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#01B 海路

書きあがった分だけアップします。

誤字・脱字は勘弁してください。 後程直していく予定です。


ご感想やご意見、☆☆☆☆☆での評価などを頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。

漁船



  ダンテたちが出航したのは、海岸線についてからちょうど7日目の早朝だった。

少しだけ天気に不安はあったものの、北西からの風が吹いていてイカダは面白いように沖へ進んでいった。


  馬車の荷台には再び(ほろ)が取り付けられていて、馬車の後方にはテントが2つ張られている。 テントは就寝用というよりは、昼間の日よけのためと言った方がいいだろう。 海の上では太陽を遮るものはない。

テントと馬車の間には、竹枠にヤシの葉が飾りつけられてビーチのオーニングのようになっている。 ジーナとサテラの仕事だ。

ダンテがココヤシを房ごと取るために木を倒したものを、ジーナとサテラの2人が、この方が気分が出るだろうと遊び半分で取り付けたのだ。 だが、これもいい影になりそうだ。


  馬車の御者台の上には方位磁石が取り付けられていて、ジーナとサテラとダンテが交代で確認する役割を担う。

もっとも、ここは内海なので遭難する心配はない。 対岸に向かってさえいれば、いずれLEDASの何処かの海岸には着く。 ダンテたちは大まかにMIESTAの近くに着けばいいのだ。

  イカダの帆の役の結界は、ミエスが買って出た。

結界を張ってみて、ミエスはその感触から確信を得たのだろう。 MIESTAに着くまでの帆の役割の結界は、全て任せてほしいと言った。

推進力のメインマストはミエスが担当し、アリスはミエスの結界の後ろ側で、進行方向を決めるミンズマストの役割を任された。


  1時間ほどで陸地はほとんど見えなくなった。

リバ山脈の山々が薄くかすんで見えるだけ。 後ろを振り返ったジーナが、『うっわぁ、海の上って恐ろしいわね。 あれが見えなくなったら、何にもなくなるわよ?』とダンテに言う。 ダンテもジーナと同じように乾いた笑い声をあげて、『ああ、だから、しっかり磁石を見張っていてくれよ?』と意地悪な口調で言う。

それを聞いていたナトが、『ママ、目を離しちゃダメだよ』と不安げな声を上げる。 また、乾いた笑い声があがる。


  優たちの腰にはセーフティロープが2本繋がっている。 一方の長い方は馬車の荷台に繋がっていて、もう一方はナトの背中に繋がっている。 ハンナも同じで、もう一方はウリに繋がっている。 

物怖じしないで走り回るナトと違って、ウリはハンナに張り付いたままになっている。 でも、ウリは海が怖いわけじゃない。 ウリが警戒しているのは鳥だ。

海岸線に着いてから発覚したことだが、ウリはすごく鳥を怖がる。 体が小さいウリは、過去に鳥に獲物として狙われたことがあるのだろう。 今朝のこと、早朝の浜辺にはたくさんのカーリャが飛んでいた。

イカダはもう沖まで来たから空を飛ぶ鳥は見当たらないが、『海の上には隠れる場所がない』と、ウリはハンナにくっ付いている。

ハンナは、空に注意を払いながらハンナにべったりなウリのことが可愛いらしく、時々頭をなでて『ふふふっ』と笑う。


  そんなウリに気が付いたミエスが、ウリのためにテントと馬車の間に筒状の結界を張ってくれた。

ウリがハンナから離れて駆け回った後、ミエスにお礼をするために飛びつく。 川遊びでお守をしてもらって、ウリとナトはミエスとすっかり打ち解けてしまっている。

  子供たちを本当の孫のように可愛がるミエスを見ながら、セシリアとアーナは少しだけ苦笑いだ。 楽しい時間の後には、悲しい別れが待っている… MIESTAに着いた後に待っている別れの時を思い浮かべているのだろう。


