施設案内 1
何話か訓練学校の風景を描きます。
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セキュリティセンター/パラミリタリー事務局
セントラルホールを出た所で、6と書かれた外壁を背にしながらダンテが訓練生たちに向かって話をしている。
ダンテ 「——まず、俺の左手だ。 そこに見えているのが南西ゲートだ。 ここの施設全体の裏口に当たるゲートで、普段は開いていない――」
ダンテが指したセカンドゲートには、頑丈そうなシャッターが下ろされていて、『CLOSED』と掲示板に文字が点灯している。
ダンテ 「——これが開くのは催し物があるときくらいだろうな。 そして、その向こう側の建物が、5棟のメディカルセンターだ。 中にはメディカルケアのほかに、リカバリーやリハビリステーションも入っている。 今のところ常駐の医師はいないんだが、近くの病院の看護師が24時間交代制で勤務してくれることになっている」
ダンテはおもむろに大きく息を吸い込んで、『大事な注意事項だ』と続けた。
ダンテ 「…救急の場合はその時の当直の看護師と、そこにいるデビットが応急処置を行うことになるだろう... だから、みんなはなるべくケガをしないようにな」
訓練生たちが『えっ!?』と顔を見合わせた後で、全員がデビットを向いた。
デビットは首を振りながら『ブブブヴヴぅ...』と気怠そうに唇を鳴らして見せた。 『ふふっ。くさらないで、デビット』とジーナが笑って、『ははは、冗談だ』とダンテも付け加えて訂正した。
ジーナ 「あっ、そうそう。 夜の8時くらいから、リカバリーセンターにセラピストが来てくれることになってるから、整体とボディケアが必要な人は相談してみるといいわよ? 整体の方は予約が必要になると思うわ」
それを聞いてから、ジーナの隣にいた小柄な女子が小さく手を上げた。 その女子と目が合って、彼女のブロンドの髪が垂れた先に下げられた名札を読んだジーナは、『オルガね』と名前を呼んだ。 オルガはちょこんと頭を下げて話し出す。
オルガ 「オルガ・Aristeです。 Centhrolで古代史を専攻していました。 早速なんですが、セラピストさんに今日の予約をお願いできますか? 肩と背中が痛くて… あと、腰も...」
ジーナ 「…ええ、大丈夫よ。 Centhrolって。 …昨日はずいぶんな長旅だったようね。 わかった、連絡しておくわ」
オルガが『はい』と小さく答えて、また頭を下げた。 まだ、何か言いたそうなオルガの雰囲気をくみ取ってジーナが『他にも何かあるの?』と聞き直した。
オルガ 「そ、その... セラピストの方は女性ですか?」
オルガをのぞき込むように見ていたジーナが、『ふふふっ』と笑いだす。
ジーナ 「そっか! ハハハ、気になるわよね、女の子だものね。 かわいいわね。 ふふふっ」
ジーナが『女性よ』と言いながらオルガの頭をなでる。 オルガの耳が真っ赤になってうつむいた。
その後ろ側で、男子たちが騒がしい。 セラピストが女性だと聞いてにわかにデビットと同盟を結んだ男子たちがテンションを上げていた。 だが、代表のデビットが何かを言う前にジーナが言った。
ジーナ 「そこの男どもにも、いい知らせよ。 セラピストはMIESTAでも最高クラスの美女よ」
『マジか!?』『ぉお!』と歓声が上がった。
ジーナ 「でも、気を付けてね。 嫌われると痛い目を見るからね。 敬意を欠くようなことはお勧めしないわ。 くれぐれも——」
しかし、浮き立ってしまっている男子たちにジーナの忠告は届かなかった。 男子たちを『どうなっても知らないわよ』と見放して、ジーナはダンテの方を振り返った。
『プライオリティは、もちろん女性よね?』とジーナが言って、ダンテが『ああ、そうだな』と答える。
ジーナ 「今日は女性優先デーだからね、オルガのあとに他の8人も診てもらうといいわ。 男子は明日以降よぉ?」
