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#01E 入国審査

入国審査のようすです。 MIESTA側の事情も少し絡ませてみました。

事情



  連れてこられたホールには、14人分の椅子が並べられていた。 御者の精霊の分も用意していたのだろう。

入国審査官は全員で5名いて、真ん中に座っている紳士はケイブと名乗った。


ケイブ 「お連れ様が1名足りないようですが?」


ダンテ 「はい。 御者の老人は、契約で召喚された精霊でして、1つに馬車を離れることができないのと、もう1つに契約がLEDASに着くまでとなっていますので、私たちが今夜泊まる宿についた時点て消えてしまいます。 ですから、ここにはいません」


ケイブ 「なるほど。 では、1名分の書類を破棄させていただきますね」


紳士はきれいな笑顔を作って、隣にいる女性に書類の破棄を命じた。


  ダンテたちの左手と首筋にはそれぞれ体温と脈拍を計るセンサーがつけられている。

だが、丁寧なことにダンテたちにも見える位置にモニターが設置されてある。 天井には数台の埃をかぶった監視カメラ、それにたった3人の警備員が離れた位置にのんびりと座っているだけ。 セキュリティが甘い。

  ダンテは、この部屋に入ってすぐにサインを出した。

首を左右に振ってこりをほぐすようにしたのが合図だった。 その意味は、『全部本当のことを言う』だった。 ミエスも理解したと返事をする代わりに、同じように首を触って見せていた。

  ダンテたちは事前に話し合いを設けていた。

それというのも、隠し通せるならSTEIGMAから逃げ延びた難民だということを隠したかったからだ。 SAURESの手がどの程度LEDASにまで回っているかわからない。 最悪、拘束されてSAURESに強制的に送られる可能性もあった。

しかし、MIESTAに着いて、ここの入国管理局の対応を見て、SAURESの息がかかっていないことだけはわかった。 SAURESの派遣員がいたなら、こんなずさんな管理体制なはずがないからだ。


  審査官たちはジーナが提出した全員分の書類に目を通していった。

はじめにダンテが呼ばれて、生年月日や名前など本人確認の質疑がされた。 ダンテ・BAGGARD、優・BAGGARD、アリス・SLAPTAS、ジーナ・GREITI、ナタナエル・GREITI。 それぞれが、質問に答えていった。

ハンナ・KILNIES。 ジーナはハンナの苗字が違うのは、養子縁組の申請中にSTEIGMAを出てきたからだと説明し、自分が身元保証人だと証明書にサインをした。 LEDASでは、成人の年齢は20歳なので、16歳のハンナには保証人が必要なのだ。

そして、ハンナに抱えられたウリだが、ハンナの強い要望を審査員側が飲んでくれて、ウリはハンナの子供として登録された。 ウリ・KILNIES。 ウリの新しい名前だ。 ハンナと同じく、ウリの保証人にはジーナがサインした。

続いて、サテラ・MEDIS、ミエス・RAMYB、アネッテ・RAMYB、セシリア・PRINC、リフォ・PRINC、スク・PRINC。 姓の無かったリフォたちも、セシリアの姓に入った。

  書類が出来上がり、審査員の1人の女性が席を立って、1人ひとりの指の指紋と網膜の形を成体認証装置でスキャンしていく。 データを取り終えると、女性は頭を下げて書類をもってホールを出ていった。

その間に、ケイブが話を進める。


ケイブ 「えっと… ジーナ・GREITIさんとサテラ・MEDISさんは、過去に何度もLEDASに渡航されたことがありますね。 それで、ジーナ・GREITIさんの実の息子さんのナタナエル・GREITIさんも、入国と国民権所得に問題はないでしょう。 アリス・SLAPTASさん、ダンテ・BAGGARDさん、優・BAGGARDさんのお3方も身分証など書類がきちんとありますので、こちらも問題はないはずです…」


