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#01G 宿

ハンナのステータス異常からの続きです。

ドワーフたちの酒場



  静かな音楽が流れる中に、たくさんの人たちが雑談しながら食器を動かす音がする。


  レストランは宿の建物の2階にあった。

窓が通りに面した方にしか無くて、特徴的な作りだ。 内側と外側をきれいに分けることがこの宿の建物のテイストなのだろう。

レストランのスタイルは、セルフサービス方式で、サラダ類から順に料理がテーブルの上に並べられている。

人界のものと比べて、特に目立って変わった料理はないが、そのバリエーションは豊かだ。 特にチーズとソーセージの種類が豊富だ。

飲み物も、ソフトドリンクからお酒までたくさんの種類があり、ここではアルコール度数の低いものなら、子供でも飲むことが可能だとサーバーの女性のドワーフが説明してくれていた。

ジーナがハンナたちに『どうする? ビールでも頼んでみる?』と聞いていたが、ナトははじめから首を振って、ハンナは『味見してから』とウリたちと同じリンゴジュースを注文した。 


「「「「「「「「「「「「「 かんぱーい!! 」」」」」」」」」」」」」


飲みものが運ばれてくるのを待って、ダンテが軽く祝辞を述べ、一同がコップを高らかに上げる。

ミエスがダンテたちに丁寧に礼を言って、お互いに頭を下げあった。

女性たちから順にプレートに料理を取ってきて、夕食会が始まった。


  ドワーフだらけの中で、人族と魔族の混合のグループはダンテたちだけなので、ここにいるだけで目立っている。

時おり注がれる視線に、アーネたちが『また、私たち賭け事のネタにされないわよね』と気にしていたが、そこはオトナのジーナが『気にするだけ損よ』と肩をはたいて和ませた。


  夕食も済み、ダンテたちが部屋へ戻る頃には、夜も更けていた。 

レストランと同じフロアには、一段下がってパーテーションパネルで仕切られたバーがあり、そこからはいい感じの笑い声が響いていた。

愛想の良いサーバーの女性が、お客次第で3時・4時頃まで開けているので、気が向いたらどうぞと声をかけてくれた。

サーバーの女性にお礼を言って、心付けを渡してレストランを後にした。


  『レストランなんて久しぶり』と自分のおなかをさするアリス。 『そうですね』とサテラ。 『私は初めてでした』とハンナ。 ウリもうんうんとうなずいて、『オレも』と優が続く。 部屋の入口が見えたところで、『明日もここに泊まるから、朝食も入れて3色は食べられるわね』とジーナ。 そこで、『あ゛あっ』とハンナが止まる。 そして、ダンテの方を振り返って言う。


ハンナ 「ダンテさん。 食糧の生ものをどうしましょう。 日持ちのするものは凍らせてありますけど、今夜の分と明日の分と思っておいてあるのはこのままじゃもちません」


ダンテ 「あ、そうだった。 実はこの宿のカウンターで話はついてるんだ。 レストランの料理長の手が空いたら、馬車まで一緒に見に行ってもらうことになっていて、料理長が見てみて、状態が良ければ引き取ってもらえる話になってる」


ハンナ 「よかった、腐らせるともったいないので。 じゃぁ、ダンテさんが行くときに言ってください。 わたしも行きます」


ダンテ 「…あ、ああ。 まだ少し遅くなるだろうから、ハンナは休んでいなさい」


ハンナが明るく返事をして、ダンテがカギを開けて一同が部屋へ流れ込む中、ジーナがハンナを呼び止めた。


ジーナ 「ハンナ。 言ってなかったわね。 あなたはしばらくの間お休みよ。 何にもしなくていいから、休んでなさい」


ハンナ 「…わたしの目のことで?」


ジーナ 「…まぁ、それもあるけど、ゆっくりしなさいってことよ。 ここ何日かは、他のみんなも休むからね。 ほら、あなたはいつもみんなのご飯の心配をして気を張っているでしょ? だから、言ってるの」


ハンナ 「わかった… でも、食材を引き渡すのはわたしがやりたいの。 食糧になってくれた生き物たちに申しわけないから、最後までやらせて?」


ジーナ 「ふふ、わかってる。 でも、それが終わったら、しばらくは料理当番もお休みして。 『淵源』のこともあるから、人前にあなたをさらすわけにはいかないの。 だから、環境が整うまで『普通の子』でいて?」


