施設案内 2
長くなったので2つに分けました。 後編は後ほどUpします。
魔法訓練施設(仮) 1
ゲートの隣の第9棟には、資料室・書庫と入口に書かれていた。 そのまま建物の前を通り過ぎて、道なりに歩道を進む。 また、道路は左に直角に曲がって、見えてきた第10棟には、保管庫/倉庫と書かれていた。 ここも通り過ぎる。
そして、北側の道路の中頃に第1棟はあった。
表札には『魔法訓練施設(仮)』と書かれている。 建物の外観はジムナジウムに似ているが、窓という窓は見あたらず、完全に閉め切られたドーム型の構造物だ。 天井の高さはジムナジウムよりもやや高い。
先頭を歩いてきたジーナが足を止めて、何やらつぶやいて見上げる。
『——ここが“問題”なのよねぇ』
すぐ後ろをついてきていた女子たちが、『何か言いましたか?』と首を傾げた。 ジーナは首を振って答え、後続の訓練生たちも足を止めた。
訓練生たちの注目が建物からジーナに集まったときに、ちょうどジーナの腕時計のアラームが鳴って、ジーナはそれを止めながら訓練生たちの方を向いた。
ジーナ 「ここが、魔法訓練施設よ。 でも、そろそろ時間なの。どうするみんな? ちらっと見ていく? それとも、ちょっと早いけど、ご飯にする?」
ノルドの隣にいた女子の手が上がり、名札が見えなくてジーナが『えっとぉ、ごめん?』と名前を聞いた。
—— 「フェニア・Atriです。 わたしは見ていきたいです。 ここは特別コース専用なんですよね? たぶん、わたしはここには来られないから」
ジーナ 「あら? そう? まぁ、そうねぇ。コース以外の訓練生になったらここに来ることはないかもね。 いいわ、入りましょう」
ジーナはついてこようとした訓練生たちを『ちょっと、待ってて』と止めて歩道に待たせて、1人で扉の前まで進んだ。 扉の横に取り付けられたセンサーにIDをかざして、虹彩認証システムに顔を向けると、壁のパネルに文字が流れた。 そこにジーナは24と打ち込む。 するとパネルは、5という数字を返して消えた。
そして、扉は音もなく開いた。
『いいわよぉ、おいで』とジーナが訓練生たちを呼ぶと、訓練生たちは一塊になって建物への通路に入ってきた。
ジーナ 「5人ずつ入って。 ここのドアは2重になってて、一度に外と中のドアは開けられない仕組みになってるの。 だから、5人ずつ入って、私がこのドアを閉めたら、内側のドアを開けて中に進んで? いいわね? 全員が中に入るまで何にもしちゃだめよ? わかった?」
子供に言って聞かせるようにジーナが念を押して訓練生たちに言う。
『はーい』と能天気な返事をしながら、デビットを先頭にグストとミルトンが前に出た。 それに、一瞬考えたジーナだったが、掌を向けて止めた。
ジーナ 「……待ちなさい。 ――イアナ、オルガ、メニーテ。 それに、チトにクカ。 アナタたちが先に行って」
『はい』とイアナたちがデビットたちの横を通って先に進んで、チトが『お先にー』とクカに背中を押されながらに通って行った。
『なんでだよ?』とデビットが“デビットたち”を代表して半笑いでジーナに不服を申し立てる。 ジーナは軽く鼻でふーっとため息をつきながら、『“問題”は解決するよりも、起こる前に対処した方が効率的なの』と言い切る。 ジーナが表のドアを閉じて、ドア越しに内側のドアの開く音がして、またドアの閉まる音がした。 中で音がしなくなったのを確認してから、ジーナがドアを開く。
デビット 「それって、差別でしょ?」
ジーナ 「いいえ、区別だわ」
『ひっデェな』とデビットが言って、ジーナがドアを開けながら『順番よ、ノルド』とノルドを前に呼んだ。 そして、『この3人を連れて入って』と半笑いでノルドの大きな肩をたたいた。
