12 みんなうるさい
私は濡れた体を見下ろす。
子供なので凹凸のない平坦な体つきだ。
しかしその平坦な体は生前にも見慣れた風景でもあった。
なんだか思い出したくないので濡れた服に意識を向け、魔法で一瞬にして乾かす。
その間にも私を無視して周りはより騒がしくなっていた。
先程までと違い、子供達と代わって男達は嫌でも注目されてしまうほどの大声を張り上げる。
「なんで止めやがる! お前らは俺が間違っているとでも思ってるのか!!!」
「間違っているに決まってるだろ!! たかだか子供なんだから注意だけすりゃいいじゃねぇか!」
「子供ってのはな、注意だけしてもどうせすぐ忘れてまた騒ぐんだよ! だから忘れないように印象づけてだな――」
男達は大声で自分の考えを押し付け合っている。
それにしてもうるさい。子供の騒ぎ声とは違った不快感がある。
辺りを見回してみると子供たち以外にも客がいてみんなが男達に注目している。
(デシリア、今のうちに逃げちゃわない?)
なるほど、いいアイデア。と言いたいところだけど――
(ステラ以外はまだ料理を食べ終えてない子もいるから逃げたら腹の虫がうるさいだろうね)
私は助けを求めるように他の冒険者の方をじーっと見つめる。
その視線に気づいてはいるみたいだけど誰も喧嘩を止めに行く気配がない。
……面倒事には関わりたくないよね。
私はギルドの職員を呼んだ方がいいと考えマリアに助けを呼ぶように促す。しかし既にケミーに行かせてたらしく、しかも職員はいなかったようだ。用事でどっか出かけてたりしてタイミングが悪かったのかもしれない。
子供の方に目を向けると席に戻れずに成り行きを見守っている。
今まで苦労してきたのだから食事くらい気兼ねなく食べさせてあげたい。
残った食べ物を部屋に持っていって食べるなんて1人くらいならともかく大勢の分は難しいだろうし、それできるなら食堂なんかいらないよね。
それにしてもなんでこんなことになった。
はぁ……。
イライラしてきた。力づくで何もかも解決できるなら楽なんだけどね。
ステラが目立ってしまうからできればしたくないな。
でもいいか。子供達の食事を優先させなきゃ。
(ステラ、この男達ちょっと黙らせていいかな?)
(いいよ、やっちゃって!)
そのために私が一旦この場を収めよう。
他の人は何もしてくれないし。
私は騒がしい男達に目を向ける。
男達はこちらには意識を向けていない。
最初に絡んできたのはそっちのくせに私達を放置するのはどういうことなのか?
私は静かに男達に近づき、理不尽にステラにキレていた男の肩にポンポンと触れる。。
「なんだガキ! 今はお前は引っ込んで――」
「あんたたちもうるさいんだよ!」
パーン! という音が食堂を駆け巡る。
私は3人の頬に強烈なビンタをお見舞いしてやった。
男達はその衝撃の強さに意識が飛んでしまい、床に倒れ込む。
大丈夫、死んではいない。
騒音を巻き散らかしていた男達が沈黙したため、食堂は静かになった。
みんなの唖然とした視線が私に集中する。
もっと上手く治めたかったな。
「みんな、冷めてるかもしれないけど食事を済ませましょう」
困惑したまま食事を再開した。
先程とは違って静かに料理を口に運んでいく。
「ステラちゃん、私、役立たずでごめんね。年上なのにね」
いつの間にか隣にケミーがいた。食事は終わったようで私に謝るとすぐ部屋に戻っていった。
役に立とうとギルド職員を呼びに行ったのは知ってるから後でお礼を言いに行こう。
そしてキディアは料理を食べ残したまま、戻ってくることは無かった。
後で残った食べ物を持っていってあげようかな。1人分くらいなら多分大丈夫だろう。
みんなが食事を終わって私以外が食堂から出て行ったのを見届けてから男達を強制的に起こすことにした。
このまま放置だと後でまた因縁つけられそうなので話し合いをしておきたい。
(私も部屋に戻りたいよ、デシリア)
(付き合わせちゃってごめんね、放置してるとまた因縁つけられると思うし)
(はぁ……面倒くさいね。早く平和な家に帰りたいなぁ)
付き合わせて悪いとは思ってるけど、男達を放置するわけにもいかない。
「はい、起きて起きて」
頬を叩くフリをして魔法で起こしていく。
ビンタのダメージで後遺症が残ってると怖いのでついでに回復魔法を掛けておく。
死んでなければ私の魔法ならどんな怪我も確実に治る。
死んだ直後でもほぼ治るけど、時間をかけるほど記憶が欠落していたりと後遺症は残る。
ちなみに時間が経ちすぎたのを治そうとするとゾンビみたいになる。
つまり死者蘇生はろくな結果にならない。なので死者蘇生はやりたくない。トラウマだ。
「あ、あれ? 俺達何をしてたんだっけ……」
男達が目覚めた。あなたたちは仲間同士で言い争ってましたよ。
「目は覚めましたか?」
「あっ! このガキ、俺達にビンタかましやがったな!!」
私達にキレ散らかしていた男が見上げながら指を差してきた。