  ミエスは魔法で空気を圧縮してボールを作って、ウリとナトを遊ばせた。 そこにリフォとスクも混ざって、ナトとウリがケタケタと笑い声をあげて遊ぶ。



  北の空に出ていた雨雲が、広がってきてイカダの上にも雨をこぼし出した。 ミエスが結界の範囲を前方まで延長させて、ジーナたちがお礼を言った。

多少の風が強く吹いてきて波が少し荒れたが、巨大なイカダはほとんどそれを感じることはなかった。 



  雲が散っていき、快晴の空と太陽が現れた時には、陸地は何も見えなくなった。 360度の海が広がっている。

風が弱まってきて、イカダの進むスピードは少し落ちたが、イカダは問題なく進んでいった。



  夜になって満点の星空が見えてくると、遠くの地平線の先に小さな明かりが見えてきた。 

MIESTAの町の明かりだ。

何もない地平線の彼方で、町の明かりが空をカーキ色に染めて目的地を示してくれているので、コンパスを眺めている必要がなくなった。 御者台の明かりは消されていて、見張りは誰もいない。

  夕食はお昼のハンナが作っていたお弁当と、ダンテ特性のピザ。 ダンテたちは、浜辺の時のように全員で食事を囲んで思いおもいに話をして談笑して楽しい時間を過ごしていた。


  イカダは進み続けた。



  朝になってダンテとアリスと交代するために、ジーナが起きてきた。 軽く2人に挨拶をしたジーナは首を傾げている。


ジーナ 「まっぶしー。 けど、まだMIESTAは見えてこないわね?」


ダンテ 「まぁ、そうだな。 オレたちの視点だと角度的にせいぜい5kmくらいしか見渡せないからな。 かなり近づかないと目視はできないだろう」


ジーナ 「ふーん。 なるほどね。 でも、こう何もないと、進んでいるのかどうかも分からないわね」


『ま、風邪か吹いてるんだから、進んでるんだろうけど…』と言いながら、ジーナは体を伸ばす。 ダンテたちは『少し寝る』と言って馬車に戻っていった。


  サテラが2人分のコーヒーをもってやってきた。

ジーナに渡しながら、『ごめん、まだ、ハンナが寝てるから、ぬるい…』と言って自分の分に口をつける。

『ありがとう』とジーナがお礼を言って、太陽に背を向けて座り込む。 イカダはちゃんと太陽の少し右に向いているので、コンパスを確認する必要はない。 サテラもジーナの隣へ座ってゆっくりとコーヒーを飲む。 波の音と、海の匂いと、高い雲。 早朝の海は静かだ。



  9時頃になって、双眼鏡で東の空を見ていた優がカーリャの群れを見つけた。 陸地が近い証拠だ。

急にイカダの上が騒がしくなった。 ジーナは全員の身分証などの書類を集めて行き、ダンテはSTEIGMAから持ち出した宝石や魔法具、武器や防具などを馬車の荷台の底の収納スペースにしまい込み、アリスに頼んで隠密魔法で隠す。 サテラは検疫で引っかからないようにと御者の老人と2人で、ジルガスたちを洗って身だしなみを整える。

ミエスは自分の家族に税関での受け答えを確認し、問題がないように備えている。


  寝ていた馬車を追い出されたナトとウリは、昨夜の残り物のピザを一切れずつもらって、マグカップと一緒にぼーっと海を眺めていた。

でも、最初の声をあげて知らせたのはナトだった。


ナト 「優兄ちゃん、後ろから船が来るよ!」


優 「ホントだ! 父さん、8時の方向に船だ。 大きい」 


漁船だろう。 イカダの倍ほどの大きさの船は、後方からイカダの向かう進路に重なるように進んできていた。 向かう先がMIESTAだから、当たり前のことだ。

かなり速度も出ている。 数分後に接触する距離にいる。

飛び出してきたダンテは、アリスを呼んで南に舵を切るように頼む。 だが、風が弱くて思うように進路を変えられない。


「アリス、後ろでつむじ風を起こしてくれ。 こちらの居場所を知らせよう」


『わかったわ!』とアリスがかけて行き、後方で竜巻が起こる。

漁船の操縦者は突然の竜巻に驚いて、船の速度を緩めて進路を変えたようだ。 船首に飛び出してきた船員がイカダに気が付いて、大きく手を振りながらイカダにしがみつくようにダンテたちにジェスチャーしてくる。