「「「 はーい 」」」
女子と一緒に軽い返事を返した男子に『調子いいわね』とジーナが言って話題を閉めた。
ダンテ 「よし。 メディカルセンターは午後からの身体検査で行くから、東回りに食堂に向かおう」
秋空の下、正午の日差しの中を、ダンテたちはプリント用紙をサンバイザー変わりに使う訓練生を連れて歩道を歩きだした。
セントラルホールの脇、丈の高い植え込みの向こう側に、たくさんの天窓がついたドーム状の建物が見えてきた。 数字の7が外壁に書かれている。
ダンテ 「これが第7棟のジムナジウムだ。 屋内演習場だ。 中は4個の控室とトイレの他にはだだっ広いフロアがあるだけだ。 ここも飛ばして次に行こう。 今日の夕方に来るからな」
ジムナジウムの前を通り過ぎると道路が直角に左手に曲がる。 東側の歩道に回ってから、最初の建物がセキュリティと管制室が入った第8棟だ。 窓の少ない外観が印象的で、壁には大きく8と書かれている。 ジーナが先頭に立って、自分のIDカードと虹彩認証で扉を開けて訓練生たちを中へ通す。 シックな黒色のバリエーションの廊下を抜けて、階段で2階に上り、訓練生たちが通された先には、ガラス越しに管制室が一望できる会議室と書かれた部屋があった。
ダンテ 「ここが、パラミリタリー訓練学校のセキュリティを統括する管制センターだ。 まず、右側のスクリーンに映っているのは、この施設の外側の映像だ。 それから、中央・上の大きいのが上空からの施設全体を映している映像。 中央から左側に向けてブロックごとに並んでいるのが施設内部の各エリアの映像だ」
映されている100を超えるモニターの数に学生たちが驚きの声を上げた。 訓練生たちは、現在地と自分たちが泊まった寮の位置を確認したり、施設全体をプリントの見取り図と比べたり、自分たちが移っている管制室のモニターを見つけて両手を広げて動作を確認してみたりしていた。
『あっ』とイアナが声を上げて、ガラスの向こう側でこっちを見ている女性に手を振った。 向こう側の女性は、オフィスチェアに座ったままイアナに手を振って返してくれた。
『あら? もう面識があるの?』とジーナが聞いて、イアナが大きくうなづいた。 『カーリィさんは知ってます。 昨日、ここに着いた時に寮まで案内してもらいましたから』と答えた。
会議室のスピーカーが『スーッ』と鳴って、『こんには、イアナ』とカーリィのインカムからの声を伝えた。
カーリィ 「それに、皆さんも。 こんにちは。 カーリィ・Grulkです。 私がここの管制室の室長を務めます。 よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』と訓練生たちも返して、イアナがボソッと言った『偉いひとだった』という一言に、カーリィがスピーカー越しに笑い声を漏らした。
ジーナ 「ありがとう、カーリィ。 いくつか質問に答えてくれるかしら?」
カーリが『ええ、ジーナ。 何でもお答えしますよ』と椅子にちょこんと掛けたまま答えた。
ジーナはカーリィにまた『ありがとう』と答えながら、すでに手を上げ待っていたデビットに『既婚者よ』と先に答えを返して黙らせた。 カーリィがまた、スピーカー越しに笑う。
オルガが『あのっ?』と小さく手を上げた。 ジーナが『オルガ、いいわよ』と発言を許した。
オルガ 「お見受けするところ、管制員は皆さん女性なんですね?」
カーリィ 「はい、女性の皆さんのプライバシーを最大限に考慮して、平常時は女性のみの8人のスタッフで業務をします」
オルガがほっとしたように『ありがとうございます』と礼を言って、カーリィが微笑みを返す。
—— 「グスト・Gomerieです。 男子のプライバシーは…? ないんでしょうか…?」
クスクスとカーリィが笑い声を漏らす。
