#01C ドック
職人たち
1時間ほどして、船員と船長のネザのもとには、サーモンのサイコロステーキとタタキ、海菜とオリーブオイルを絡ませたカルパッチョと軽くスパイスの利いた白米が使い捨ての紙皿にのせられて届けられた。
ネザ 「…兄ちゃん、何だかすまねぇな。 ワビの品のつもりが、かえって借りが増えていっているみたいだ」
ネザは丁寧に頭を下げながら優に言った。 優は『いいえ、お世話になっているのはオレたちの方ですよ』とさらに深く頭を下げてイカダに降りた。
MIESTAの港が見えてきた。
MIESTAの港はブロックごとに分かれている。 一番北側の湾になっているところは物流の港になっているらしく、大型の船が停泊していて、荷物を動かすクレーンがせわしなく動いている。 その隣のエリアが、船の停泊所になっているのだろう。 大小さまざまな船が止まっている。 そして、中央部分が漁港なのだろう。 こちらは、人工的に作られた湾に漁船が出入りしている。
しかし、ネザは中央の漁港には入らずに、もう少し南側のたくさん入り口がついている工場地帯のような方へ船首を向けた。 そして、船のスピードを落として、イカダに降りてくる。
ネザ 「なぁ、あんたら? このイカダはバラすんだろ?」
ダンテ 「ああ、そのつもりだ。 何処か邪魔にならない所につけてもらえれば助かるんだが、いいか?」
ネザ 「おう、そうか。 それなら、オレが世話になってるドックがあるから、そこへ案内してやる。 ドックには船をあげるための設備があるから、あそこなら簡単にいくだろうよ。 タケェことは言わねぇから安心しろ」
ダンテ 「すまん。 世話になってしまって」
ネザは『イイってことよ』と満面の笑みで舟に戻っていった。
ネザの漁船は心地よいエンジン音を鳴らして、いくつかあるドックの入り口の内の1つに入っていく。
―― 「ネザァ! もう船を壊したのか」
入り口の大きな門を開けながら、腹の出た大男が声をかけてくる。
ネザ 「おやっさん、そんな景気よく壊せるかってんだよ。 客だ」
そう言ってネザはダンテたちのイカダを指した。 下からダンテたちが手を振る。
―― 「おお! エンジンの付いてない客は久しぶりだ!!」
そう言って大男は大声で笑い出した。
ネザ 「ったく。 どうせ、暇そうじゃねぇか。 見てやってくれよ」
ネザに言われて、大男は笑いながら油圧のレバーを戻して降りてくる。
漁船のワイヤーが外されて、代わりに投げてよこされたドックのウインチにイカダは繋がれる。
ドックの縁まで引き寄せられて、『おやっさん』と呼ばれていた白髪頭の大男が挨拶に来る。
―― 「お疲れさんだ、お客さんたち。 オレはバルっていうんだ。 このドックのオーナーだ。 さっきのネザとの話は、気を悪くしないでくれよ。 ただの挨拶だからな」
バルはそう言ってまた大きな声で笑った。 ダンテと優が先にイカダからドックに渡って、バルに挨拶をした。
バル 「おっとぉ、お嬢さん方、足元には気を付けてくれな。 この辺の海は汚いから、泳ぐのはお勧めしないぜ」
バルのテンションは高い。 優が手伝って、ハンナたちとミエスたちが下りて、ジルガスと御者の精霊が最後に降りた。
アリスが『何かまだ揺れてる気がする』と座り込んだ。 バルが従業員たちを呼んで、アリスたちの椅子を持ってこさせた。
優 「すみません、バルさん」
バル 「いや。 さっそくだが、あのイカダをばらして馬車を外すんだろ?」
ダンテ 「ああ、そのつもりなんだが、引きあげてくれさえすれば、俺らでバラしていけるんだが」
バル 「…問題はない。 だが、その後のイカダの方はどうするんだ?」
ダンテ 「あぁ、そうだな。 適当に処分を頼めないか?」
バル 「よし、きた! じゃぁな、こうしよう。 オレらがイカダから馬車を外して陸に上げてやる。 その、代金としてあのイカダをもらおう」
ダンテ 「いいのか? そんなもので?」
バル 「見たところ、なかなかの浮力だ。 小さな船のサルベージに行くときに使えそうなんでな。 あのまま使わせてもらうよ」
ダンテ 「すまない。 それでお願いする」
バル 「いいって、どうせネザに言われなくても暇なんだ、任せとけ。 10分くれ。 すぐに外してここにあげる。 座って待っててくれ」
優が荷物を下ろそうとイカダに向かうが、それもバルは任せておけと優を止めた。
ダンテと優は頭を下げ、バルに勧められてジーナたちのところに行った。
ネザの船がドックを離れていき、ジーナたちが大きく手を振った。 ダンテは深く頭を下げて、優も隣へ並ぶ。
漁船は短いクラクションを2回鳴らして、エンジンをふかして出ていった。
バルが『野郎ども、仕事だ!』と呼びつけると、奥から2人の若者と老人が出てきた。 バルが指示を出し、3人が動き出す。
若者たちはイカダに乗ると、さっとテントをばらした。 そして、その他の荷物と一緒にリフトに乗せると、優たちの居るところまで運んできた。 若者は軽く頭を下げて戻っていく。
老人が大型のクレーンを動かした。 アームがイカダの方へ伸ばされていき、アームの先に付いたワイヤーが若者たちの手で馬車の荷台の4つ角に取り付けられた。
さっきまでダンテたちがバルと立ち話をしていた場所は、船を上架させるときのためのプラットフォームの一部で、バルの操作でずぶずぶっと海に沈んでいった。 そこへクレーンのアームが引かれてイカダが寄せられていく。 再びプラットフォームが浮上してくると、イカダは全体の7割ほどが海から出てきた。 ワイヤーでイカダの土台の竹の丸太を固定すると、若者たちはイカダの下に潜り込んで、馬車を外す作業についた。