ノルドが肩でため息をついたその横で、『わたしもっ』とフェニアがノルドに続いてドアをくぐった。
ジーナ 「あらぁ? アナタも夜遊び組に入ったの?」
フェニア 「はいっ。 楽しそうなんで」
そんなフェニアにジーナが首を傾けながら笑って、デビットが『どうだ』とジーナを少しだけ“煽る”ようにして中に進んだ。 グストとミルトンも続く。
『ようこそ!』『いぇーい』とハイタッチをしている4人と、『ノルド、閉めるわよ』『はい』とノルドとジーナ。
騒がしい者たちがいなくなって、そのあとに5人ずつ続き、最後にジーナと残りの3人が中に入った。 表のドアが閉じられた後に『カチッ』と音がした。
ジーナが内側のドアを開けると、むわっとした湿度と熱気を帯びた空気が吹いてきた。
異変に気付いて慌てて中へ進んだジーナだったが、すぐに足を止めた。 フロアの左側が水浸しになっていて、ジーナの足元にもその水溜まりの範囲が広まってきていた。 溜まっている水からは湯気が立っている。 お湯のようだ。
ジーナが後ろについてきていた訓練生たちにお湯を踏まないように注意して、濡れた床を迂回しながら、他の訓練生たちが待つ所まで先導していく。
丘のように盛り上げて作られた高台がフロアの中頃にあって、訓練生たちはそこに集まっていた。 湿度とお湯が放つ熱のせいで、蒸し暑い。 訓練生たちは持っていたプリント用紙で胸元を扇いでいた。
高い天井の真ん中には一つだけ大きな明かりが点いていて、その1点がドーム全体を照らしている。 しかし、地面のフロアから5mほどの高さに中二階のフロアがぐるりと周囲にあって、そのフロアの陰になる部分はまるで地下室のように薄暗い。
『みんな大丈夫!? ケガはない?』 ジーナの問いかけに訓練生たちがうなずく。 『やっぱり、これは異常事態ですか?』と緊張感のないトーンでフェニアが聞いた。 『ええ』とため息をついてフェニアに答えたジーナが視線を全体に戻すと、デビットが口を開いた。
デビット 「——言っとくけど、俺じゃないからな。 入った時には溢れてたぜ、“あれ”。 なぁ?」
『ああ』と話を振られたノルドが答えて、デビットの指がさした先にはチョロチョロとお湯が溢れて出ている噴水があった。
ジーナ 「チトなのね? どうして? 何にもしないでって言ったでしょ?」
ジーナが腰に手を当てて鼻でため息をつきながら、半分だけ手を上げたチトを見る。 でも、声を出したのはその隣のイアナの方だった。
イアナ 「……ごめんなさい。 たぶん、私です」
イアナが言って、ジーナが『アナタが?』『まさか』と驚いた。 『あっ、いや。でも、オレです』とチトが一歩前に出た。
イアナ 「——私がチト君に言ったんです。 あそこの支柱に倒れそうなほうきが立てかけてあって、それを見つけて……」
イアナが入口の方を指して言って、ジーナが『ほうき?』と腕を組んで2人を見る。 少し考えて『なるほど』とジーナが首を振りながら口角を上げる。
ジーナ 「それで? ほうきにさわったらお湯が溢れだしたわけね?」
チト 「はい… ほうきを持ったらあっちでコンって音がして。 そのあと、ノルドたちが入ってきて、水が漏れているって気が付いて……」
ジーナが『ふふっ』と笑った。 チトとイアナが首をかしげる。
ジーナ 「これは、アリスが仕掛けたコソ泥用の罠ね。 それに、最初に入ったアナタたちがまんまと引っかかっちゃったのよ」
ジーナが『ほら、泥棒って物音がするのを嫌うでしょ? “倒れかけのほうき”がひっかけのトリガーよ』と説明して、『ああ、そっかぁ』とチトたちがうなずいた。 『みんなも気を付けてね。 アリスはこういうイタズラが大好きだから。 まだ、きっと他にも何かあるはずよ』とジーナは訓練生たち全員に呼び掛けた。 訓練生たちも、警戒心と好奇心の入り混じった顔であたりを見回す。
