1 その幽霊の女エルフは体を欲している 2
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試行錯誤した結果、体を動かせるようになった。
(よし、動いた。じゃあ私が指示を出すまでステラは大人しくしててね)
ステラから体を動かす権利とでも言えばいいのかな、それを一時的に譲ってもらった。そうすることで私がステラの体を動かせられる。
体を動かすのは宿主であるステラが優先なので彼女が動かしたいと思えば私が動かしていても強制的にその権利を奪うこともできる。
でも非常時にそうなっては非力なステラでは命に関わるので勝手に動かない様に言い聞かせた。
さて、屋敷にいる悪人達と戦うためには初めて扱うこの体のことを知らないといけない。早速色々試していくとしよう。
まずは身体強化の魔法で身体能力を上昇させ、手足を縛っている縄を力任せに引きちぎる。憑依した体でも強化の魔法は問題なく掛かった。
身体能力は筋力だけでなく体の耐久力も上げられる――部分的な強化も可能――ので強化の度合いによっては怪我を減らせるし、刃物を通さないレベルまで硬くもできる。
手足は動くようになったので次は口を覆うテープをあえて強化した肺活量で吹き飛ばしてみる。
「ぶっっっ!!!」
勢いよく口から剥がれて飛んで行ったテープは天井に張り付いた際に「ぺちっ」という音を立てた。ちゃんと肺活量も強化されたのを確認。
(……え、は?)
呆気にとられたステラの声。引いてるのかな?
とりあえず彼女の事は気にせずに淡々とできることを確認していく。
まだ少ししか試してないけど動く分には問題なさそうだ。
魔法も魔力消費の少ないものしか試してないけど簡単に発動した。
続いて私は窓にある鉄格子を握り、さらに身体強化して左右に強く引っ張る。鉄格子はぐにゃりと容易く曲がり、外に出れる程度の隙間が出来た。
でもここから外に出るつもりは無い。
あくまで体の状態を調べるための確認作業だ。
まだ本気ではないけどこれくらいなら大人相手でも十分通用するだろう。
(えぇ……)
心の声でも感情はある程度伝わる。
ステラはまたも引いたようだ。なんかごめんね、慣れてちょうだい。
動かしているのが他人の体だから上手くできるのか心配だったけど特に問題なさそうだ。
攻撃系の大きい魔法も試してみたいけど今放ったら屋敷が全壊しそうなので外に出た後で試そうと思う。
(そろそろ脱出に向けて動くよ。でももう1個確認させて。他の部屋にいる子どもたちも助けたいけどステラはどう思う?)
(え? う、うん……)
(ステラは他の子供達を助けたいと思う?)
(私とは関係ない子達だと思うけど、できるなら助けたい。デシリアならできる?)
(私なら絶対できるよ。どこかに運ばれる前にさっさと行こうか)
そして部屋を出た。
注意しながら進むと廊下を歩いている男と目が合った。
「おい、なんで自由に歩き回ってんだ!」
私の姿を見るなり男はゆっくりと近づきはじめた。
(ステラに聞くけど……この男、殺していい?)
子供たちを攫った悪の組織の一員だ。子供を攫うなんて私は許せない。殺した方がいいと思っている。
だけど今の私は出来る限りは宿主であるステラの判断に任せたい。
(こ、殺すって?)
(攫われてきた子供達の行く末がどうなるかは私には知らないけど、きっとろくな目には合わないと思う。ここの大人達を生かしておけばまた不幸な子供は増えていくはずだよ。もしこの男を殺す様子を見たくないなら目を閉じて見ないようにして)
(う、うん。デシリアに任せる)
ステラの許可が下りた。これで心置きなく消すことできる。
そういえばステラは体を操作してない時は目を瞑らなくても視界を閉じることはできるのかな?
(ステラ、目を閉じることはできる?)
(え? うん何も見えないよ)
実際の目は閉じていないけどステラには何も見えてないようだ。
さて、準備は整ったし消すとするか。と、そう考えている間にも男は目の前まで来ていた。私の腕を捕もうとしたのでサッと躱し、逆に相手の腕を掴む。
「お、おい?」
男は鋭い視線をこちらに向ける。悪人だからか目つきが非常によろしくない。子供には通用したかもしれないけど、私には効かないからね。
「えーと……さようなら」
私がそう呟くと消滅系の魔法によって一瞬のうちに男は白く光り、断末魔も上げる間もなく消えた。