荷台の外枠につけていた青竹に固定するための止木が外され、前後に取り付けられていた横木を何本か外される。 若者の合図で馬車は吊り上げられ、そして、ダンテたちの前に降ろされた。 10分もかからなかった。
ダンテがバルたちのチームの手際の良さを褒めた。 バルは首の後ろを触りながら、ダンテの賛辞を素直に受け取ると、『ちょっと待ってろ』と荷支度を済ませたダンテたちを引き留めて待たせた。
バルがオフィスから持ってきたのは、船の買取書だった。 レシートを発行することができない難民のダンテは、バルの作ったレシートを貸し出す紙にサインした。 その内容は銀貨40枚でイカダの解体作業を委託し、そして、銀貨40枚で解体したイカダをダンテが再びバルに売ったことになっている。 一見何の意味もないやり取りのようにも思えるが、この証書はダンテたちが海側からやって来たという証明になる。 入国手続きの時にこれがあれば大きく手間が省けるのだ。
書類関係に明るいジーナがダンテに呼ばれて、バルに頭を下げる。 バルは何も言っていないが、バルはダンテたちのために一肌も二肌も脱いでいる。 バルは、この書類を作るために2重の税金を払ってくれようとしているのだ。 LEDASの付加価値税は10%だから、約8枚の銀貨の分の税金が発生している。
ジーナはサテラに目配せで許可をもらった。
ジーナはファリハがおいていった餞別の中から、金貨1枚を取り出して、バルに税金の支払いに当ててくれと渡した。
バルは税金のことを見透かされて面食らっていたが、金貨1枚もは受け取れないとジーナに付き返そうとした。
ダンテは、『それでは、何もお礼が出来ていないネザと折半で受け取ってくれ』と強引にバルの手に戻した。
バル 「仕方ねぇな。 まったく、アンタらみたいな客は初めてだよ。 これは、アンタらからの“借り”だと思って受け取っておくから、困ったことがあったら、オレを頼ってくれよな」
ダンテ 「ああ、その時は頼むから、また、気前よく相手をしてくれ」
『わかった』と答えたバルだったが、また『ちょっとまて』と思い立ったように、中に戻っていった。
バルは若者の1人を連れて戻ってきた。 『妹のせがれのクカだ。 町の案内役に使ってくれ』と紹介した。
ダンテが『いいのか?』と聞くと、クカが横から『ドックは仕事の無い時はヒマですから』と気持ちよく答えた。
10代後半くらいの年頃のクカは、ダンテと一緒に御者台に乗った。 バルが『遅くなったら、おばさんちに行ってろ。 迎えに行ってやる』と手を振った。 馬車の荷台の後部で、優とハンナも手を振る。
動き出した馬車の中ではミエスとセシリアがジーナたちと話している。
ミエス 「人族というのも、こ気味良いものだな。 こんな慎ましやかに善行をする者たちがいるとは」
セシリア 「そうですね。 あの子たちが片付いたら、余生を人界で過ごすのもいいかもしれませんね」
ジーナ 「ハハハ... 褒められたものじゃない者たちもたくさんいますけどね」
ミエス 「まぁ、そうであろうな。 だが、一度人界とかかわって見るのも一興だ。 前向きに検討しよう」
馬車の中で何を話しているかまでは聞こえないが、ジーナたちの明るい笑い声が御者台まで聞こえてくる。
御者台ではクカとダンテが話していた。 クカは物怖じしない性格なのだろう。 なんでも、ハッキリと受け答えが出来ている。
でも、どちらかと言えば、ダンテの方が質問される側に回ってしまっていた。
クカ 「…すごいですねぇ、生身でアウトフィールドを渡ってくるなんて。 冒険者でもないのに」
ダンテ 「ハハハ、別に好きでアウトフィールドに出たわけじゃないさ。 追われて仕方なくだ。 大したものじゃない」
クカ 「でも、羨ましいです。 おれも一度でいいから、ダンテさんたちみたいにたくさんの女性に囲まれて旅をしてみたい」
ダンテが吹き出して大笑いした。
ダンテ 「ハハハハハ、傍から見ればそう見えるのか。 面白いもんだな」
クカ 「ええ? 違うんですか?」
ダンテ 「ああ、違うぞ、クカ。 お前が思ってるより女って生き物は扱いが大変だ。 だから、女は1人にしとけよ?」
クカの驚いた反応を見て、ダンテがまた大笑いする。
ジーナが幌の下側の留め具を外して、荷台に腰掛ける。 『コラぁ! 女の悪口を言ってるのが聞こえてるわよ、ダンテ!!』
ダンテ 「ほらな。 ヤバい女の代表格が出てきた」
馬車の中でまた、笑い声がする。
舗装された道の両脇は海辺の丈の低い雑草が生え放題に生えていて、人家も何もない。
時々、STEIGMAのよりも大型のトリラティスとすれ違うだけだ。 クカは、町まで15kmだと言った。 約1時間の距離だ。
人けの無い道に笑い声をこぼしながら、馬車は進んで行く。
申し訳ありません。
最低でも3話はアップしたいと思っていたのですが、今回は2話で打ち止めです。
出張が入ってしまい、デスクと勝手が違うので間に合いませんでした。 ごめんなさい。
1~3話の誤字・脱字などの添削もまだです。 後ほど、時間のある時に修正してまいります。
次回は17日にアップ予定です。 また、よろしくお願いします。
気長にお付き合いください。 ありがとうございます。