ハンナ 「うん。 …そうだったね。 わかった」


ジーナが『いい子』と頭をなでて、ハンナの背中を押して進んで、ダンテが扉を閉じた。



  宿のカウンターから電話が入ったのは、11時前だった。 ようやく、レストランの調理室が片付いたのだろう。

ダンテとアリス、ジーナとハンナと優、それに何故かアーネもついてきていて、駐車場には茶色いコック帽をかぶったドワーフが待っていた。

他のドワーフたちと比べて、随分と細身の若い男性ドワーフは、『パーバリです』と頭を下げて名乗った。 感じの良い若者だ。


パーバリ 「お待たせしました。 今日は予想していたよりもお客さんが多く入ってしまって、厨房が中々片付かなくて… 申し訳ありません」


ダンテも『無理なお願いをしたのはこっちだから、気にしないでくれ』と青年と同じように頭を下げて返した。

アリスが馬車のもとまで先に行き、両手を広げる。 馬車の荷台に浮き出ていた文字が、重力に引っぱられるように地面に流れて消えた。 パーバリに『そちらの方は、お若いのに魔導師さまでしたか』褒められて、アリスが機嫌をよくしている。


ダンテが食糧を収納している後部の引き出しを引いて、大型のクーラーボックスを地面に降ろす。

フタを開けてもらって、パーバリが中をのぞき込む。 ブリエディスの肉はバラ肉の部分で、外された骨と分けて収納されている。 浜辺で取れたパミュカラバスの肉。 シクリッド系の魚のフィレット。 そして、ネザからもらって食べきれなかったピンクサーモンのフィレットがまだ4kgほど残っていた。

それに、『おお!』とパーバリは目を輝かせる。 反対にハンナとアーネとアリスは悲しそうだ。

あとはワカメなどの海藻と、根菜類とキノコがあった。


パーバリ 「全部いただきます。 鮮度もいいですし、品質もなかなかです。 そうですね…」


そう言うと、パーバリは電卓を出して弾いて行く。


パーバリ 「少し色を付けて、銀貨10枚でどうでしょう?」


ダンテ 「ジーナ?」


ジーナ 「え、ええ。 そうね。 でも、こちらは現金をもらっても仕方ないから、もう少し色を付けてもらって、銀貨15枚を明後日の宿泊代から、引いてもらえないかしら?」


パーバリ 「な、なるほど。 しかし、それは私の一存では決められないので、カウンターにいる兄に聞いてからでいいですか?」


ジーナ 「ええ、もちろん。 てか、お兄さんだったのね、あの人」


パーバリ 「はい。 では、とりあえず銀貨10枚ということで呑んでいただいて、食材を運びましょう。 よろしいですか?」


ジーナ 「わかったわ。 行きましょう」


パーバリが『人手を呼んできます』と中へ向かおうとするのをダンテが止めて、クーラーボックスごと運ぼうと提案した。 クーラーボックスにはタイヤがついているので、ダンテが引いて運んでいく。 ジーナがダンテと先に行って、ハンナたちは、アリスが再び馬車に結界を張るのを待って、後からダンテを追いかけていく。



  エントランスの扉が開いてカランコロンと鐘が鳴って、ハンナたちが中へ入ってきた

それで少しだけドワーフ兄弟の会話が途切れたが、話しは決まったようだ。


―― 「客人方、わかりました。 引き続いての明後日のお部屋のご予約と、前金として銀貨15枚分をいただきました」


ジーナ 「わぁ、ありがとう。 これで、リゾート気分があと2日になったわ。 お兄さん、この宿とあのお部屋は最高よ」


―― 「ありがとうございます」


ジーナは、宿の店主におべっかを使っているようにも聞こえるが、半分は本心だろう。 テンションの上がり方がそう言っている。



  階段の裏手の貨物用エレベーターで2階へは上がった。

アリスたちもジーナのテンションに引っぱられて、口数が多くなってきている。

エレベーターで上がった先は、バーの裏側の通路に出て、パーバリの後ろをジーナたちが、ぞろぞろとついて歩いて行く。 『ありがとね、パーバリさん。 バカンスが伸びたわ』とアリス。


パーバリ 「あ、いいえ。 助かったのはこっちです。 明日に特別なお客様がいらっしゃるとさっき兄から聞かされたんですよ。 これは、その方たちをもてなすのに使わせていただきます」


