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1 その幽霊の女エルフは体を欲している 1

※不定期更新です。1カ月以上更新しない時もあるかもしれません。


※1回の更新の文字数は1500~3000字程度です。1話4000~6000字を分割してるのでそうなってます。たまに2000字程度で1話になってることもあります。

 窓からの光が薄く照らす暗い部屋。

 どこかから連れて来られた人間の少女が大人しく横たわっている。


 私はこの屋敷に堂々と誰にも気づかれずに侵入し、今、少女を見下ろしている。


 なぜ気づかれなかったのか?

 私が幽霊だからだ。


 私はエルフという耳が細長い種族の女で外見は人とそれほど違いはない。

 1000年くらい生きたのは覚えているのだけど、いつどのように死んだのかは分からない。どういうわけか幽霊になっていた。


 エルフにとって1000年という時間は短く、人間でいうなら20~30代辺りだろうか。


 私が死んでから具体的な数字は分からないけど100万年は経過してるらしい、私と同じく幽霊になっていた知人が教えてくれた。


 なんでそんなに長い時を経て幽霊になったのだろうって不思議に思ったけど、答えは見つからなさそうなので考えるのをやめた。


 幽霊という実体のない姿になって1週間程度が経過している。生身の頃よりも良い所を上げるならこれ以上死ぬことがないということくらいかな?


 生前に出来たことはほぼできない。砂粒一つさえ生身の頃の様には持ち上げられない。食事は出来ない。姿が見えないので誰からも気づいてもらえない。声が出せない、などなど。


 出来ることが少なすぎて何のために存在してるのか分からない。


 生きてる時と変わらない部分を上げるなら魔法が使えるという点だ。残念なことに魔力は極端に少なくなってるし回復も非常に遅い。魔法を使えば物を持ち上げたり、音を声のように出すことは出来るけどすぐ魔力切れを起こすから短時間しかできない。魔力の回復は食事が出来ないために大気に含まれる微量のものを時間を掛けて吸収するくらいしかない。


 でも、その悩みを一気に解決するための方法がある。

 それは人に取り憑くことだ。人に取り憑けば取り憑いた相手――宿主から魔力をたくさん借りられて物も持ち放題触り放題。生前とほぼ同じようになるらしい。


 代償として取り憑いた相手の残りの寿命と同じになるらしいけど、退屈なまま存在しつづけるくらいなら別に構いはしない。


 ということで1週間前に人を求めて旅に出て数日が経った今日、ようやく良さそうな相手を見つけることが出来た。

 そしていよいよ取り憑く時がやってきた。


 でも、相手はエルフじゃない。 


 人間だ。取り憑くチャンスは1回だけ。


 でもこの子で構わない。助けたいからね。

 相手にも取り憑いていいか尋ねてちゃんと許可は貰った。


 それでその話をしたときに言わなかったことがある。

 一度取り憑いたら二度と離れられないということ。


 もし離れて欲しいと言われたら、その時は離れ方が分からないと言って誤魔化すとしよう。


 さて、時間は惜しいし、お互いの覚悟は決まってるのでさっさと取り憑こうと思う。


 私の視線の先には口をテープで塞がれ、手足を布で縛られ、オレンジ色の髪がちょうど肩にかかる11歳の少女がいる。


「んん……」


 私は呻く彼女に霊体を張り付け、吸い込まれるようにして取り憑いた。


 彼女の体と魔力を借りて助けようと思うけど、その前に取り憑いた――憑依した――という報告はしないとね。

 憑依したので会話は口からの発声ではなく頭の中だけでのやりとりが可能になる。


(こんにちは。さっき話をした通りあなたに取り憑いた幽霊です。頭の中に話しかけてます。なので口から声には出さないで頭の中で話しかけてみて)


 少女が怖がらないように優しく声を掛ける。少女は恐る恐る頭の中に声を響かせた。


(頭の中に声がする……さっきの幽霊? 幻聴じゃない?)


(そう、さっきの幽霊だよ。取り憑く前に助けるって言ったのは私)


 私は彼女に憑依する前に魔法で作った声で話をして許可を貰った。

 さっき尋ねたときに頭を縦に振っていたので、許可は取れているはずだ。その証拠に彼女から嫌がる素振りは見られない。


(あの、本当にどうにかできるんですか?)


 憑依するのと引き換えに私は彼女を助ける約束をした。だからどうにかしないといけない。


 今の状況だけど彼女は恐らく悪い人達に攫われて森の中の屋敷に監禁されている。他の部屋にも子供がいたので人身売買でもやっている悪の組織の施設なのだろう。

 この屋敷のあちこちに男女問わず大人がいるので子供だけで逃げだすのは難しい、というか不可能と思われる。


(安心して、私ならどうにかできるから。あ、私の名前はデシリア・バナライト。デシリアと読んでね。あなたは?)


(私はステラ)


(ステラね、よろしく)


(よ、よろしくデシリアさん)


(『さん』は付けなくていいから気軽に話しかけてね)


 私はステラの肩から手のひらサイズの人形のような幽霊の体――霊体を出す。

 霊体なんか出す必要は全くないけど、なんとなくそうしたい気分だった。


 霊体を肩に立たせて室内を見回す。

 ちなみに取り憑いた体からは一定距離までしか霊体を伸ばせないらしい。


 この部屋は全体的に暗いけど私にはあまり関係ない。幽霊だからなのか暗くても見える。

 光がある方向に目を向けると窓があり、その窓の外側には鉄格子が付いていた。


 窓の光と開きっぱなしの部屋の扉から入る光がこの薄暗い室内を微かに照らしている。

 開きっぱなしなのは縛られた状態では逃げられないと思っているのだろう。


(この屋敷には人がいっぱいいたけど、でも大丈夫。あんなの大したことないから)


(本当?)


(本当だとも、そのためにあなたの体と魔力を私に貸して欲しいの)


 ステラからの返事は無い。意味が分かってないのかな? もう一度聞いてみよう。


(私はあなたの体を動かせないと何もできないの)


(そう言われても……どうやればいいんだろう、こう?)


 私も人に取り憑くのは初めての経験。

 取り憑けば自動的に体を動かせるわけでもないようだ。


 とりあえず色々試してみるか。

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