#01J 偽装
KILNIESの苗字を変えるために入国管理局に戻ります。
今回も諸事情により、投稿は2話のみです。 ごめんなさい。 次回の投稿から新展開を予定しています。
ハンナ・KILNIES
ジーナ 「よかった。 まだ、室長さんの手元にあるって!」
宿のカウンターから電話をかけてもらい、確認を取ったジーナたちは喜んでいた。
早朝、6:30。 入国管理局の始業時間は7:00のはずだが、室長のケイブは、もうデスクについていたようだ。
ジーナは1時間後にアポを取って電話を切った。
優に抱かれて連れてこられたウリは、ひたすらに眠たいらしく、優の腕の中でどうにか寝てやろうとごぞごぞと角度を探している。
それとは反対に、徹夜のせいかジーナと優のテンションは高い。
優 「あ! そうだ! セシリアさんにお願いしてみよう。 ほら、ハンナは前に言ってたでしょ、城下から逃げ出した時に肌の色を変えてたって」
ハンナ 「ああ! もしかして、セシリアさんのインクで塗ってもらうってこと?」
ジーナ 「そうね! やるならとことんね。 よし! 部屋に戻りましょう」
ジーナがカウンターの女性に頭を下げて、3人は地下の廊下へかけて行く。
扉を開けた時に、『ふふふっ』と笑うセシリアたちの声が聞こえて、『よかった』とジーナが言った。
セシリアはまだ、アリスとサテラ、スクとリフォと酒盛りを続けていて、そこにジーナたちがバタバタと入っていった。
アリス 「あら? どったの? 忘れ物?」
優 「あ、いえ。 セシリアさんにお願いがあります」
セシリア 「わたし?」
ジーナ 「はい。 セシリアさん、セシリアさんのインクで肌の色を変えることってできますよね?」
セシリア 「え? あ、ええ。 可能ですよ」
優 「ハンナからエルフの特徴の白い肌を消したいんです」
セシリア 「ああ、なるほど。 わかりました」
セシリアは立ち上がって、『やりましょう』とハンナに言って、『お願いします』とハンナが答えた。
セシリア 「じゃぁ、わたしのお部屋に。 あ、色はどうしましょう?」
ハンナ 「うーん、どうしよう? 優?」
優 「あんまり大げさに色を変えてもいけないから、アーネさんくらいでいいんじゃない?」
ハンナ 「…アーネさんくらいで、お願いします」
セシリアがにこっと笑ってハンナを連れて行く。
15分くらいして、セシリアたちが出て来る。
セシリアは丁寧に髪の色まで塗り替えた。 日焼けした素肌に、薄いカスタード色の髪の毛がかかっている。 丸い顔の輪郭が余計に際立って見える。
アーネが『な、何か余計に手ごわくなったように見えるわね…』とぼやいた。
ハンナ 「 … どう? 優? お母さん?」
優 「…あっ、うん」
セシリア 「どうですか? 優さん?」
優 「素晴らしいです。 人族の普通の女の子に見えます」
セシリア 「よかったわ。 でも、このインクはもっても2・3年ですから、必要ならまた言ってください」
優 「十分すぎです。 SAURESの目を欺ければいいんですから、ここ1年をもてば十分だと思います」
ハンナ 「よかったぁ... また、塗るのかと思うと... すーっごく、くすぐったいから...」
ジーナ 「ふふっ。 でも、いいわ、ハンナ。 エルフの特徴は分からなくなったわ」
ハンナ 「うん。 後は、ウリよね?」
優 「そうだね。 ウリも塗ってもらおう。 いいですか、セシリアさん?」
セシリア 「ええ、大丈夫ですよ。 では、何色がいいでしょう?」
ハンナ 「うーん… むずかしい……」
優 「黄色は?」
ハンナ 「いいとは思うけど、あんまり目立つ色じゃダメじゃない?」
ジーナ 「じゃぁ、いっそのこと黒とか...?」
ハンナ 「それは、かわいそすぎる」
アリス 「ピンクは?」
