11 キレた男
「ああああっ、うっせぇ!!」
食堂内の全員がその声に注目し、先ほどまでの賑やかさは一瞬にして消された。
ステラはそれを見た直後にすぐに料理に顔を向け食事を再開する。
「なんだその目は……お前らな、どれだけ迷惑かけてると思ってるんだ!!」
男が大声で子供達に怒鳴り、靴を床に強く打ちつけ大きな音を立て威嚇する。
「お、おい、子供相手にちょっと怒り過ぎだろ。落ち着けって」
男の仲間が止めようとなだめる。
「落ち着けるか! 楽しい飯の時間に不快な音を喚き散らされたんだぞ!!」
怒る男は男の子達に近づいていく。
怯えていたケミーはその隙にステラのすぐ目の前に移動してきた。
先程までのステラちゃんどうのこうのと言う余裕はなさそうで目を瞑ってしゃがみ、震えながら無言でじっとする。
ステラはケミーに気づいてないのか料理から視線を離さない。
キディアは食堂からこっそりと出て行った。
他の子供達は恐怖で動けないのか固まっている。マリアは子供達を守るために男に立ちふさがった。
「なんだ? お前には用はねぇ、そこのガキを出せ」
「お断りします。私達は何も悪くありません」
「はぁ? そいつらがキーキーキャーキャーと耳障りな音たてて迷惑かけてただろうが!!」
「それは、あなた達だって騒いでたと思いますが私達とどう違うんですか?」
「俺達は迷惑にならない程度に騒いでんだよ! お前達と一緒にするんじゃねぇ!」
男はマリアを押しのけ男の子達に近づこうとすると、マリアは必死な顔で男の腕を掴んで止めようとする。
(ステラ、なんかどんどん物騒な方向に進んでるよ)
(私に言われても困るんだけど)
(でも謝れば男は少し落ち着くんじゃないかな?)
(なんで私が? というか相手も同じく騒いでるのにこっちだけ謝るのってみんな納得いかないと思うよ?)
大人達に嫌な思いされまくってるだろうし子供達だけ謝らせると不満が凄く溜まりそうだなぁ……。
自分ではどうにもできないからとステラは食事から目を離さずに黙々と食べる。
もうすぐで食べ終わりそうだ。
私が体を借りてもできることなんて謝罪するか力ずくで追い返すかくらいだ。
そもそもステラは悪くないのに謝るというのもね。
さっきの時点で子供達に注意をして静かにさせておけば良かったんだよ。
もう過ぎたことはしょうがないか。
「お願いします、やめてください。この子達に何をするつもりですか!!」
「お前が注意しないなら俺が教育してやる、ちょっとどけ!」
男はマリアに掴まれた腕を大きく振るがマリアは意地でも離さない。
「あなたたちも騒いでたのに理不尽です!」
「同じじゃねぇんだよ! 子供と大人を一緒にするな――」
その時、男は1人だけマイペースに料理を口に運ぶステラに気づいた。
その様子に何故かさらに男の怒りに油を注いだようだ。
「おい!! そこの呑気にメシ食ってるガキ!! こっちを向け!」
(あらら、ステラのこと呼んでるみたいだよ)
(え! なんで!?)
本当になんでだよ。
憤慨する男は男の子達から標的をステラに移したようだ。
男はマリアを軽く突き離すと近くにある水の入ったコップを持ってこっちに近づいて来る。
「おい、何をする気だよ、やめろって」
男は仲間の言うことに答えず、ステラに向かって来る。
「ごちそうさま」
ステラは皿が空っぽになったと同時に振り向くと男に水をぶっかけられた。
普通ならそれに驚くところをステラの反応は薄かった。
「え、ん?」
男は反応の薄いステラを見てキョトンとした。
(ステラ大丈夫?)
(大丈夫だよ、でも水かけられたのに軽く触れられたくらいの感触しかなくてびっくりした)
私みたいな幽霊に取り憑かれると、宿主も幽霊同様に感触とか聴覚とかの感覚の度合いを自在に調整できると幽霊の知人から聞いた。
ステラはそれを知らないので無意識のうちに勝手に調整してるようだ。
あとで教えなきゃいけないな。
「ちっ、仲間のピンチなのに呑気だなお前は! 俺の1番嫌いなタイプだ」
びしょ濡れになったステラは男を見上げる。
男は空になったコップをゆっくりテーブルに置くと声を荒げた。
「自分さえ良ければ他がどうなってもいいのか! 関係ないみたいな態度取りやがって!!」
何故か説教が始まった。ステラはご飯を食べてただけなのに。
「おい、やりすぎだよ! もう十分じゃないか」
「もうやめようぜ。嬢ちゃん達、本当にすまなかった」
男の仲間たちが止めようとしつつ、私達に謝罪をする。
仲間も流石にこれは許容できないようだ。
(デシリア、私じゃ対応できないから交代して)
(分かった)
私は交代して表になった。
交代したはいいけど私もどうすればいいか分からない。
男はそんな私の様子にお構いなく説教を続ける。
「自分達が悪いのに謝罪もしない、仲間を見捨てる奴もいる。こいつらには教育が必要だ!」
「落ち着けって」
「子供相手に熱くなりすぎだ、もう十分だろ」
仲間は冷静だ。
なんだか申し訳ないな。
ステラのことを除けば元々悪いのは私達なのに。
視線を子供達へ移すと男から距離を置いた場所で私を心配そうに見ていた。
そこにケミーは見当たらない。
どこ行った? いなくてもいいけど。