  漁船は近い。 だが、ぶつからないだけの角度は確保できていた。

漁船は船のスクリューを逆回転させながら、イカダの横をギリギリで通り抜け、50mほど前方で止まった。

  あまりに近くを通ったものだから、漁船が通り抜けた後の大きな波が、大きくイカダを揺らす。


優 「ああっ!?」


みんながイカダにしがみつく中、優が駆けだしていた。 うっかりココヤシの房につかまったウリだったが、ココヤシの実が房から取れてしまい、ココヤシを抱えたままのウリが床を転がっている。 イカダが揺れて、ポンとウリが跳ねて、海に落ちるすんでの所で優がウリのおなかを捕まえた。 ウリが抱えていたココヤシだけが海にトッポンと落ちた。 そのまま優はイカダの床に伏せる。


  波がやんで、大きな目に涙をためたウリを抱えて優が戻ってくる。


優 「みんな、ごめん。 前が気になってて後ろを見てなかった。 ナト、ありがと、知らせてくれて」


最初にセシリアが、『いいえ、優君。 楽しかったわ』と言って笑い始めた。

ダンテが、『ビビった』と言ってハハハハハと大笑いして、ウリ以外の全員が笑い出した。



  漁船がスクリューを逆噴射させながら、ゆっくりとイカダに近づいてくる。

合図を送る船員に先導されながら、漁船はイカダにぴったりとくっついてきた。

カラカラと“ロープはしご”がイカダの前方に降ろされ、小柄な男が下りてくる。


―― 「あぶねぇ目に合わせてしまって、すまねぇ。 うっかりだ。 この辺に船がいることなんてめったにないんでよ。 勘弁してくれ。 オレは船長のネザだ」


ネザは口調の割には、しっかりと頭を下げて謝った。 ダンテも答える。


ダンテ 「いいや、大丈夫だ。 ぶつからなかったので何も被害はない。 ビックリしたくらいだ。 頭をあげてくれるか?」


ネザ 「本当にそうか? 揺れてケガとかしてないか?」


ダンテ 「ああ、大丈夫だ。 ココヤシが1個海に落ちただけだ」


また、ウリ以外の一同が笑うと、ネザはねじった鉢巻きを外してため息をついた。


ネザ 「そうか、それは良かった。 本当に良かった。 それで? アンタらは、ナニモンなんだ? 魔族なのか人族なのか?」


ダンテ 「ああ、その両方だ。 人族と魔族のパーティーで旅をしてきた」


ネザ 「ほうほう。 それは、めずらしいな。 で? 外界から、海を渡ってきたわけか」


ダンテ 「ああ、そうだ」


ネザ 「スゲェな。 よし、わかった。 MIESTAに行くんだろ? また、船にひかれそうになったらあぶねぇから、けん引していってやるよ」


ダンテ 「あ、おお。 それは、有難い。 助かるが、いいのか?」


ネザ 「いやいや、迷惑料も含めた“ご縁”ってやつだ。 どうせ、オレらも港に帰るんだからついでだ」


ネザは『オォイ!』と荒々しく船員に声をかけて、漁船からフックの付いたワイヤーを下ろさせた。

漁船の前方と後方から2本ずつワイヤーを伸ばしてイカダの外側に取り付けた。

中央からもう一本出して、それはイカダの漁船側に付ける。

3本のワイヤーを適当に引っ張っていき、少しだけイカダが持ち上がったところで止めた。


ネザ 「港までは、ここから3時間くらいだから、気楽にしていてくれ」


そう言ってネザはまたはしごを登っていき、船が動き始めた。



  しばらくして、はしごから小太りな男が降りてきた。 手を振ってくれていた船員だ。


―― 「これを船長がアンタらにって。 昼飯にでも食べてくれって」