ケイブ 「ただ、ハンナ・KILNIESさんとウリ・KILNIESさんの方は、時間がかかります。 お2人の場合は書類がほとんどないもので… 正直言って、国民権の方の許可が出るかどうかわかりません。 ですので、先に申し上げた6名様の備考に、ハンナ・KILNIESとウリ・KILNIESと一緒ならLEDASの国民になる意思があると加えておきますね?」


ジーナ 「あ、なるほど、そうですね。 ありがとうございます。 お手数をおかけしますが、この子たちをおいてまでLEDASに住むつもりはありません」


ジーナが丁寧にお礼を言って、その意思を付け加えた。


ケイブ 「はい、わかりました。 しかし、あくまで国籍所得の審査は個人単位ですので、ジーナさんたちには個別に国民権とIDが発行されることになります。 そして、これには費用が発生します。 これは、LEDASに住むかどうかは関係ありません。 許可が下りた時点で、税込みで銀貨88枚の支払い義務が課せられます。 支払いはどのようになさいますか? 多少の利息が発生してしまいますが、必要なら、24ヵ月の分割にすることも可能です」


ジーナ 「いえ。 問題ありません。 一括で支払います」


ケイブ 「おお、お金持ちですね」


ジーナ 「ええ、身1つで難民になったわけですから、それなりの準備があります」


ケイブ 「なるほど、では、そちらの方は後程お聞かせください。 一定の基準をこえる財産を国内に持ち込む際には、資産税が発生します。  10%~15%ほどですので、正直に申告することをお勧めします」


ジーナ 「わかりました。 問題ありません。 …1つ質問です」


ケイブ 「…なんなりと」


ジーナ 「もしも、娘たちの国民権が認められない場合、ここの外界人地区に住まうことは可能ですか?」


ケイブ 「あ、はい。 可能です。  が、しかし、その場合はPRAMONES国との協定に基づき、PRAMONES側に身分証やら保証人などの証明書を送った上で、PRAMONES国の許諾を得る必要があります。 これにもしばしの時間がかかりますから、その間はハンナさんとウリさんは、仮の保護観察の身の上になりまして、不法移民が収容される隔離スペースに移っていただくことになります」


ジーナ 「わかりました。 では、国民権が認められなかった時点で、ここを出ていかざるを得ませんね…」


ケイブ 「…そうならないように、努力いたします。 ご存じだとは思いますが、LEDASは若い移民を必要としています。 それは、皆さんが今はなくなってしまったSTEIGMAからいらしたとしても同じです。  …言いにくいのですが、実は、SAURESとの協定でSTEIGMAからの難民は引き渡す条約が結ばれているのです。 しかし、そこは私たちがフィルタリング致しますので、お任せください」


あまりに々としたケイブの口調に、ダンテたちは驚きを隠せなかった。


ダンテ 「やはり、そうなんですね。 手が回っていましたか…」


ケイブ 「はい。 ですが、この件は上層部ともすでに話しが済んでいます。 まさか、私が管轄するここに、本当にアウトフィールドからの皆さんのような脱出者が来られるとは想像していませんでしたが…」


ジーナ 「…フィルタリングとは?」


ケイブ 「はい。 それは、順を追って説明させていただこうと考えていましたが、皆さんは状況のご理解をされているようなのでお話します。 皆さんの入国審査が問題なく通るように、本当のことを伏せて書類を作成させていただいております。 事後承諾というかたちで恐縮ですが、ご了解ください。 皆さんの以前の住居をアウトフィールドと記入させていただきました。 STEIGMAを出たのが5年前だということになっています」


ジーナ 「それは、どういうことですか?」


ケイブ 「皆さんの身分証明書は、STEIGMAとなっています。 この事実は代えられません。 しかし、幸いなことに書類を発行した日付が一番新しいもので5年前になっています。 ですから、それを利用して皆さんは5年前にSTEIGMAを捨ててアウトフィールドに出ていたことにしました。 これで、皆さんは定義上は“難民”ではなくなります。 条約の範囲外になりました」