優 「目立ちます…」
ハンナたちが悩む中、セシリアがポンと手を叩いた。
セシリア 「じゃぁ、いっそのこと『おもちゃ』にしませんか?」
一同が『えっ?』となって、セシリアが笑う。
セシリア 「ウリちゃんを目立たなくするのは無理です。 こんなに可愛いんですもの。 ですから、いっそのこと魔法道具のおもちゃみたいな感じにしてみません?」
ジーナ 「なるほどー。 動くぬいぐるみのような?」
セシリア 「はい、それです! いかがですか?」
優 「ハンナ?」
ハンナ 「うん。 セシリアさん、それでお願いします」
セシリアは嬉しそうにして、寝ているウリを優から受け取ると、『腕が鳴るわぁ』と部屋に戻っていった。
5分後。
セシリアに抱かれて出てきたウリはまだ寝ていた。
ウリは、体を縦に3分割されていて、左側がもともとの黄緑色、真ん中が薄いブルーでおなかに水玉模様、右側が濃いピンク色、左手が赤、左足が黄色、右手が紫、右足がカーキ色、くわえて、ほっぺには落書きのような絵柄がいろいろと書かれている。 そして、ぬいぐるみ感を出すために、丁寧に縫い目が薄く書かれている。
一番に食いついたのはアリスだった。
アリス 「か、かっわいいぃ。 抱っこさせてー!」
アリスが抱いてクルクル回るが、ウリは寝ている。
優 「た、確かに。 アリスさんが持つから余計にそう見えるのかもしれませんが、ぬいぐるみにしか見えませんね」
ハンナ 「すごいです。 セシリアさん」
セシリア 「気に入ってもらえたかしら?」
アリスが、寝ているウリをハンナに『はいっ』と戻してきて、ハンナが『はい、ものすごく可愛いです』とセシリアに答える。
ハンナ 「でも、この年でぬいぐるみをもって人前に出るのは勇気がいりますね」
セシリア 「あら? そうですか? 良く似合ってると思いますけど?」
ジーナ 「うん、悪くないわよ。 アナタもイメチェンしてちょっと幼くなったから、そんなに違和感ないわよ」
セシリア 「ほんとですねぇ、そんなつもりはなかったのだけれど…」
ジーナ 「ほら、優と並んで? … うん、優よりも若く見えるわ」
セシリア 「リフォと同い年くらいに、見えますね。 不思議です」
ジーナ 「ああ!! やばい、時間よ! 急ぎましょ!」
頭を下げてジーナたちがドタバタと部屋を出ていって、後ろでセシリアが大きなあくびをしていた。
フロントでタクシーを呼んでもらい、宿から入国管理局まで運んでもらって、時刻は7:30を回っていた。
ジーナが銀貨4枚払って、銅貨を25枚もらった。 不愛想な運転手のドワーフは、何も言わず走り去った。
ジーナが『感じ悪いわね』とこぼしながら、優とハンナを率いて建物の中を進む。 優たちを廊下に止めて、ジーナだけが待合室がある受付へ入ると、係の者がすっと立って事務室の外へ出てきた。 待合室のドワーフたちは今日は少なく、席もまばらで、そのドワーフたちの中にジーナのことを知る者はいなかったらしい。 ジーナのことを管理局側の人員と勘違いしたのか、特に興味を示さなかった。
ジーナに気づいた見覚えのある長身の男性職員が、事務室から駆け出してくる。
サト 「お待ちしていました。 ご案内いたします。 まずは室長室へ行きましょう」
長身の若い秘書は、丁寧に頭を下げてジーナたちを奥へ案内した。
サトは室長室の扉を軽くノックして、返事を待たずに扉を開けて、ジーナたちに中へ進むように勧めた。
ジーナ 「申し訳ありません。 遅くなりました」
ケイブ 「いいえ、お待ちしたのは、たったの数分ですよ」
ケイブがきれいな笑顔で笑って、サトが『どうぞ、おかけになってください』と来客用のソファへ座るように勧めた。
ケイブも自分のデスクに積んであった書類をもってソファへ移動してきて、膝の高さほどのガラステーブルに書類を置いて座る。