アリス 「ああ、なるほどねー」


レストランの調理室の入り口が見えて、ジーナがトンとダンテの肩を叩いた。


ジーナ 「ダンテ? 私たちは、ここでいいわよね」


ダンテ 「ああ。 お前たちが付いてくる意味はもうない」


ジーナ 「じゃぁ、祝杯のお酒をバーで買っていくわ。 明日はどうせお昼に出かけるだけだから、飲んでも平気よね?」


ダンテは、『財務担当はお前だからな。 任せる』と振り返って笑った。


パーバリ 「それなら、厨房の中の扉から行けます。 今開けますから、ちょっと待ってください」


ダンテが調理室の入り口にクーラーボックスを止めると、アリスたちが『お肉さんたち、さようなら』と名残惜しそうに手を振った。

整理整頓が行き届いた調理室を抜けて、ジーナたちがついて行く。


ジーナ 「子供が入っても大丈夫かしら?」


パーバリ 「ええ、大丈夫ですよ。 ここでは、子供もお酒が飲めますから」


ジーナ 「ああ、そうだったわね」


扉を開けると、パーバリが挨拶をした。


パーバリ 「姉さん、ここからお客さんをお通しするから、お願い」


バーカウンターの小さな女性が、『どうぞぉ』と明るく返してきて、パーバリと一緒にダンテを残して、ジーナたちは、会釈して中へ入った。

ジーナの後ろをおずおずとアリスたちがカウンターの内側に出て、そこから外側に回る。

30個ほどあるテーブルが半分ほど埋まっていて、ドワーフたちが騒ぎながらお酒を飲んでいる。

列の一番後ろで優が、『マズいとこに来ちゃったね』とハンナに言った。 『うん』と小さく答えたハンナの前では、アリスとアーネが顔をこわばらせていた。 さっきまでのテンションがどっかに行ってしまい、代わりにドワーフたちの方を向かないように向けた背中からは、嫌悪感がにじみ出ていた。

  ジーナがカウンターの女性にお酒の銘柄を聞いていると、案の定、後ろから声がかけられた。


―― 「あれ? 昼間の奴らじゃねぇか。 テメェら、まだ、こんなとこをウロウロしていやがったか」


優が振り返って、『ああっ!』と声を漏らす。 ワヴェフだ。 


ワヴェフ 「…よう、坊主。 女はべらせていい身分だな、クソが」


―― 「ワヴェフ、やめとけよ。 また――」


ワヴェフ 「うるせぇ! こいつらのせいで、こっちは大損をこいたんだ。 弁償させてやる。 来い、小僧!」


カウンターの女性が、立ち上がって大きな声を出す。


―― 「叔父さま、いい加減にしないとこの前みたいに叩き出すわよ。 ツケはいつ払ってくれるの? 大損はこっちのセリフよ?」


女性の言葉で、『ちげぇねぇ』と言って他のドワーフたちが爆笑する。 笑い声を遮るように、ワヴェフが声を張り上げる。


ワヴェフ 「今、払ってやるから待ってろ! 坊主、来い! アームレスリングだ」


ワヴェフの言葉で、同じテーブルにいるドワーフが引き気味に言う。


―― 「オイオイ、人族でしかも子供だぞ、アームに乗るわけないだろ…」


カウンターの女性が扉の近くにいるガードに合図を送ろうとした時、ジーナがポロっと言った。


ジーナ 「優? 相手したげれば?」


その場にいる全員が一度、シーンと静まり返る。 カウンターの女性が『あなたたちは人族でしょ? 相手はドワーフよ?』と止めに入るが、ワヴェフが『よっしゃー!』と叫んで、席から歩いてくる。


ワヴェフ 「掛け金は銀貨22枚だ! あり金全部だ!!」


―― 「叔父さま? そのお金でツケが払えますけど?」


ワヴェフ 「うるせ! モア! 今払ってやるから、黙ってろ」


それをジーナが煽る。


ジーナ 「あら? 22枚しかないの? 残念ね。 他にもっとかけられる人は?」


優が『ジーナさん…』と止めに入ろうとするが、アーナ、アリス、ハンナの目が優に『やってしまえ!』と言っていて、それを許さない。


ドワーフたちが、『オオオオォ!!』と盛り上がる。 『オレは坊主に2枚』 『ワヴェフに15枚』 『ワヴェフに10枚』 『坊主に5枚』 『…』

ワヴェフに210枚の銀貨、優に66枚の銀貨が賭けられ、カウンターの台の両端にそれぞれ積み上げられた。 そして、ドワーフたちもそれぞれの側にジョッキを持って分かれていく。 中央にどちらにもかけていないドワーフたちが座った。