ジーナ 「なるほど。 はは、本当にお手数をおかけして申し訳ないです」


ジーナがお礼を言って、それに答えるようにケイブがきれいは笑顔をみせる。


ケイブ 「さて。 では、ミエス・RAMYBさんたちご家族の件に移りますが、よろしいですか?」


ミエス 「うむ。 よろしく頼む」


ケイブ 「はい。 失礼ながら、ダンテさんたちとご一緒だとお聞きしていたにも関わらず、ミエスさんたちは純血の魔族で、しかも、身分証も確かなものがあるので、別扱いさせていただきました」


ミエス 「いや、問題ない」


ケイブ 「ご理解をいただき、ありがとうございます。 早速ですが、ミエスさんたちのLEDASへの入国の許可の件になります。 こちらは、お断りする理由が全くございません。 当方の所有するミセスさんに関する情報では、カンジョナ渓谷とその周辺も含めた大領主様となっております。 間違いありませんか?」


ミエス 「おつ、あっ、いや。 それは、20日ほど前までのことだ。 PRADZIOSに確認してもらえればわかるが、ワシは主権を放棄した身だ」


ケイブ 「なるほど、そうでしたか。 しかし、それでも問題はありません。 ミエスさんたちには確かな身元の確認が取れています。 私共からの質問は、国民権に関してです。 ダンテさんたちと同様に、LEDASの国民権を申請しますか?」


ミエス 「うーむ。 どうしたものか? ダンテ殿はどう思われる?」


ダンテ 「この際ですから、我々と一緒に申請されてはいかがですか?」


ミエス 「そうだな。 ケイブとやら。 ワシらはLEDASに入国した後、PRAMONESに移り住む予定で来ているのだが、それでも、LEDAS国の国民権を所得することは可能だろうか? もちろん、ワシらはゆくゆくはLEDASに住んでみたいと思っている」


ケイブ 「問題ありません。 ですが、人界側で身元を保証する人族が必要になります。 どなたか、連絡を取って保証をしていただける方はいらっしゃいますか?」


ジーナ 「私たちじゃだめでしょうか?」


ケイブ 「はい。 国民権を所得された後なら可能です。 ですが、この保証人の制度は特殊で、魔族の保証人はその魔族が引き起こしたトラブルの全てに責任を負う義務が謳われています。 そして、それで発行された国民権の有効期限は、保証人が健在な間となります。 ご存じの通り、人族の寿命は魔族の皆様方の半分ほどですので、そのあたりも予めご了承ください」


ミエス 「なんと、まぁ。 全責任を保証人が追う制度とは… ダンテ殿、これはあまりにも大ごとなので、今回は見合わせることにしよう」


ダンテ 「いいえ。 問題ありません。 せっかくなので、申請しておきましょう」


ミエス 「しかし、それでは、あまりに――」


ダンテ 「ケイブさん。 当の本人が責任を負えない場合に、保証人が責任を代行するという義務ですよね?」


ケイブ 「はい、その通りです」


ダンテ 「問題ありませよ。 進めましょう」


ダンテたちが押し切り、ミエスたち家族の申請を推し進めた。 ミエスが頭を下げて、ダンテたちが『お互いさま』だといういつものやり取りが行われた。


  ダンテたちにビスケットとお茶が配られ、ケイブと雑談が交わされた。 しばらくして、先に席を立っていた女性が戻ってきた。

女性から書類をケイブが名前を読み上げていく。 ジーナ、ナト、サテラは、今日の日付で入国許可が下りた。 そして、明日には国民権が発行されるだろうとケイブは言った。


ケイブ 「この他の皆さんは、明日の正午に受付までいらしてください。 正午なら込み合っていないはずです。  書類審査は遅れることがありますから、何度か通っていただくことになると思います。 何にしても、この後のことは問題がなければ全て受付で済みます。 しかし、問題があったら、入国管理局の室長室を訪ねてください。 私が応対しますので、遠慮なくいらしてください」


