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100万年後に幽霊になったエルフ  作者: 霊廟ねこ
3章 小さき者の大きな力
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105 レイラ 2

 訓練場には先生はまだ来ていない。

 セシルは同好会の誰も使っていない余っている防具を着るとオウロンと試合を始めた。


「ステラ、私達の試合はセシルの試合が終わってからにしよう」


「どっちでもいいよ」


 レイラとの試合にも興味なさそうな態度でステラは返した。

 レイラは興味深そうにセシルとオウロンの試合に見入る。ステラは同好会で1番強いオウロンの方に注目した。


 ぶつかり合う剣、実力は拮抗しているように見えた。

 しかし徐々にセシルの動きが鈍くなり最終的にオウロンが勝利した。


「才能だけでは体力の差は埋められなかったようだなセシル」


「はぁ、はぁ……。俺が勝ってしまったら剣術一筋のお前が可哀そうだろ」


「はははっ、これだけ良い試合をされてしまった時点で負けと変わんねぇよ」


 勝ったオウロンの方が悔しそうに顔をしかめた。

 試合が終わったセシルはレイラへ顔を向ける。


「レイラもステラとやるんだろ? 俺は体力が戻ってからにしたいから先に進めててくれ」


 セシルに言われたレイラは顔をパッと明るくするとステラにニヤついた顔を向け大声を上げた。


「さぁステラ、先生が来る前に終わらせるわよ!」


 セシル達の試合の前に着替え終えていたステラと制服の上に防具を着込んだレイラは互いの剣をぶつけ、試合を始めた。試合開始の合図は互いの剣がぶつかった瞬間だ。

 剣をぶつけた後は一旦距離を取り、そして勝負を決するために前へと出た。


「やあああああああ」


 互いに大声を上げ剣を振る。何度も打っては受け、弾くを繰り返す。互角かは分からないけどなかなかお互い点を取ることができない。

 レイラはステラほど筋力は無いようだけど、同好会メンバーのボニーのように、ステラの乱暴でガサツな攻撃を器用にさばいていく。

 ステラは逆に優位な筋力の強さで強引に相手の攻撃を受け止めたり弾いたりする。


 体力的にはステラが上に見えたけど表情は苦しく、楽しそうなレイラの方が優位を感じさせる。しかもレイラはよそ見する程に余裕がある。視線を向ける先はセシルだ。セシルに何か認めさせたい事でもあるのだろうか? それとも単にセシルに好意があって注目して欲しいと思ってるのか?


 まぁレイラの思惑なんか知ったところでどうでもいいか。


(くそっ、強い! どこ狙っても止められてしまう)


 ステラの苦しそうな表情は疲れたわけじゃなく思い通りに行かずイラだっているだけのようだ。

 再びレイラが剣を振り、ステラは受け止めた。その時、レイラは顔を近づけると小さな声で話を始める。


「ステラ、私達は3年生。卒業したらあなたは冒険者になるんでしょ? 私は普通に進学するわ。まだ2学期3学期と残ってるけど、もしかしたら私とする試合は今日が最後になるかもしれないわね」


 レイラはひそひそと会話を始めた。


「そう、なんだ。じゃあ最後くらいは勝たせて欲しいな」


(別にレイラと試合なんか出来なくても困らないけどね)


 ステラは頭の中ではどうでもいいとばかりな態度だ。

 レイラはニヤリと笑みを浮かべると挑発にも思える言葉を口にした。


「ふふっ。なら勝たせてあげるわ」


 レイラの言葉にステラは少しムッとした。


「負けた時のいい訳にするつもり?」


「負けてもいい訳はしないわよ」


 レイラはわざとなのかごく自然にステラの攻撃を腕で受け、点をこちらにくれた。


「さすが同好会で鍛えてるだけあるわね、やるじゃない」


「む……わざとでしょ?」


「今日は調子が悪いみたい、負けそうな気がするわ」


 レイラは悔しさを見せず呆れたように呟く。

 ステラが弱すぎてやる気がなくなったのか?


「調子が悪い相手に勝っても嬉しくないよ」


 ステラは不愉快そうに返した。


「調子が悪い時に試合を挑んだ私が悪いのよ。さぁ遠慮なく勝ちに来たらいいわ」


「何がしたいのさ」


「私の剣術がステラとどれくらい差があるのか確認したかっただけよ」


 その後は徐々にレイラは失点を重ねていき、僅差でステラが勝った。

 レイラはステラ相手に初めての敗北らしいけど悔しそうな素振りは一切見えない。


「あ~初めて負けちゃったわぁ」


 レイラはそう言ってる途中もセシルに視線をチラチラと向けていた。


「そう言われても、あんまり嬉しくない」


 物足りなさそうなステラには興味無いとばかりにレイラはセシルへ顔を向ける。


「セシル今の試合見てた? いたわよ」


 セシルは頷いた後ステラへ声を掛ける。


「すぐ試合をしたいところだけど疲れてないか? 俺は後でもいいぞ」


「大丈夫だよ、疲れてないし。先生が来る前にさっさと終わらせよう」


 あまり疲れてないステラと、疲労が残ってるように見えるセシルの試合はセシルの圧勝で終わった。


「ステラ、いい試合だった」


 セシルはステラを褒めたたえる。


「ボロ負けのどこがいい試合なんだろう。ねぇ、セシルって剣術は毎日稽古してるの?」


「いや、週に2回くらいで1回あたり3時間程度だな」


「ウソ……私、そんな相手に負けちゃったの?」


「そうみたいだな。ところで夏休みもここで稽古するのか?」


「わざわざ学校に来るの面倒だしあんまり来ないかも」


「そうか」


 セシルは少し残念そうな顔を浮かべる。

 ステラはその表情を不思議に思ったのか聞き返した。


「どうしたの?」


「いや、なんでもない。先生も来たみたいだし俺は帰らせてもらう」


 周囲を見回すと同好会の生徒達は既に集まっており、先生が今から入口から入ろうとしていた。


「あ、私も帰る! セシル、門まで一緒に行きましょう」


 レイラはセシルの手を掴むと引っ張り始める。セシルはそれを拒絶せずステラの方をチラチラと見ながら戸惑う素振りを見せ、そしてお礼を口にした。


「ステラ、今日はありがとうな」


「お礼を言われるほどの事はしてないよ」


 ステラは興味無さそうに手を振った後、先生の方を向いた。

 先生は同好会のメンバーを近くに集めると始まりの挨拶を始めた。


「明日から夏休みだな! 夏休み期間中も稽古はあるが自由参加だ」


 もう少し挨拶の言葉を続けた後は1学期最後の稽古が始まり、普段と大して変わらないまま稽古は終わった。


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