食堂 1
パラミリタリー訓練学校の風景が続きます。
食堂 1
昼食を取った訓練生たちは、食堂の外に出てきていた。
ジーナ 「みんなー。 もう少ししたら、第5棟のメディカルセンター前に移動してねー。 13:30から身体測定よー」
ジーナが大きな声で皆に聞こえるように言って、イアナたちが道路の向かい側のグリーンエリアにある木陰から『了解でーす』と手を振った。
ノルドたちを連れて食堂に入っていったジーナは、片づけをしていた食堂の職員の方から先に『お疲れ様です』と声をかけられてしまった。
『すみません、遅くなりまして』とジーナが頭を下げる。
『問題ありません』と目じりを下げて応対したマスク姿の職員は、『こちらへどうぞ』とカウンターの近くの席にジーナたちを案内してくれた。
席に着くと、すぐにウエイトレスが来て、全員に冷水が配られた。
のどが渇いていたのだろう。 ノルドたちは一息に水を飲み干してしまった。
食堂の内側はモダンなスタイルの外観とは打って変わって、木材とコンクリートを混ぜ合わせたどこか素朴で古めかしい感じの内装になっていた。
食堂のホールの形はシンプルな縦長で、大小の形の違う窓の多い設計になっている。 そのホールの中ほどに、Tの字になるようにして直角に調理場がつながっており、 調理場とホールの間には隔てるように大きな木製のカウンターが置かれていた。 調理場の通路の扉は開け放たれていて、ドアの代わりにエアカーテンがフル稼働していた。
ホールには、2インチくらい厚みにそろえられた大きさの違う木製のテーブルが規則正しく並べられている。 ジーナたちが案内されたテーブルにだけグレーのテーブルクロスがかけられていて、その他のテーブルのものは取り払われたあとのようだ。
ジーナは『メニューを見ますか?』と聞いてきた職員に対して、ノルドたちに『何でもいいわよね?』と聞いて、『お任せお願いします』と頼んだ。
次いで『飲み物はグリーンティーでよろしいですか?』と聞かれ、ジーナは即答で『はい』と答えた。
『少々お待ちください』と言い残して、エプロン姿の職員はカウンターの向こうへ行った。
デビット 「なんで緑茶なんだよ?」
デビットが不満そうに聞いて、ジーナがふっと笑った。
ファニアが『もしかして、熱いお茶が出てくると思ってるの?』と聞き返した。
『違うのか?』とデビットが言って、『バカね、アイスティーよ』とファニアが言って、またジーナが笑った。
ファニア 「こんな日に熱いお茶が出てくるわけないじゃん」
デビット 「んー… でも、あんまり好きじゃないんだよな」
ジーナ 「あら、それはごめんなさい。 じゃぁ、デビットは他のを注文する?」
デビットが『そうする』と少し不機嫌そうに答えた。
それを聞いたフェニアはあからさまにデビットに対する態度を変えた。
フェニア 「ジーナさんが気を使ってるのが、わからないの!」
デビット 「はぁ? 別にいいだろ、ちょっとぐらい。のみもん頼むくらい」
フェニアがそれに『これだから、ボンボンは』と突き放すように言って、デビットはフンと鼻を鳴らす。
ジーナが手を『パンパン』とたたいて、『はいはい、ギスギスしないで』と割って入る。
ジーナ 「みんなお腹が空いてるのよね。 もうすぐよ」
フェニア 「ジーナさん。 コイツは甘やかさない方がいいですって」
ジーナがフェニアをなだめるように言って『ありがとう』と感謝を伝えた。
そこへノルドが口を開いた。
ノルド 「ジーナさん、気武について教えてもらえますか?」
ジーナがきょとんとして、ノルドを見る。
ジーナ 「あら? 以外ね。 現役の一等兵さんが知らないの?」
ノルド 「はい… 正直、よくわかりません。 俺はこのガタイと、射撃の腕で海兵隊に引き上げられましたから。 あと、多少勉強が得意だっただけです」
ジーナの隣に座らされたノルドは、ファニアに挟まれながら指をテーブルの上でクロスして話す。
ノルド 「さっきのアヤさんは、すごかったです… 近くで見たからかもしれませんが、なんというか異次元の力強さでした」
デビット 「そうかぁ? 異次元の美しさなら、オレらにも分かったけどな。 なぁ?」
グスト 「ああ、それなら、オレにも伝わってた」
ノルドの話の腰を折ろうとしたデビットたちをファニアが睨む。
ジーナはフッと一瞬だけデビットたちを笑って、『そうね』とノルドの話に寄った。
ジーナ 「陸軍の訓練生の時は? 教官にいたでしょ? 教えてくれる人が」
ノルド 「い、いえ、たぶん。 “比べると”ですが、俺たちが教わったのとは、何か違うというか、たぶん、あれは本物じゃありません」
ジーナ 「うーん、そう。 まぁ、確かに… ここの元陸軍の機動隊を見たことがあるけど、お粗末なものだったわね。 いいわ。 じゃぁ、他のみんなもわからないのね?」
グスト 「オレもわかりませんし、使えません」
デビット 「右に同じく」
視線が『お前の番だ』とファニアに集まって、ファニアは『え? わたし?』という顔をした。
ファニア 「わたしはわかるわよ? それに、ほら、使えるし」
ファニアはそう言って、左手の人差し指でスプーンをくっつけて吊り上げて見せた。
指からぶら下がっているスプーンに、ファニアがフッと息を吹いてクルクルと回して見せる。
『おお!』 『なにげにすっげー』 『すごい、でも意外だ』
急に興奮して見てくる男子たちに驚いて、ファニアが吊っていたスプーンはカチャンと落ちた。
ジーナ 「器用ね、ファニア。 誰かに扱い方を教わったの?」