ダンテとジーナが、代表してケイブに頭を下げる。


ケイブ 「それから、皆さんは外界人地区に泊まっていただくことになります。 もとい、この区画から外に出られるのは、入国許可証を持っているジーナさんたち3名だけです。 13名分の空きがある宿の手配だけはしてありますので、受付の隣のカウンターで場所を確認してください。 宿への案内符を差し上げます。 お疲れさまでした。 以上です」


もう一度頭を下げて、ダンテたちは案内係に連れられて、受付まで戻る。


  カウンターを訪ねるまでもなく、職員の女性が廊下で案内符を持って待ってくれていたので、ドワーフたちがいる待合室には入らないですんだ。

長四角の地図が印刷された紙には、札がある現在地と目的地が点滅していた。 『これは便利ねぇ』とジーナが感心して、アリスとナトがしたからそれをのぞき込んでいた。 職員の女性は、遅くなるといけないので真っすぐ向かうようにと言ってきた。 そして、夜間の外出は控えるようにとも。 やはり、治安があまり良くないのだろう。



  ダンテたちがいなくなったホールでは、片付けをしながらケイブと若い男性職員が話している。


―― 「室長。 良かったですね、おとなしい人たちで。 海保から魔力探知機に異常があったと言われたときは、ヒヤッとしましたよ」


ケイブ 「ああ、まったくだ。 それで? 詳しい報告書がまだだったが、いくらと数値に出ていたのだ?」


―― 「えっと、待ってください… 11万と1700です」


ケイブ 「ブーっ!! 本当か!? 間違いないのか?」


―― 「ええ、だから、海保も数値に異常があると言ってきたのでしょうけど…」


ケイブ 「なるほどな… まぁ、領主クラスの魔族なら、そのくらいあるのかもしれんな」


―― 「いえ、これによりますと、違いますよ。 特大の5桁台の反応が4つ、4桁台の反応が7つ、それに、3桁が3つですから、彼らの人数と一致します。 ですので、海保には魔力探知機は正常だと伝えておきました」


ケイブ 「と、時に、ここの入り口の探知機はいくらを指したのだ?」


―― 「ああ、それが、ちょうど今日、管理局から連絡が入って、昨日くらいから壊れていたみたいです。 で、今は修理中です。 まぁ、明日には治ってくるでしょうけど。 ははは、付いていたら警報機が鳴って大慌てでしたね」


ケイブ 「…サト、警報機の設定を上げておいてくれ。 彼らがここにいる間は、普段の4倍の20万くらいにしておいてくれ。 機動隊が出てきて衝突でもしたら、我々の方が甚大な被害を受けることになるだろう。 それに、せっかくの良質な移住者を得る機会を逃したくない。 彼らは出来ることなら、本国と言わずにここに引き留めたいくらいだ」


サト 「はい、わかりました。 業者に通達しておきます」


ケイブ 「それと、もう一度、さっきの書類を出してくれ。 上のアホどもが“間違い”を起こさないように、私が直筆で太鼓判を押しておく。  ――あと、もう一つ。 海保にも通達をしておいてくれ。 『何も問題ないから、騒ぐな』と」


サト 「わかりました」



  馬車の待つ駐車場に戻ると、日はもう沈みかけていた。

ダンテたちは急いで、馬車に乗り込んで目的地へ向けて走らせる。

夕暮れの外界人地区を流れる川岸では、サピトたちが鳴き声を張り上げて自己主張をしている。

町の生活排水の処理がうまくいっていないのか、少しだけドブの臭いがしていた。


  老人が先導する馬車は、最後の役目を終えるべく、街灯のつき始めた道を進んで行った。



今日はもう1話アップします。

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