ダンテ 「ふっはっはっは。夜遊び組のお前らには、特にここを見せておきたかったんだ。 あんまりはしゃいでセキュリティを“喜ばせる”んじゃないぞ? カーリィ、セキュリティレベルを上げて見せてやってくれ」
クスクスとカーリィが笑って、『はい、では』とキーボードをたたいていく。
パラパラパラとスクリーンの映像が移り変わっていって、ドアが4つ映し出された。 グスト・Gomerie、デビット・Sotel、ミルトン・Ramir、ノルド・Raumとそれぞれの扉に名札がぶら下がっている。
『おいおい、オイ』 『マジか』 『 … 』 『なんで俺も入ってんだ...?』
それぞれに声を上げる4人の反応を待ってからカーリィが話す。
カーリィ 「ご安心ください。 今見せている映像はここでの最高レベルのものです。 これ以上はありません。 それに、このレベルまでのアクセス権限を持つのは私だけです」
質問をしたグストたちの方は、しばし考えてふっと納得した様子を見せたが、ノルドは納得がいかないようで手を上げた。
ノルド 「ノルド・Raumです。 質問です。 どうして、俺たちを“夜遊び組”と一括りにピックアップできたんですか? まさか、朝からずっとモニタリングしていたんですか?」
ノルドの“まさか”という表情にカーリィは微笑んで頭を縦に振って見せた。
カーリィ 「今日は“サービス”です。 皆さんが“管制”に来られるということを事前に聞いていたので、喜んでもらえるかな?と思いまして。 でも、いつもいつもこういうことはできません。 ここにはたくさん仕事が入ってきますので。 今日は特別です。 ふふふっ。 でもこれで、この管制室が持っている技術と能力がわかっていただけたかと思います」
ノルドが『……はい』と答えて、『ありがとうございます』と付け足した。
ダンテ 「これで、ちゃんとお前らにクギを刺せたみたいだな」
ダンテにノルドが『いや、俺はこいつらと一緒にされても――』と言いかけたが、ダンテが止めた。
ダンテ 「いや、お前は忙しいカーリィたちに代わってコイツらの監視役だ。 それでいいだろ?」
ノルド 「監視って...」
デビット 「いいじゃないか、相棒。 監視役で、俺らの案内役だ」
ノルドは返事をしなかったが、デビットたちは満足そうだった。
ガラスの向こう側でまた、カーリィがクスクスと笑った。
ジーナ 「ありがとう、カーリィ。 十分だわ。 失礼するわね?」
カーリィもジーナと同じトーンで『ええ』と答えて、『楽しかったわ』と手を振った。
階段を下りながら、ダンテが説明を加えた。 1階の残りのフロアはパラミリタリーの機動隊が待機所として使っている。 彼らの業務は、この施設を守ることもそうだが、MIESTAの旧市街地の治安維持もこの場所から受け持つことになっているのだと説明した。 そして、終わりにカーリィがその気になれば、街中までデビットたちを追いかけることも可能だと言ってイジって、また3人の反応を見て喜んだ。
ぞろぞろと訓練生を連れてダンテたちが次に向かったのは、東側の道路の真ん中にあるメインゲートだ。
ダンテ 「ここからは見えないが、建物の外側にパーキングエリアがある。 みんなは昨日そこで降りて、職員と一緒にこの通路から出てきて宿舎に案内されたんだ。 このメインゲートの建物には、パラミリタリー全体、つまり、パラミリタリー本部の事務局が入っている。 訓練生のみんなにはあまり縁のない所のように思うかもしれないが、ここがこのパラミリタリー訓練学校を支える土台でもあるんだ」
言っているダンテの携帯がマナーモードの音を鳴らせていた。
ダンテ 「せっかくだから、事務局の人たちに挨拶してくるといい」
『いいわ、行って』とジーナが言って、『すまん、少し出る。 後を頼む』とダンテが掌をジーナに見せた。
携帯を耳に当てるダンテをおいて、ジーナたちはゲートの建物に歩いて行った。
ジーナたちは正面のエントランスのガードに案内されて、事務局と書かれたドアをくぐっていった。