ジーナ 「申し訳ありません。 朝早くからお電話を差し上げて、お時間までいただいて」
ケイブ 「いいえ、問題ありません。 ハハハ、私はいつも早朝から出勤しているわけではないんですよ。 お恥ずかしながら、いつもは重役出勤です。 今日はたまたまですが、時間は十分にあるので問題ありません」
サトが『皆さん、コーヒーでよろしいですか?』と確認を取って部屋を出ていく。 そして、ケイブが『早速ですが、お話を聞かせていただきましょう』
ジーナ 「はい、では。 …実は昨夜、宿の酒場で情報がありまして。 それによるとこの子がSAURESに狙われる可能性があることが分かりました。 ご存じかも知れませんが、この子が名乗った苗字のKILNIESはSTEIGMAの大貴族の姓です。 どうやら、SAURESは王国の主要貴族を生かしておくつもりはないらしく、SAURESの賞金首のリストに苗字が載っていました。 このまま、この子たちがKILNIESを名乗ってしまうと、金貨1枚で命を狙われることになってしまいます」
ケイブ 「そ、それは、大ごとですね。 …なるほど。 …確認ですが、ハンナさんはKILNIESのご息女なのですか?」
ジーナ 「…はい。 残念ながら、それは事実です。 しかし、この子はKILNIES当主の妾の子供で、政略結婚のためだけに引き取られて育てられていただけで… でも、とうの昔にその姓も家も捨てていて、ずっと私の娘として生活をしていたんです」
ケイブ 「なるほど。 お話はよくわかりました。 ははは、SAURESの情報が得られたことは、幸運でしたね。 そして、私の手元にハンナさんとウリさんのデータが残ったままです」
ジーナ 「はい。 どうか、ご理解とご協力をお願いいたします」
ケイブ 「…わかりました。 それで、お2人の様相が昨日とだいぶ違うわけですね。 しかし、偽装はマズいです。 何かあれば私共の責任になりますので」
ジーナ 「ええ、ですが、問題はないと思います。 これは特殊なインクで塗られていますので、今後、最低でも2年間は落ちません。 ご心配なら確認してください」
ケイブ 「なるほど。 わかりましたが、一応確認させていただいた上で判断をさせていただきます」
ケイブが言って、ジーナと優たちが頭を下げる。
サトがコーヒーを人数分運んできた。 それに、ケイブがハンナとウリの入国審査の準備をするように指示を出して、サトがまた部屋を出ていく。 ケイブは、ハンナに向かって言う。
ケイブ 「苗字の差し替えの件については、ご要望にお応えできると思います。 その上での提案ですが、ハンナさんの新しい苗字をRAMYB様から頂いたらどうでしょう」
ハンナ 「え? お母さんのGREITIではダメなんですか?」
ケイブ 「はい。 ダメということはないのですが、いささか手続きがややこしくなってしまいます。 しかし、ハンナさんが人族ではないとした場合は、簡単です。 RAMYB様はビックネームですから、スムーズに許可が下りますし、それに、肝心のSTEIGMAとも縁が切れます。 いかがですか?」
ジーナ 「なるほど、確かにその方がいいかもしれませんね。 ハンナも苗字なんてなんだっていいでしょ?」
ハンナ 「うん、じゃぁ、ミエスさんにお願いしないと… …セシリアさんでもいいのかな? ミエスさんは寝ていると思うし…」
ジーナ 「どうでしょう?」
ケイブ 「ええ、全く問題ありません。 セシリア・PRINC様はミエス様の奥様で領主代行という肩書もお持ちでしたので、十二分に身分が保証されています。 どちらでも構いません」
ケイブが立ち上がって『宿に電話してみましょう』と自分のデスクから電話の子機を取った。
