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【視る】  作者: DUNE
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第八話

8話 菊田 麻美




「馬鹿にするのもいい加減にして!!」怒声が講義室に響き渡った。


麻美は一体何が起きたのかと振り返ると、そこには高橋絢と木戸政宗がいた。罵声を浴びせられるだけ浴びせて、高橋絢は踵を返して、どこかに行ってしまい木戸政宗は完全に参ってしまった様だ。


麻美は不思議な組み合わせだなぁ、と、その様子を見ていた。高橋絢はともかくとして、木戸政宗は誰かと争う様なタイプには見えない。そんな二人が一体何の話をしていたのだろう。妙に引っ掛かりはしたが、見て見ぬふりで教室を出た。


このことを誰かに言いたいが、楓の禁止ワードの中に【高橋絢】が入っているので楓には話すのはよそう、と考えていると、間が良いのか悪いのか航平がやってきた。


「ねぇねぇ、今の声何?ケンカ?」こういう何にでも首を突っ込もうとする所は悪い所なのだが、これもなんとかしたいという優しさからきている事を知っているだけに憎めない。「うーん、ケンカっていうより絢先輩が一方的に木戸さんに怒鳴ってたって感じかな。何でかまでは知らないけど。不思議な組み合わせじゃない?あの二人って接点あった?」そう航平に訊くと、かぶりを振った。「確かに不思議な組み合わせだ。巧なら何か知ってるかな?それよりさ、お腹空いたから食堂行こう。」そう言って航平は、はにかんだ。航平は今でこそ明るいが、一時期どうしようもない程に航平は落ち込んでいた。そんな航平を見ている事が本当に辛く、何とかしてあげたい、守ってあげたい、その気持ちは今も変わっていない。元の航平に戻るまでずいぶん時間がかかったのだが、あの時、巧と二人で何とかする事ができて本当に良かった。巧には本当に感謝しているし、航平がこれ程までに信頼しているのも頷ける。そんな事を考えていると、麻美に一つの考えがよぎった。


食堂に着いてもその考えをどうしても拭い去る事が出来なかった。


「ねぇ、最近、巧君と会ってる?」航平は若干すねた様子でかぶりを振った。「最近は会ってないよ、って言っても校内では顔を合わせるけどさ。朝は朝練があるって言うし。帰りも部活で全然遊んでくんねーの。」この言葉で先ほどの不自然な組み合わせが一本の線で繋がった。「部活頑張ってるんだ。そっか。」


「え、なになに?そんな怖い顔して。なんかあった?」そう言われてはっとした。


「あ、ううん。楓もね、最近会えてないって言ってたなーって。それだけ。」そう言って、この話を遮った。考え事が表情に出てしまっていたのか。


「あ!噂をすればなんとやら。巧だ!おーい、こっちこっち。」後ろを振り返ると、こちらの席に巧がやってきた。「相変わらず仲いいね、二人で昼食?麻美ちゃん、久しぶりだね。」麻美は愛想笑いをして、頭を下げた。「ところで、さっき政宗先輩と絢がなんか言い争いしてたね、麻美ちゃん講義同じでしょ?なんでか知ってる?」そう言われて麻美はかぶりを振った。この言い方は、もう近くで見ていた言い方だ。だとしたら、何故彼は二人の間に入らなかったのか、もはや当事者である事は明白だ。


そう考えると、麻美には巧が何かを企んでいる様にしか見えなくなってしまった。

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