ファニア 「あっ、いいえ。 違います。 私の場合は生まれつきです。 お母さんが言うには、赤ちゃんの時にはもうこのネバネバを使ってて、それで、大変だったらしです」
グストが『ネバネバって?』と聞いて。 ジーナが『もしかして、見えてるの!?』と驚いた。
2人同時に聞かれて少しだけ戸惑ったフェニアは、『いいえ、感覚的なものです』とジーナの方に答えた。
ジーナ 「でも、面白い能力ねぇ。 使い道はたくさんありそうね」
そうジーナは少しだけうらやましそうな意味合いを含めて言った。
今度はそれにフェニアが『そうですか!?』と驚いた。
ジーナ 「ええ。 鍛えて強くすればいっぱいあるわよ。 例えば、ほら。 壁を上るとか」
ジーナがホールの壁を指して言った。 ファニアの表情がカッと明るくなる。
フェニア 「あぁ、すっごーい。 わたし、手品とかにしか使えないって思ってました」
ジーナ 「ふふっ。これからが、楽しみね。 他には何かできるの?」
フェニア 「あっ、はい。 じゃぁ、わたしの一番の手品を。 ちょっと待っててください」
フェニアはそう言って、左手に意識を集中させる。 10秒くらい念じるように自分の手を見つめたあと、隣のノルドの前に差し出した。
きょとんとなったノルドに『引っ張ってみて、ノルド』と促す。 恐る恐る手を出したノルドに、『大丈夫だから、思いっきり』と言ってノルドに向き直る。
ノルドはあまり女性に免疫がないように見えて、言われてノルドはそっと手を持ってファニアを見た。 ファニアが『うん』とうなずいて、ノルドが引っ張った。 とても本気とは言えないくらいの弱い力でゆっくりと引っ張ったのだが、それでもファニアの手は手首のあたりから確かに伸びて、驚いてノルドが離すとゆっくりと縮んだ。
『うおおぉ、すっげ』 『これがキブ。 もう、魔法じゃん』 デビットとグストがテンションを上げて言う。
しかし、テンションが上がったのはジーナも同じだった。
ジーナ 「すごいじゃない? フェニア!! 形態変化まで使えるなんて。 高等技術よ。 ここまでできてるなら、可能性はたくさんあるわ。 アナタ、年齢は?」
ジーナが立て続けに言って、ファニアは『ホントですか!? 17ですけど?』と答えた。
ジーナ 「すばらしいわ。 アナタは間違いなく、“こっち側”よ。 私たちと残ることが確定ね」
ファニア 「本当に、ほんとうですか?」
ジーナがうなずいて、フェニアが『やったー』と席を立つ。 ノルドの体が大きいので、後ろを回ってジーナの所まで行ってハイタッチをした。
ジーナと手を組んでファニアが喜んでいて、そこへ、隣に座っているノルドが『あの』と声をかけた。
少し離れた所で、食堂のウエイトレスがキャリーカートにグリーンティーを乗せたまま立って待っていた。
全員の目が集まって、ウエイトレスも少しだけ気まずそうにして『あの、飲み物をお持ちしました』と言った。
ジーナ 「ごめんなさい。 夢中になっちゃってて。 遅い時間なのに、本当にごめんなさい」
ジーナが少し恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに言って、ノルドが立ち上がってウエイトレスからグリーンティーの入った大きなピッチャーを受け取ってテーブルの上に置いた。
ウエイトレスは『いいえ、大丈夫ですよ。 楽しそうで何よりです。 ごゆっくり』と言って、笑顔で一礼してカートを押して下がっていった。
『すみません』とジーナが頭を下げる。
ジーナが『ふふっ、ごめん、みんな。 夢中になっちゃった』と言って、可笑しそうに笑った。
グストが立って、『オレたちも話に夢中になってました』と言いながら、ガラスのコップにグリーンティーを注いで、みんなに配っていく。 デビットに『お前は?』と聞いて、デビットがうなずいて、グストはデビットのコップにも注いだ。
ファニアは『でも、うれしっ』と言って、今度は隣のノルドにハグを求めた。 焦ったノルドだったが、そこはノルドなりに機転が利いたらしく『汗臭いし、濡れてるから』と首を振った。 だが、ファニアは『ええっ』と不満そうな声を漏らしながらも、『いいのっ』と横から抱き着いた。
ジーナが『ハグくらい、いいじゃない。 ねぇ?』とからかったのだが、ノルドは『ごめん』といきなり立ち上がって席を離れた。
ファニアが『えっ?』となって、ジーナが『どうしたの?』とノルドの背中に声をかけた。
ノルドは手の甲をジーナたちに見せて、『待って』と合図した。
『ヘックショーン!!』
大きなノルドのくしゃみがホールに響いて、ジーナがテーブルのナプキンを渡す。
鼻を吹いて向き直るノルドに『エアカーテンの風ね』と背中に手を当てる。 ファニアが『びっくりした。 嫌われちゃったのかと思った』とつぶやいた。
ジーナ 「ふふっ、違うわ。 風で体が冷えちゃったのよね」
『よかった』と言ったファニアだったが、ジーナの『デビットの隣へ行きなさい』という指示に『ぷーっ』と頬が膨れた。
左からグスト、デビット、ノルドがジーナとファニアに向かい合う形になって、ジーナが『じゃぁ、続きね』と話を再開しようとした。
何気にコップに注がれたグリーンティーを飲んだデビットが、そのタイミングで『これ、うめぇ!』と声を上げた。
ノルド 「ジーナさん。 ちょっと、すみません」
ジーナが『ええ』と楽しそうに言って、ファニアが『お願い』とうなずいた。
ノルドはデビットがテーブルの上にコップを戻すのを待ってから、『スパーン』と頭をはたいた。
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