転生斡旋所#4
「勇者様ですか」
「はい。勇者です。世界を救った後、生き埋めにされました」
今日のお客様はファンタジーゲームの勇者。ゲーム世界の場合、本編では末期まで語られない事の方が多い。
「それは、御愁傷様です」
お茶の準備をしながら、全く興味のない体で生返事を返す。
「それで、ここでは転生先を選べると先ほどいただいた資料に書かれていましたが、死亡直後の世界に転生は可能でしょうか」
無表情に確認を行う勇者。
「可能ですが、決断がお早いですね。大体の皆さんは少しは悩むものですが」
用意の出来たお茶をテーブルに置き、対面の席に座りながら、質問に対する返答を行う。
「同じ世界の場合、その後に生まれる赤ん坊になります。記憶を引き継ぐ場合、いつ頃記憶を取り戻すかもオプションとして選択可能ですが、現在の能力を引き継ぐ事は出来ません」
「記憶は最初から、能力は仕方がないです。王都に暮らす庶民で、できれば身体を鍛える事が普通の家庭環境にしてください」
またも即答する勇者。お茶に手を伸ばす素振りさえ見せない。
「特に問題はありません。死後に同じ世界を希望するのは、やはり自身の救った世界のその後が気になりますか」
これまでとは異なり、少しだけ思考に時間をかけ、返答を返す。
「そんな所です。では、お願いいたします」
自身が担当した中では最も早く転生内容が決まり、(普段からこんな感じなら仕事が楽なのに)と思いながら、作業に着手するのであった。
自身の仕事の結果を確認する為に、先日の勇者の転生後を確認する。
・門番の子供として生まれる
・幼少期から身体を鍛えることを好み、その激しさは勇者であった頃を超えており、周辺の皆は身体を壊さないか心配していた
・前世の自分について、どのように伝えられているのか情報を収集した所、以下のような内容であった
(1)魔王を倒し王都に凱旋した勇者は、気付かぬうちに魔王に呪いをかけられており、間もなく逝去した
(2)勇者の死後、その仲間たちは英雄として評され、それぞれの道で出世していった
(3)勇者を称え、王墓の近くに勇者の墓が作られ、救われた人々がお参りに訪れる、王都の名所のようになっている
・前世の記憶を元に、仲間達に裏切られ、自身が死んだ場所を確認すると、装備や所持品等のない白骨を発見した
・復讐を決意して転生していた元勇者は、前世の仲間達について情報収集を開始する
・仲間達への復讐の過程で、強欲で狡猾、その上で人としての力を超えている勇者を恐れた各国の王から依頼されていた事を知る
・復讐対象に各国の国王を加え……
昼休憩のチャイムが聞こえ、作業していた手を止める。
「この辺で良いでしょう。新たなる魔王の誕生を手助けしてしまったようですね。最初から勇者など居ない世界軸だったのでしょう」
そう呟き、意識を今日の昼食に切り替え、早足で仕事部屋から出ていくのであった。