるとチッピィに伝言を渡したはずだけど?」
扉を開け、ステラの姿を見るなりルイザは不思議そうな態度で言った。
「しばらく会えなくなるし、少しでも会いたくて!」
ステラは強く訴える。ルイザはそれが嬉しいのか小さく笑みながら淡々と旅支度を続ける。
「ステラは確か夏休みとかいう長期の休みが始まるのですわよね?」
「今日から毎日ルイザちゃんと過ごせると思ったのに!」
「流石に毎日はちょっと勘弁ですわ」
ルイザは軽く笑いつつ困惑顔を浮かべる。
「キメラ退治の仕事を受けたのですわ。バガンスネークみたいな危険なキメラではなくランクDでもこなせる程度のクソ雑魚キメラ退治なのですわ。西の隣国ミクマニスとの国境付近の町の近くに大量発生してるらしく、とにかく人手が欲しいということですわ」
「面白そう、私も行きたい!」
「デシリアがいればすぐ終わりそうではありますけど、でも2週間も家を空ける理由をママに何て説明するつもりなのかしら?」
「うっ……、っていうかルイザちゃんてお母さんのこと“ママ”って呼ぶんだ」
「……どういう意味?」
眉根を寄せ不機嫌そうなルイザ。
「ううん、なんでもない。2週間も家を空ける方法かぁ……」
ステラは家を空ける方法が思いつかず難しい顔で唸る。1日程度なら友達の家で宿泊するとか言い訳がしやすいけど、前に攫われて3週間近く家を空け、母が心労で倒れるほど心配させてしまったために2週間という日数は流石に厳しいだろう。
「ステラ、一緒に来たいと思ってくれてとても嬉しいのですわ、ありがとう。でも家族と一緒にいられる時間はかけがえのないものだと思うから冒険者の仕事は冒険者になってからやればいいと思いますわ」
ルイザは笑顔を浮かべるとステラの頭を撫でた。




