105 レイラ 1
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ルイザとの剣術の試合から約1カ月が経過した。
その間の出来事は特に変わり映えの無いものだった。
ステラは普通に学校に通い、退屈そうに授業を受け、休憩時間は仲の良い友達ラズリィと他愛もないお喋りをし、放課後は剣術同好会へ赴く。
学校にいる間はラズリィしか友達がいないのか他の生徒が話しかけてくるという事はほぼ無く、ステラから声を掛けることもない。
剣術同好会で仲良さそうにしていた同学年のボニーやオウロンも放課後以外はステラを見ても特に反応は示さず、それはステラも同様だった。
あ、一人だけ挨拶程度には声を掛けて来るクラスメイトがいたね。
セシルという名前の人間の男子。どの女子にも声を掛けているわけじゃないのでもしかしたらステラの事を特別に思っている可能性もあるな。
ステラにセシルとの関係を尋ねてみるものの「向こうからよく声を掛けて来るだけだよ」と特に親しい間柄ではないようだ。
セシルは男子相手には普通によく話しかけていたので彼の中ではステラも男子の枠に入ってしまってたりするのだろうか。
そういえばステラは同性である女子生徒達とも話をあまりしていないな……まぁいいけど。
剣術同好会では私が初めて見た時の光景となんら変わらない日々が続いた。ステラは1カ月近く通っても実力差がそう簡単に覆ることも無く序列に変化は無かった。
みんな成長してるわけだから1カ月程度で変わる方がおかしいとも言える。
そして学校も同好会もない休みの日は最初の内はその度にルイザの所に行ってた。途中からはルイザに会うことに特別感がないのか、飽きたのか週1回になった。
その休みの間に1度だけケミー達と冒険者ギルドで会えた。キディアとケミーの二人は同年代の子達に追いつくべく孤児院内で毎日長時間勉強してるらしく、ケミーは孤児院生活の不満をぶつけるかのようにステラとルイザに抱き着いていた。
ステラとルイザが剣術の訓練を行っているのを知るとケミーは自分も、と言い二人に挑み、成す術もなく負けていた。
ちなみにチッピィが意思疎通できることはルイザだけに知らせてるのでケミーとキディアは知らない。キディアには知らせたかったけどそのタイミングは来なかった。
そんな日々が過ぎ去り、今日は1学期の最後の日。
明日から夏休みとかいう1月程度の長期休暇に入るようだ。
朝、教室に入ったステラは既に来ていた何人かのクラスメイトを横目にしながら定位置の席に腰掛けた。
ラズリィはまた来ていない。ステラがラズリィのことを待ちわびていると一人の男子がステラの元へと近づいてきた。
「おはようステラ」
「おはようセシル」
「そういえば今日も剣術同好会に行くのか? 明日から休みに入るし、もし良ければステラと試合をしてみたいけどいいかな?」
「私と? ……まぁいいけど」
ステラは興味無さそうに答える。
「俺も家では剣術を習ってるからステラの実力に興味があったんだ」
セシルがそう言うと女子の声が勢いよく割って入った。
「おはようセシル! ねぇステラ、それ私も行っていい? ステラがどれだけ上達したのか見てみたくなったわ」
割って入ったのは桃色の髪の子でレイラという名前の人間の子だ。いつも左右に取り巻きの子が付いて回る彼女は社長令嬢とかいう金持ちの家の子とのことだ。
金持ちということは貴族なのだろうと思いステラに聞いてみるものの「貴族って何?」と返されてしまった。この国にはそういう階級はないようだ。
それはさておき、レイラは今までステラに興味なさそうだったけどどういうことだろう?
(レイラも剣術をやってるんだよ。同好会には入ってないけど私より強いんだ。というか体力以外は全部レイラが上だよ。社長令嬢だからか色々な習い事をしてるみたいで剣術もそのうちの1つみたい。それでたまに気まぐれで同好会に腕試しにやってくるんだよ)
(じゃあセシルも?)
(セシルは初めてだよ。セシルも色々やってるみたいだけど私には男子の事はよく分からない)
セシルがステラによく声を掛けてくるのは剣術をやってるからなのか?
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放課後になった。
次に教室に入るのは1カ月後。
ステラは寂しさはないようで、どちらかと言えば楽しそうにしている。
ラズリィと教室を出るとまず最初に男子の声が掛かった。
「ステラ、一緒について行ってもいいか? 目的地は同じだし」
「待ってたわステラ! 剣術同好会に行くわよ」
セシルに続いたのはレイラの声だ。今はレイラの左右にいつもの取り巻きはいない。
ステラの隣を歩いていたラズリィはセシルを一瞬睨む。
セシルはその視線に気づいてるように見えたけど特に反応は示さない。
「ステラ、また2学期に会おうね」
ラズリィはステラにそう告げると去っていった。
(ねぇステラ。ラズリィってセシルのこと嫌いなの?)
(どうだろう? セシルの文句を言ってるところを見たことが無いから分からないなぁ)
理由が無ければあんな目つきをしないはずだから確実に何かあるんだろうな。ステラに言わないのは巻き込みたくないからか、ステラにも関係してることなのか。
ま、所詮子供同士のいざこざだし考え過ぎる必要も無いだろう。
「さ、ステラ。悪いけど私は時間に限りがあるから急いでくれるとありがたいんだけど」
レイラは色々と習い事をしてるらしいし忙しいのだろう。急かすのでさっさと剣術同好会の建物に向かうことにした。
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「ステラおっす!」
「おっす!」
学校の時間内には一切声を掛けて来ないオウロンが馴れ馴れしい挨拶をしてきた。場内を見回すとオウロン以外の姿は見えない。それもそうか、ステラは急かされて真っ先に来たわけだからね。
「セシルとレイラまで連れて来てどうしたんだ? 3年生が今から同好会に入っても半年後には卒業だぞ?」
オウロンは二人の事を知ってるようだ。
「セシルとレイラが私と試合したいって言うから連れて来た。あ、レイラとセシルはジャージに着替えなくていいの?」
「持ってないけど、ま、制服でも問題ないだろ」
「私も制服でいいわ」
セシルとレイラはジャージじゃなくてもいいようだ。
二人がステラに答えた後、オウロンは訝し気な顔でセシルに問いかける。服装についてではない。
「ステラと試合ってセシル? 今のお前の実力は知らないがステラより弱いということは流石にないだろ。ステラは3年生のくせにこの中では下から数えるほどの実力だ。試合をする意味があるのか?」
オウロンはセシルの実力を知ってるような口ぶりだ。
「意味か……ただの興味本位だな。理由がなければ駄目、とお前が決められるルールが同好会にはあるのか?」
「ない。俺もただの興味本位で聞いただけだ。じゃあ、俺もお前と試合をさせてくれ」
「同好会の中ではオウロンが1番強いんだよな? じゃあステラの前にお前とやることにしよう。ステラ、それでもいいか?」
「いいよ」
興味無さそうにステラは答えた。
レイラとステラの会話を描写したいのでセシルとオウロンの試合は3行程度で終わります。