空調のきいた室内では、15人ほどのカジュアルスーツ姿の職員たちが仕事をしていて、訓練生たちが入っていくと、みんな手を止めてそれぞれに訓練生たちを歓迎する言葉をかけてくれた。 訓練生たちの方からも、さっきのイアナのように『ああっ』と声が上がった。 訓練生たちに面識がある人たちが個々の職員にもちらほらといたようだ。
——「ようこそ。 よく寄ってくれました」
奥から白髪頭男性が出てきて、事務局長のトマス・Wifferhと名乗った。 『ブレイクでも?』と勧められたのだが、ジーナは『昼食前なので』とやんわりと断った。
事務局長は残念そうに了承すると、冷水だけを係の者に配らせた。
訓練生たちの方を向き直ったトマスは、手短に職員たちの紹介をして、自分たちの業務について説明しだした。 職員の半数は国内外の民間企業からトマス自身が直々に“誘った”人たちらしい。 事務局は今、この施設の運営・管理のほかに、施設内のまだ終わっていない建設工事や改修が必要な部分の工事も監督していて多忙なのだそうだ。
さらに、これらと並行してこの事務局は限りあるパラミリタリーの財源の運用も任されており、現在、大小5つのプロジェクトが進行中なのだとか。
トマスはそこまで説明すると言葉を切って、持ち場で立ったまま待機していた職員たちに手招きをして、全員を訓練生たちの前に集めた。
トマスは自分たちのことをいろんな分野のプロフェッショナルの集まりだと言った。 管理のプロ、資金運営のプロ、企画立ち上げのプロ、リサーチのプロ、コーディネートのプロ、マネージメントのプロ…… やっていることは営利団体の一般企業と同じだが、一つだけ違うことがここにはあるとトマスは言った。 それは、純然たる意志の存在だと話した。 管理業務や資金運営の活動の最終目標は、パラミリタリープロジェクトの完成だと。 そして、完成のための最重要事項が人材育成なのだと。 それこそが、この事務局がパラミリタリー本部ではなくて、パラミリタリー訓練学校施設に置かれた理由なのだとも。
訓練生たちの方は、はじめ、“人材育成”の話をされて、何のことかすぐにはわからなかったようだ。 しかし、それが、自分たちのことだと理解できてくると、訓練生たちは自ずと背筋が伸びていった。
彼ら事務局員たちの願いは、彼らのする仕事で1人でも多くのパラミリタリーの完成を担う人材が育つことで、そのためになら力は惜しまないと言った。 そして、彼ら職員は訓練生たちの一番近くにいる“訓練生たちのファン”だと伝え、訓練生たちの成長を何よりも楽しみにしているのが自分たちだと言って若者たちを激励した。
訓練生たちが高揚するのを横で眺めていたジーナが『さすが』とでも言うようにうなずいていた。
トマス事務局長の話が終わって、『ありがとうございます』とジーナが訓練生たちを代表して頭を下げた。
ジーナ 「正直、恐縮してしまいました。 こんなにいいお言葉を頂けるとは思ってもいませんでしたので」
ジーナが笑って、恥ずかしそうにするトマスにもう一度、『ご期待に沿えるように頑張ります』と頭を下げた。 ジーナに続いて頭を垂れた学生たちには、『頑張ってね』『期待してるからね』と職員たちから声がかけられた。
一同は事務局の扉の前で一礼をして、その場を後にした。
オルガの隣にいたメニーと呼ばれていた女子が『スゴいお話だったね』とオルガに話しかけて、それを皮切りに訓練生たちが一気にしゃべりだした。
ジーナと目が合ったノルドは『気合が入りました』とジーナの無言の質問に答え、他の男子訓練生たちも『すごい所に来たんだって実感が湧きました』とそれぞれに感想を述べた。 ジーナはそれを見て満足そうにして、『改めてトマスさんにお礼を言わなくちゃ』と視線を前に向けた。
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