ゼファーの覚悟
「これで守備力は上がっているかしら」
はやての装束は東方の国で作られるニンジャと呼ばれる一族が装備しているものらしい。色は藍色で、首やリスト、心臓部など急所を的確に東方の鋼で守られている、身動きのとりやすい装備品だ。
「ああ、ばっちりさ」
「そう、ところで王様からいただいた装備品は? 結構な値段で売れたでしょう?」
銀貨1枚にもならないと知ったら驚くかな。
「まあね」
「それにしても、買い物上手とは変わったスキルね」
冒険者の世界では商人に騙されることは日常茶飯事だ。命懸けで手に入れた戦利品をぼったくられないために、俺はアイテムの値段はしっかりとインプットしている。
「まぁな」
「ふふっ、ありがとう」
ありがとうか、久しく言われていない言葉だな。元のパーティーではよく買い出しや荷物持ちをしたものだが、誰からも感謝の言葉などなかった。
「お礼にお茶をごちそうしようかしら」
「そうだな。宿屋で休んでいこう。言っておくが変な意味じゃないぞ。夜のダンジョンは恐ろしく危険なんだ」
ギルド直営の宿屋へ手配してもらうと、食堂カウンターで食事をすることにした。木のテーブルに紅茶が運ばれてくる。
「D級、E級のダンジョンでも油断はできない。魔物の眼には夜でも昼間みたく明るく見えるやつもいるからね。それだけじゃないぞ。ごく稀にとても強いモンスターが出てくることもある。夜のダンジョンはそれだけ危険なんだベテランの冒険者でも油断できない」
一通り冒険の危険性を伝えると、俺は少しぬるくなった紅茶を口にふくんだ。
「そうなんだね。ところでさ、あとふたりパーティに足りないわけだけれど、誰かスカウトしてみない?」
やめておけ。自称勇者なんて鼻で笑われるだけだ。それでも、俺も、食堂を見渡していい冒険者がいないか探してみた。
「ねぇ、あの大剣を背負った金髪の人は?」
俺は思わず、口の中の紅茶を吹き出しそうになる。俺を追放したルードじゃないか。隣にいる黒い帽子の賢者はルーフィアだ。知らない顔もあるぞ。
「いやぁ、A級の戦士がこんなに早くみつかると思っていなかったよ」
「あたしの方こそ、短期間であるがA級パーティと冒険できることを嬉しく思う」
メロンみたいなでかい乳の戦士だ。あんな軽装備で仲間を守れるのかと言いたくなる。もうパーティーの一員じゃないけれどな。
「ど、どうしたの? ゼファー?」
「なんでもない。お前はぜったいに俺が守ってやる。生きて帰ってこられるようにしてやるからな」