8 子供の冒険者 1
殺し屋から奪った剣を私が売りたがってもステラはお気に入りの様で手放したく無さそうだ。
でもステラのような子供がこんな立派な物を持ってたら嫉妬で絡んでくる者もいるだろう。
なのでこの剣は無い方がいい。
私は剣を買い取ってもらうために店員らしき変わった格好のステラくらいの背丈の子に声を掛けた。
「すみません」
「はい……ひっ!!」
その子は私の顔を見るなり嫌そうに表情を歪めた。
「あなたはさっきの……な、なに!? 私に何の用かしら!?」
さっきの?
鳥車を引いていたところを見られたとか?
子供達の集団の1人だから?
なんだかよく分からないけど店員? は困惑している。
(か、可愛い~!!)
ステラは目の前の子を見て少し興奮した声を頭の中に響かせた。
私も同じ感想だ。ステラと年は同じくらいだろうか。
少女の少しふんわりとした黒髪は肩にちょうど届く長さで、緩く細いクルクルとしたロール髪が目の少し外側を垂れている。
肌は雪のように白く、大きな眼は少しつり気味だけどそれが気にならないくらい整った顔立ちをしており、頭の猫耳は上を向き、黒いスカートからは細長い黒の尻尾が美しい曲線を晒している。
このケミーに似た特徴は猫人だろう。猫耳というだけでも可愛いのに顔も整っていてズルい。エルフの私に引けを取らないくらいの美人である。
まぁ私は死んでるし霊体の顔の形なんて自由に変えられるから生前の顔なんかもうどうでもいいけどね。
それにしてもこれだけ可愛いならステラにもう少しこの少女の可愛さを分けてあげて欲しいな。
(デシリア、何か言った?)
え、心の声は漏れてないはずだけどなんで気づいた?
まぁいいや誤魔化そう。
(この子可愛いなぁって言ったんだよ)
(だよね! 私も可愛くなりたい!)
上手く誤魔化せた。まぁステラも普通に可愛いと思うけどね。普通が1番だよ。
再び猫人の子に意識を向け、その目立つ服装に注目する。
スカートだけでなく上半身の服も黒く、長い袖の大きく広い袖口とロングスカートの裾にはいくつかの段になったフリル――波の様な形の模様がついており、黒髪で色白の彼女にはその服は不気味なくらいに似合っている。
「用ってジロジロと私を眺める事かしら?」
おっと、私は剣を買い取ってもらうために来たんだった。さっさと用を済ませるとしよう。
「この剣を買い取って欲しいんですけど、この店では買い取りはやってますか?」
「は、はぁ? 私は店員ではないのですわよ。客! 客ですわ! どこをどう見たら店員と見間違えるのかしら……」
呆れた顔で返された。
「変わった恰好してるから店員と間違ってしまいました。すみ……ごめんなさい」
私は外見が子供なので子供っぽい言葉使いを意識してみるけどちょっと難しい。
そこまで気にしなくてもいいかな?
「……ああ、これね。私は冒険者なの」
少女はまさかの冒険者だった。