ジーナ 「いいわ。 じゃぁ、これでイーブンね。 金貨1枚と銀貨54枚!」


ジーナが残りを足して、ドワーフたちがまた盛り上がって、歓声が上がる。

カウンター前に丈夫そうなテーブルが運ばれ、優とワヴェフが対峙する。


優 「お、お願いします」


ワヴェフ 「ふん! オトナ気ないとは言わさんぞ。 受けたのはそっちだからな!」


ワヴェフはごつい腕を回しながら優をにらみつける。

優はもう一度、ハンナたちからも『やれっ!』とにらまれて、フーっと息を吐きながら覚えたての気武を練る。


優とワヴェフが右手を組んで、酒場全員での『3・2・1・Go!』の掛け声で始まった。

優の腕にも力が入る。 だが、お酒の入った赤い顔をさらに赤くしているワヴェフの方がはるかに必死だ。


ワヴェフ 「な、なんでだ!? キ、キサマ、卑怯にも魔法を使ったな!?」


優 「ジーナさん、終わらせますか?」


ワヴェフ 「ま、待て待て。 もう1回、仕切り直しをしよう。 ワシも魔法をかけてもらってから――」


ジーナ 「ええ、もういいわ」


優が『にっ』とワヴェフを見て、『バン』と軽くワヴェフの右手の甲がテーブルについた。

『ああああああああぁぁ!』という声と、『やったああああ!』という歓声が同時に上がる。

そして、ワヴェフには、ワヴェフ側に座っているドワーフたちから、罵声が浴びせられていく。


アーネが『 よし!! 』と人一倍大きなガッツポーズをして喜ぶ。

そしてアーネは『やっぱり、強い男はいいわね』とうっとりとして漏らして、ハンナに『ちょっとぉ?』とにらまれている。 だが、それでもアーネはあっけらかんとして、『ねぇ? やっぱり、私とシェアしようよ?』とハンナに提案している。 ハンナが『あり得ない』と怒るが、『何で? 優は喜ぶと思うけど?』とさらっと言い切る。