お湯を漏らしている噴水は滝のような作りになっていて、石で作られたタワーのてっぺんから噴き出した水が斜めに取り付けられた傘のようなオブジェの上に流れて落ちて、それをゆっくりと回している。
滝の向こうには男女別のトイレの入り口が2つあり、お手洗いと書かれた光る看板が薄暗いフロアの中にアクセントをつけている。
フロアのあちらこちらに、どこにもつながらない途中までの階段がいくつかあり、その一つひとつに記号が書かれている。 どの階段のそばにも直径2mほどの岩が置かれていて、階段と同じ記号が書き込まれていることから、岩と階段は対になっていることがわかる。
所々に壊された石積みの“遺跡の壁”のようなものもたくさんあって、それが不規則に配置されている。 低いもので50㎝ほど、高いものだと2mくらいになる。 頑丈そうな壁だが、なんだかとても古いもののようだ。
『噴水を止めるから、みんなまだここから動かないでね』と言って、ジーナが歩き出す。 ジーナは高台から無造作に置かれた古い壁の上を軽々しく飛び移りながら渡っていく。 ジーナの軽快な動きに『おぉ!』と男子たち、女子たちも『ジーナさん、すごいね』と声を上げた。
『『『 あぁっ!? 』』』訓練生全員から大きな声が上がった。 ジーナが噴水から2つ手前の細い壁に降り立った時に、その壁が傾いたからだ。 ジーナは倒れていく壁の横面を蹴って宙返りして、最後の壁の上に両腕から着地して体勢を立て直した。 『おおお!!』と歓声が上がって、『びっくりしたぁ』とジーナが額に手の甲を当てて笑った。
壁がバシャッとお湯の上に倒れてバンと砕けた。 『あっちゃー』と口を『いーっ』としたジーナだったが、瓦礫はそのあとガラガラと元の形に戻っていき、また壁になった。 『もう… これもトラップ…?』 呆れたようにジーナが言って手をはたいた。
噴水のプールの内側のお湯がひときわ大きな湯気を登らせている。 ジーナはその淵に立って構造を眺めてから、腰のあたりからナイフを取り出した。 プールの側面の壁に排水溝があって、そこから伸びている取っ手にナイフをひっかけて開ける。 『コッ』と音がして、溢れ出していたお湯がそこから流れ始めた。
ジーナはフーッと息を吐いて、通ってきた同じ道順で訓練生の元まで戻っていく。 噴水から2番目の壁がまた倒れて、ガラガラとひとりでに修復されていく。
訓練生のところにまで戻ったジーナは、『何もさわってないでしょうね?』と確認をとって、訓練生たちの反応を見て笑った。
ジーナ 「しっかし、あっついわね。 ここのもので私が説明できるものはないから、とりあえず上のメザニンを見てから出ましょう」
『はーい』と訓練生たちが返事をした後で、イアナがこそッと『メニ―教えて。 メザニンって何?』と隣のメニーテに聞いた。 『うん、そこのバルコニーみたいなフロアのことよ』とメニーテが指をさして教える。
ジーナが2人のやり取りを微笑ましく聞いたあとで、『みんな、離れずについてきて』と全員に呼び掛けた。
ジーナはフロア真ん中の高台から降りて、一番奥の途切れた階段を上っていく。
訓練生たちは『ええ?』と言いながらも、素直にジーナのあとに続いていく。
ジーナの体が、階段の一番上のところと水平になった高さから順に消えていった。 『ついてきて?』とジーナの声だけがして、『おおお!』と訓練生たちから驚きの声が上がった。
ジーナの後ろについて階段を上っていたフェニアが後ろの女子たちを振り返って『すっごーい』と目を輝かせて言う。 トトトッとフェニアが駆け上がって体が消えた後で、『おっおー!』と興奮した声を上げた。
後ろに続いていたイアナたちも駆け上がる。
『まぶしい!』 『すっごーい。 あっかるい』 『おお、プールもあるじゃん』
