103 伝書チッピィ 1
翌日の学校。
復学してから2日目ともなるとクラスメイトは朝の挨拶すらしなくなった。
ステラはいつものことだったようで特に気にしていない。
(この時代も学校ってのは退屈なものなんだね)
授業の合間の短い休憩時間、私は自分の学校時代を思い出しながら呟いた。
ステラはラズリィと昨日見た配信番組の話で盛り上がっているためそんな私の呟きは無視される。
特に何事もなく授業が終わると放課後、ステラは剣術同好会に所属しているため剣術の稽古に向かう。
ステラは昨日と同じくほぼ全ての生徒との試合に負けた。稽古が終わった後の更衣室でそのことについてボニーに気遣われた。
「今日のお前は弱かったな。だが昨日は本当に見違えるほど強かった。あれはマグレではないのは分かる、だからステラ、上達しているのは確実だと思え。ちょっと躓いたくらいで後ろ向きになっては駄目だぞ。絶対に自信だけを持つんだ。急に弱くなればもう無理かもしれないと弱気になることもあるかもしれないが、私達は人生始まったばかりでまだまだ山頂へは遠い。止まらず進むことで着実にその一歩一歩は刻まれていき――」
「あ、あのボニー、私全然落ち込んでないからね。でも励ましてくれてありがとう」
ステラは過剰とも言える長い励ましの途中で口を挟んでお礼を言った。
「ステラが一生懸命やってきたのは分かってるからな。私の上達が速いせいでステラは何も変わってないように感じてしまうかもしれないがお前もしっかり上達しているはずだ。昨日みたいに私から点を取るのはマグレで出来るものじゃないぞ」
とにかくステラを励ましたいことだけは伝わって来た。ステラは急に強くなったわけでもなく私が代わりにやったので落ち込む要素はない。
そのため平然としている。
そして翌日も同じような1日を辿り、休日の木曜日が迫る。
* * * * *
木曜日。
時間は太陽が真上に上る直前。ステラは冒険者ギルドの宿舎のルイザの部屋に来ていた。
「ルイザちゃん、今日は学校休みだから来たよ!」
ルイザはステラを見た後その隣にいる小動物に訝し気な目を向ける。
「私に会いに来てくれるのは嬉しいのですけど、その兎猫……えっと、たしかチッピィでしたわね。なぜ連れて来たのかしら?」
訝し気な理由は連れてくる必要の無いチッピィがいるからだろう。
しかもいつもの籠の中ではなく首輪に長い綱を着けるという状態だ。
「私が会いに来てくれたのが嬉しいんだー。良かったぁ……」
ステラはニコニコしながら安堵の言葉を吐いた。まだルイザと顔を合わすことに不安が残っていたようだ。
「何その反応、嫌われてると思ってたのかしら?」
ルイザは困惑した態度で返す。
「だって、エリンプスに来る直前まで嫌そうな態度取られてたんだもん。今でもまだ嫌われてるんじゃって不安になるよ」
あの時はルイザの嫌そうな態度をステラは感じていた。それでもめげずに近づこうとしていったのはそれだけルイザに惹かれてたからだ。
「うっ……そ、それはそうですけど、その……もう嫌ってないのですわ。だから気兼ねなく会いに来るといいのですわ!」
「ニャー」
と、ここでチッピィが鳴いた。
ルイザはその声を聞くと話題を戻した。
「それよりもチッピィですわ。まさか私に預かってなんて言い出しませんわよね?」
「チッピィを連れて来た理由だけど、学校がある日はルイザちゃんに会いに行くのが難しいでしょ? だから会えない日はチッピィが私の伝言をルイザちゃんに伝えに行って、ルイザちゃんの伝言を私に運んで貰おうと思ってるの」
チッピィの中身は人なので言葉は通じるし、勝手に逃げ出したり、他人に迷惑をかける心配は……恐らくない。
「ちょっと何を言ってるのか分からないのですわ」
でもそのことをルイザはまだ知らない。
(ちょっとステラ。ルイザはチッピィが言葉を理解できることを知らないよ)
私が言うとステラはすぐに説明に取り掛かる。
「えーっとね。チッピィは私達の言葉が分かるんだよ」
「ニャー」
ステラの言葉にチッピィは頷きながら声を出した。
「え? う、うん。……いや、言葉が分かっても喋れないんじゃ伝言係にならないのではないかしら? まさか手紙?」
「喋れるよ」
「ニャー」
「ニャーしか言ってませんわよ」
「チッピィ。喋っていいよ」
その直後、この場の誰とも違う声が突然発生した。
「こんにちはルイザさん。私は喋れます」
チッピィの魔法による声。チッピィに近い声質になるまで練習したようだ。だけど口から声を出していないため不自然な感じになっていた。
「……え?」
ルイザはステラが声真似でもしたのかと思ったのか疑いの目を向けてきた。
「ステラ、今のあなたでしょ? どういう意味かしら? 私をからかってるのですか?」
「へ? 私じゃないよ? チッピィが魔法で喋ったんだよ」
ステラはチッピィを両脇から持ち上げてルイザに向ける。
「はぁ……動物が魔法を使うわけがないでしょ」
ルイザは呆れてため息をついた。