電話が宿のカウンターと繋がり、カウンターの女性が部屋まで確認に行って、折り返し電話をかけてくるということになった。
ウリを抱える優の隣で、少し幼い容姿になったハンナが不安そうな声を出す。
ハンナ 「私、魔人になっちゃうのよね? 変な感じ」
優 「ふっ、そうだね。 でも、国籍の上だけの話だよ」
ハンナ 「うん、分かってるけど、何かまた1人になるみたいで…」
ジーナ 「はは。 おかしな子ね? 何にもかわらないわよ。 ウリも一緒よ?」
ハンナ 「うん…そうだけど。 ああ! でも、結婚は!? ケイブさん、LEDASは魔族と人族の結婚を認めていますか?」
電話が鳴って、ケイブは『大丈夫ですよ』と笑いながら電話を取った。 それを聞いて、ハンナの拳が緩む。
電話の相手はセシリアで、ケイブはジーナに代わった。 セシリアたちはジーナたちが戻ってくるまで起きているつもりでいたようで、それにジーナが丁寧にお礼を言った。 セシリアに入国管理局まで来てもらえる運びとなり、ジーナが電話を切った。
ケイブ 「宿からだと、20分ほどかかりますね。 その間にハンナさんとウリさんの手続きをやっておきましょう。 尤も、書類審査はもういいので、写真と生体認証の撮り直しだけですね。 サトが案内します」
サトが『どうぞ』と扉を開いた。 優が付き添って室長室を出ていく。 部屋にはジーナとケイブだけが残った。
ケイブ 「さて、ジーナさん。 少しお話をしましょう」
ジーナ 「はい、そうですね。 お聞きしましょう。 まずは、私たちが特別な待遇を受けているわけから聞いてもよろしいですか?」
ケイブ 「ハハハ、宿のことですね? 差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ありません。 ほんの気持ちです」
ジーナ 「わかりました。 ありがとうございます。 本当に心地の好いお部屋です」
ケイブ 「気に入っていただけたようで何よりです」
ジーナ 「それで…? 宿のこと、今回のハンナのことと言い、特別な便宜を図っていただけるということは、交換条件というわけではないのでしょうけど、私たちに何か交渉したいことがおありのようですね?」
ケイブ 「…ええ。 はい、恥ずかしながらお察しの通りです。 皆さんにはお願いがありまして、確かに入国に際しましても、若干の手心をつけさせていただいています」
ジーナ 「聞かせていただけますか?」
ケイブ 「はい。 では、こちらの事情からお話ししましょう。 現在のLEDASは、治安の維持が危ぶまれる状況にあります。 犯罪組織がシンジケート化していて、対策が追いついていない状態が続いているんです。 移民の受け入れ政策で、南側から移民が流入したことの弊害でしょうね。 どうやら、移民に紛れて入ってきた南の犯罪組織に、国内にいた反社会組織らが同調しているようで、LEDASの現存する治安部隊では、手に負えなくなってきているのが現状です。 そこで、それらに対抗するために“法”の外側で暗躍できる特殊部隊の設立を検討しているところなんです」
ジーナ 「なるほど。 ですが、それが私たちとどのような関係が? まさか、素性もろくに知れていない私たちをそこへ勧誘するつもりですか?」
ケイブ 「ははは、私の人を見る目はこの国でも指折りだと自負しています。 あなた方は善良な方々ですよ。 ですから、それに関する私の返答は、『はい』です。 しかし、『表向きは』と付け加えますが…」
ジーナ 「それは、どういうことでしょう?」