大きな魚の切り身を抱えていた。 オレンジ色のきれいな肉が布巾の間から見える。

ダンテが両手で受け取ってお礼を言う前に、『ありがとうございます』と前に出たのはハンナだった。


ハンナ 「すごいですね。 これで、お昼をごちそうさせてください。 そちらの船員さんは何人ですか?」


―― 「あっ、いや、俺たちは2人だが、昼飯は荷揚げを終えた後なんだよ。 いつも14時くらいになるから、俺らのことは気にすんな」


ハンナ 「はぁ、そうなんですか。 わかりました。 遠慮なく頂きます」


全員が頭を下げて、小太りな男はそれに一礼して、にこにこしながらはしごを登っていった。


  ハンナが、ダンテが抱える魚の切り身を見てうっとりしている。

ジーナも『すごいわね』とダンテに駆け寄って、『うん、すっごい久しぶり。 でも、こんなに新鮮なサーモンは初めてかも!』とハンナがジーナに言う。 アリスもセシリアたちも加わって、女性陣はちょっとしたお祭り騒ぎになった。


ハンナ 「ダンテさん。 調理台と調理道具を出してもいいですか?」


ダンテが笑いながら『ああ』と答える。


ハンナ 「もう、火を使ってもいいですよね?」


ダンテが笑ってうなずく。 『やったー』とハンナが声をあげて、ウリを抱きかかえたままの優が準備のために連れて行かれた。


サテラがサーモンをのぞいて言う。


サテラ 「ネザさんでしたか? 船長さんは? すごい太っ腹ですね。 ピンクサーモンはこの時期なら、言い値で売れるでしょうに」


ダンテ 「ああ、あれが、職人気質ってやつだろう。 オレたちは随分と気に入られたみたいだな」


サテラ 「はい、そのようですね」


ミエス 「ほう。 職人とな? 普通の人族とは違うのか?」


ダンテ 「いえ、そうではなくて、物事に対する価値観が違うんですよ。 目先の欲よりも、信条に生きる性質と言いましょうか。 自分の職に忠実に向き合う人たちなんです。 彼らの場合は漁師だから、良い魚を届けることを至上の喜びとしているのだと思います。 だから、私たちをもてなすために、今日一番の魚をくれたのでしょう」


ミエス 「ほう、なるほどな。 魔族の中にも時々見かける気質の奴だな」


そこへ、ダンテの抱えるサーモンを持っていくために戻ってきたジーナが口をはさむ。


ジーナ 「だから、私のような商業に生きる者にとっては、職人気質の人は良いパートナーになれるんですよ。 お金が大好きな私たちと違って、あの人たちは求めるモノが違いますからね」


ミエス 「ははは、なるほどなぁ。 欲のない者たちか... もとい、純粋な欲しか持たない者たちなのかも知れんな」


ジーナ 「はははは、そうですね。 私は職人たちがお金をあまり好まない理由をこう考えます。 彼らは他人の尺度で、自分の仕事を計られるのが嫌いなんだと。 お金はどうしても大衆の尺度になりますからね」


ミエス 「なるほど! 実に分かり易い解釈だ。 人界の話は興味深い。 ありがとう、ジーナ殿」


ジーナはまた笑って『どういたしまして』と言って、サーモンを受け取ってハンナたちの方へ行った。


  まだ何も見えない海の上を、ネザの漁船がイカダを連れて進んでいく。



今日は後何話かアップします。


ご感想やご意見、☆☆☆☆☆での評価などを頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


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