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【視る】  作者: DUNE
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第九話

9話 新井 大地




「なぁ。お前ちょっと痩せた?」そう聞くと絢は少し俯いて答えた。


「最近ね、ちょっと食が進まないの。」


「ふーん、そうなんだ。俺がまた何とかしてやろうか?」そう言って絢に煙草の煙を吹きかけると、絢は少し考えた風にした。その考えている顔もまた美しい。


4歳年下だが、そうとは思わせない大人っぽさが絢にはある。


大地は絢が可愛くて仕方なかった。考えてみると絢が高校生の頃からこうして逢瀬を重ねているが、どこか自分のものにならない雰囲気と、真に繋がっているのは自分だけだという感覚が気に入っている。それもそのはずだ。罪意識の共有。その罪意識が、二人を真に繋がらせる楔なのだ。


「あのね、大ちゃん。今、本当に許せない奴がいるの。そいつのせいで大学にも行きたくないの。何とかしてくれる?前みたいに。」そう言って、大地の胸の中に絢はおさまった。「前みたいに、か。あの時は勝手に死んでくれたからなー。どんなやつ?そいつ。彼氏か?」そう言うと、絢はかぶりを振った。「違うよ。私には大ちゃんしかいないよ。」嘘であると分かっていても、大地にはこの言葉が愛しく思える。


「そうか。だったら、その件が終わったら俺と結婚するか?」そう言うと、絢は小さく頷いた。今回の事で綿密に話をして、絢は支度をして帰っていった。


宙に浮く紫煙に目をやり大地は余韻に浸っていた。


もしかすると、今回の事で捕まる事もあるかも知れないが、せいぜい五年だろう。


もっと短くなる可能性だってある。絢は万が一そうなっても待っていてくれると言っていたし、捕まる事は怖くはない。昔から非行を繰り返して、何度も捕まったがどれもそれほどの苦は無かった。その経験から、大地には捕まりたくない、という誰しもが持っている思考がスッポリと抜け落ちていた。むしろ見返りを考えれば悪くない話だ。


こういうのは、すぐに行動に移した方が良い。時間が経てば、絢の気も変わるかも知れない。幸い、明日は雨だ。雨は人通りも少なくて良い。証拠も何もかも雨が洗い流してくれる。大地はそのまま眠りについた。


アラームで目を覚まし、窓の外に目をやると予報通りの大雨だ。


大地は雨合羽を身にまとい、引き出しのナイフを手にした。刃の部分はひんやりと冷たくなっている。この冷たさが何とも言えない。


煙草をにじり消し、そのまま大地は絢の大学の近くの公園に向かった。


公園のベンチで座って待っているうちに、大地の体温は雨に奪われた。


雨は本当に何もかも奪っていく。ふと、以前の事を思い出した。


死体が雨に打たれて、血が流れていく。血液も命も、雨に奪われた。


あいつも間抜けな奴だったな。


そんな事を考えていると、向かいの通りに傘を差した男の姿が見えた。


大地はゆっくりと腰を上げて、その男の方に向かっていった。

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