ケイブ 「すみません、回りくどくて。 特殊部隊の設立にはまだかなりの時間がかかります。 何と言っても国のやることですから、いつになるやらわかりません。 それどころか、実現可能かどうかも、実のところ、危ぶまれることが多くて。 その上、この国の年寄りたちは用心深いもので、冒険はしたがらないのです。 例えば、強力な犯罪組織に対抗するための武力です。 仮に犯罪シンジケートを駆逐できるだけの武力を得られたとして、その組織自体がシンジケート側に寝返ることはないだろうかだとか、駆逐した後にどのように解体するかだとか、国家のバランスを崩す要素にならないだろうかだとか、未だにそんな話をしていると聞いています」
ジーナ 「なるほど、客観的に見て頭の痛い話ではありますね。 強力な飼い犬が必要になるのに、手綱を持つ腕力がLEDASにはない…」
ケイブ 「フフフッ、ハッキリとおっしゃいますね。 その通りで、愚かしい限りですよ。 自分の手足すら信用できずに、鍛えることを怠ったなれの果てが今です」
ジーナ 「…お察しします」
ケイブ 「はい。 そこで、私たちは先に“民間”で特殊部隊を設立する方向で動いているんです。 皆さんをお誘いしたいのは、“民間”で作る治安維持部隊の方です。 もちろん、ゆくゆくは政府公認の特殊部隊に押し上げていくつもりですが、実力行使で手柄をあげて政府に認めさせるのも手段の1つかと思い、一部で話が進んでいるんです」
ジーナ 「なるほど。 よくわかりました。 ですが、今は音頭を取っている組織や上役が誰なのかは教えていただけないのでしょうね?」
ケイブ 「申し訳ありません。 現時点でお伝えすることはできません…」
ジーナ 「そうでしょうね。 わかりました。 宿に戻ったらみんなと相談してみます。 ですが、あまり期待をされてもいけないので先にお断りを入れておきますが、現時点で私個人の考えでは答えは『NO』です。 私たちは国を追われて逃げ出してきたばかりです。 私たちが求める者は安息であって、揉め事ではありません。 残念ですが、8割方『NO』です」
ケイブ 「わかりました。 お気遣い、感謝します。 どちらにしても、皆様の手続きが終わってからもう一度お話しをしましょう」
ジーナ 「はい。 ですが、ケイブさん。 宿のこともですが、今回のハンナたちのことも含めて… もし、お話を私たちが断ったとしても、私たちは受けた恩の分は何かの形でお返ししますので、どうか気兼ねなくおっしゃってください」
ケイブ 「ははは、ありがとうございます。 そうですね。 では、私も何か皆さんに“お願い事”を考えておくとしましょう」
ケイブがきれいに笑って話を終わらせると、ほとんど同時に、『セシリアさまをお連れしました』と女性職員が入ってきた。
途端に打って変って、室長室がセシリアの明るい声でいっぱいになる。
ジーナ 「すみません、ご足労いただいて…」
セシリア 「いいのよぅ、何かあったらと思って起きていたのだから、その甲斐あったわ。 ふふっ、わたしの新しい娘はどこかしら?」
ケイブ 「もうすぐ戻ってきます。 写真と生体認証の取り直しで別室にいますので。 セシリアさん、ここと、ここにサインと指印をお願いします」
『はいはい』とセシリアは軽い調子でサインと指印を押した。
セシリア 「もう、これでいいのかしら?」
ケイブ 「はい。 申請書は以上ですので、これが認められて登録されれば、ハンナさんは正式に娘さんになられます」
セシリア 「ふふふっ、嬉しいわ。 ごめんなさいね、ジーナさん。 でも、娘って共有してもいいものですよね?」
ジーナ 「はい。 ははは、おかしな気はしますが、孤独だったあの子にとっては母親が増えるのは良いことだと思います」
ケイブ 「ああ、あと、因みにですが、ウリさんはセシリアさんのお孫さんになりますよ」
セシリア 「わあぁ、そうなるのよねぇ。 かわいい孫ができたのねぇ。 ふふふっ、主人が大喜びするわ」
セシリアが室長室に陽気をまき散らしていると、サトがハンナたちを連れて戻ってきた。