  最近、ハンナが穏やかでいられない理由が、アーネたちだ。 スクとリフォの方は、ハンナに遠慮しながらだが、それでも、ことあるごとに優と距離を縮めようとしている。


  本人の居る前で揉め始めるアーネとハンナを置いておいて、ジーナがカウンターの席に座ったまま、自分の右手を見つめるワヴェフに言う。


ジーナ 「これは、私たちに無礼なことを言って蔑んだバツよ。 今ここで謝罪をするなら、掛け金の22枚は返してあげるけど?」


ワヴェフはジーナの言葉に一瞬考えたが、すぐに『フン!』とテーブルを負けた手で叩いて離れ、肩を落としながら元の席へ戻っていってしまった。

優も立って、背筋を伸ばすと『ワ―――ッ』と歓声が上がった。 今度は負けたドワーフたちからも同じ量の声が上がった。


ジーナが立ち上がって、賭けの勝者に勝ち分を配当していく。

テーブルが片付けられていき、配当が終わると、ジーナはドワーフたちの方を振り返った。


ジーナ 「楽しかったわ。 皆さん、ありがとう」


ジーナがフフフッと笑って、また歓声が上がる。


ジーナ 「でも、少し儲けすぎちゃったから、銀貨100枚分は私のオゴリよ。 全部飲んで行ってね!」


『オオオオオォ!!』と今日一番の歓声が上がる。 半分ほど埋まっていたテーブルは、いつの間にか集まってきた野次馬が入っていっぱいになっていた。

ジーナは、カウンターのモアと呼ばれていた女性に銀貨100枚を渡す。


モア 「ハハハ、ありがとうございます。 おかげさまで、明日はお酒の注文をしないといけなくなりました」


銀貨を受け取ったモアは、からっと笑ってジーナにお礼を言った。


ジーナも『騒がせて、ごめんね』と同じように笑った。

そこへ、ダンテがクーラーボックスを引いて入ってきた。


ダンテ 「いやー、すまんすまん。 パーバリがあまりに丁寧にコレを洗ってくれたんで、時間がかかった。 騒いでいたみたいだが、大丈夫だったか?」


ジーナ 「ええ。 見ての通りよ。 パーバリさんのおかげで儲かったわ」


ダンテが、『ドワーフ相手に賭けてたのか?』と呆れ気味に言ったが、ジーナの代わりにアリスが誇らしげに答えた。


アリス 「今日の昼に入国管理局で失礼なことを言ってきたドワーフがいたでしょ? あれを、ジーナさんがここでやっつけてくれたの」


ジーナ 「ハハハ、息子さんを使ってだけどね」


優とダンテが苦笑するのを見て、モアが口を挟む。


モア 「わたしも勉強させていただきました。 ジーナさまの人心掌握術には感銘を受けました」


ダンテ 「何をしたんだ? いったい?」


ジーナ 「儲けたから、おごっただけよ」


ダンテ 「フハハハ、なるほどな。 それで、このどんちゃん騒ぎか」


ダンテが、今度は感心したように周りを見渡す。

ハンナもアーネもアリスも上機嫌だ。 ダンテから見て左の一番奥の席で、くだを撒きながらジョッキをあおる見覚えのある老人がいた。

ダンテがまた『なるほど』と言って笑った。


  モアが『お飲み物は後で、お部屋に届けますね』と言うと、ダンテが『せっかくだから、パーバリがキレイにしてくれたコレで持っていくよ』と断った。 ジーナが『そうね。 ちょうどこのゴツイのもいるし、こちらも忙しそうだから、運ぶわ』とダンテを見て余計なことを言った。

ジーナが『おいくらかしら?』とモアに聞くと、モアが笑って『わたしのオゴリです』と言った。 

それにはまたジーナもからっと笑って、『じゃぁ、ワヴェフという叔父さまのツケをその分で減額してあげて? ちょっと、いじめすぎちゃったかもだから』と言って、モアに苦笑して見せた。

モアは『ふふふ』と笑って、『それでは、銀貨7枚を頂きます』と言って頭を下げた。

ダンテが必要以上に氷を入れてもらったクーラーボックスを引いて、ジーナたちがモアに手を振って別れた。



  ダンテたちが部屋に戻ると、ミエスとセシリアとサテラ、スクとリフォがプールサイドのデッキチェアでくつろいでいた。

ジーナが『遅くなってごめんなさい』と明るく言う。

ナトとウリは遊び疲れて寝てしまったらしい。 ジーナとハンナがミエスにお礼を言って、アーネがさっきの武勇伝をセシリアたちに意気揚々と話す。 

ジーナが『飲み物買ってきたよ』とクーラーボックスを開けて、サテラとリフォが『のど乾いてました!』と駆け寄った。

ひとしきり納得がいくまでアーネがしゃべって、セシリアがころころと笑って、ダンテたちも一息つく。


ジーナ 「わぁ、もう12時だわ。 そうだ! プールに入りましょう」


ハンナ 「う、うん。 でも、水着なんかないよ?」


ジーナ 「裸でいいじゃない」


アリス 「えっ? ダンテさんたちがいるのに?」


ジーナ 「ダンテ、優、ミエスさんも? 1時間くらい女性陣がプールにすっぽんぽんで入るから、目をつぶっててね」


ダンテ 「あっ、いや。 そういうことなら、俺らは部屋に寝に行くから」


アリス 「ダメです。 こっそりのぞくかも知れないじゃないですか。 部屋からプールは丸見えです」


優 「どういうことですか?」


ハンナ 「お、男の人たちが、ムラムラしてくるといけないから、見えないようにするっていってるの! ね? 師匠」


優 「ハンナ… それ、のぞくのが前提じゃん…」


アリス 「そう。 だから、結界と隠密魔法であなたたちを閉じ込めます。 1時間くらいだから、おとなしくしていてください」


優 「アリスさんも『そう』って… でも、それなら、プールの方を囲んで見えなくすればいいじゃ――」


ジーナ 「ダメよ! それじゃ、気分が出ないでしょ?」


優 「 … 」   ダンテ 「 … 」


スク 「優さん、ごめんなさい。 私たちもまだ育ち切っていないので、見られるのは… その… 恥ずかしいです…」


セシリア 「あらぁ? まぁ! 可愛らしいわねぇ」


優 「 … 」


セシリアが茶化して、スクとリフォがうんうんとお互いの顔を見合わせてうなずく。 その横でハンナが、『育ったら、見せるつもりなの?』とでも言うようにイライラしている。 アーネが『私は別に…』と言いかけたところで、ハンナが『ああ、もう! 師匠、やってください』と切った。

アリスが両手を広げて透明の結界が張られ、その上から黒い霧のような幕が巻かれた。


ミエス 「多勢に無勢じゃ仕方ないの。 飲みましょうや、ダンテ殿。 優殿も何か…」


ダンテ 「…ありがとうございます。 じゃぁ、いただきましょう」


優 「…はい、ありがとうございます」



アーネ 「うわぁ、流石ね。 本妻の座はやっぱりハンナね」


ジーナ 「セシリアさんもすごいわね。 なんて言うか、グラマーで」


セシリア 「いえいえ、ジーナさんこそ。 それを豊満って言うんじゃありません?」


女性同士のお互いの品評会が聞こえてきて、優の怒声が結界の外に向けて飛び出す。


優 「アリスさん! 音!!」



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