訓練生たちが口々に思ったことを言う。
カウンターのついた部屋の前には丸いテーブルと椅子があって、その向こう側には十字に張られたロープが浮かぶプールある。 さらにその向こうには、網目状の何かと棒を支えにして作られたピラミッドのようなオブジェ。 円形に掘られた2mくらいの深さの穴が5つ並んだエリア、四角く砂が敷かれたエリア、太い木柱が何本も立てられたエリア、植物が植えられたグリーンエリアなど、所狭しとメザニンの円の内側に作られている。 そして壁際にはドアのついた部屋がいくつか並んでいて、ここの中だけでも生活できるようになっているようだ。
ジーナが『設備には触らないでね。 見るだけよ?』と歩き回る訓練生たちに呼び掛けて、一段高くなっている登ってきた階段のところで待つ。
『あっつう』とひとまわりしてきたクカとチトが、ジーナの元へ戻ってきた。
ジーナ 「そうね。 下の階の熱がここにたまってるからね。 でも、空調がどうなってる私にはわからないから、このままよ」
ジーナが言って、『そうですか』とクカたちもあたりを見渡した。 特にそれらしきものは見あたらない。 するとチトが『ああ、そうだ。 あれは、何ですか?』とジーナに聞いた。 チトが指した先には、天井からまっすぐに糸が降りてきていて、その先には50㎝ほどの黒いレースの生地が何本も吊られている。 レースは中二階の床の高さと同じくらいの位置だ。
ジーナ 「ああ、あれは魔法具ね。 たぶん、光を吸収するとかの特別な呪印が施されているの。 ほら、生地の周りを見てみて?」
『あっ、なるほど』とチトがうなずく。 吊られたレースの周りが一段と暗くなっている。 クカが『それで下のフロアはあんなに暗かったんですね』と納得していた。
一方、その頃。
ジーナたちの後ろ側では、『なにこれ?』と明るい声がしていた。
ファニアは人が3人くらい入れる小さなブースの前ではしゃいでいる。 『すっごーい。 風を吸い込んでる。 涼しいぃ』 ファニアはブースの戸口に立って目をつぶって言う。
『オレも』とデビットがファニアに代わってもらい、ブースの戸口に立った。 風はブースの天井に吸い込まれて行っており、デビットはその構造が気になったらしくて中に入っていった。 ブースの真ん中に立って、仕組みを見てやろうと上を向いている。 ミルトンも入ってきて、一緒に上を眺めるが特に機械的な仕掛けはもちろん、魔法的なものも見つけられなかったようだ。 『なんもねぇな』と言ったデビットが先に戸口に足を向けた。
そして、それはデビットが出がけに戸口の枠に触れた瞬間に起こった。
デビットは『――痛ってぇぇ!』と言って左足を抱えてうずくまった。 ノルドが『どうした!』と駆け寄って、デビットに聞く。 『何か電気みたいなのが、ビリビリって——』 デビットが答えるのと当時くらいに、ファニアが『きゃあっ!』と叫び声を上げた。
ノルドが『ミルトン! 大丈夫か!?』と大声を出して、デビットも足を抱えたまま体を反転させる。
ブースの中でミルトンが立ったまま硬直していて、カタカタと震えていた。
そして、近くにいたグストがミルトンをたすけようとブースに手を伸ばす。
『ブッシ―っ!!』
伸ばしたグストの右手ははじかれて、その勢いで体勢を崩した。
『ジーナさん、あれっ!』と異常事態に気付いたクカが呼んだ時には、ジーナはクカたちの前から姿を消していて、後ろ向けに倒れるグストの背中を受け止めていた。
お時間のある方は☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします。
誤字脱字や表現の間違いなども教えていただけると、非常に助かります。
ありがとうございます。