ハンナ 「すみません、セシリアさん」
セシリア 「いいのよう。 わたしはこのために起きてたの。 あなたはわたしの娘にもなったのよ? お母さんが2人いてもいいわよね?」
ジーナ 「そうよ、ハンナ。 良かったわね」
ハンナ 「ありがとうございます。 セシリアさん」
ハンナがお礼を言って、セシリアが両手を広げた。 小柄なセシリアがハンナの両手にすっぽりと収まってハグをする。 そして、優が抱えていた寝起きのウリを引き取って、『わたしはあなたのおばあちゃんになったのよぉ』と抱きしめる。 なんだかわけのわからないウリだが、ウリもセシリアのテンションに当てられて嬉しそうにセシリアの服の匂いを嗅いでいる。
ケイブ 「ははは、いいですね。 さて、これでハンナさんとウリさんの手続きは以上です。 他の皆さんのも合わせて送りますので、明日の正午に皆さんでお越しください。 それまでには、IDも出来上がっているはずです。 もし、遅れる場合はこちらからご連絡を差し上げます」
ジーナたちがお礼を言って、サトが『出口までご案内します』とジーナたちを連れて行った。
表には、アーネとスクとリフォが待っていた。
アーネ 「ハンナ、ようこそ! 私たちのファミリーへ!!」
スクもリフォもハンナに駆け寄った。
ハンナ 「なんだか、不思議。 でも、みんな、ありがとう」
セシリアが『この子もいるわよぉ』とウリをリフォたちに見せながら寄っていく。 楽しそうな声が入り口に響く。
ジーナ 「サトさん。 タクシーを呼んでもらえます? 人数が多いので2台で」
サト 「はい、分かりました。 少々お待ちください」
サトは言い残して、中へかけて行く。
アーネ 「ハンナは私の妹になるのよね?」
ハンナ 「あ、そっかぁ、年齢的には妹になるのよね? でも、それなら、スクとリフォも私よりも年上よ?」
アーネたちの疑問にはセシリアが答えた。
セシリア 「ふふっ、ハンナさんは長女になるのよ。 人族だからわたしたち魔族よりもハンナさんの成長は早いの。 それに、そんなことを気にする意味はないわ。 ハンナさんは人族だから、わたしたちの家族になっても、あなたたちみたいにわたしの羽の下に入るわけじゃないのよ。 いうなれば、ハンナさんは外の娘ね。 で、あなたたちは内の娘なのよ」
それでアーネたちは納得する。 それにハンナが『よろしくお願いします』と頭を下げる。
セシリア 「あっ! でも、ハンナさん。 わたしもお母さんって呼んでほしいわ。 わたしもハンナさんのことを『ハンナ』ってよぶから。 あと、敬語も無しにしましょう?」
ハンナ 「ふふっ、ちょっと、照れ臭いな。 えっと… わかったわ、お母さま。 『お母さん』はもういるから、『お母さま』って呼ばせて」
セシリア 「いいわねぇ、すっごく新鮮。 楽しくなるわぁ」
優がジーナにしみじみと『ミエスさんたちに出会えてよかった』と言って、細い眼をもっと細くする。 ジーナが『あれ? 優? 危ないわよ。 ダンテのオジサンの遺伝子が出てるわ』と笑いながら優の肩を組む。
和気あいあいとセシリアたちがハンナとウリを囲む中、サトが戻ってきた。
サト 「皆さん、どうぞこちらへ。 管理局の車両で宿までおくります」
ジーナ 「あら? いいのかしら? そこまでしてもらって」
サト 「ええ。 全部、責任は室長持ちですので」
若い秘書はあっけらかんと笑って見せた。 ジーナは『やっと寝れる!』と腕をグーッと伸ばしたあと、『あとは、果報を寝て待つのみね』とサトに笑って返した。
サトは車両の鍵を振り回しながら駐車場へ行き、管理局のマークの入ったアトブスを回してきた。
ジーナたちが乗り込んで、アトブスは管理局のゲートを出ていく。
時刻は午前9時を回っていた。
あと1話アップします。